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2022年02月01日09:00

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日本の心60〜殺人刀が活人刀に:柳生但馬守宗矩

 戦国時代が終わり徳川時代に入ると、武士に求められるものは、戦場における戦闘者の心構えから、次第に治世のための人倫の実践へと変化していきました。それとともに、刀もまたその存在意義を変えていきました。単なる武器としての性格から、それを帯する人間の心身鍛練の道具へとその役割を移すようになったのです。
 こうした時代に、新しい剣法を開いたのが、柳生新陰流の開祖・柳生石舟斎でした。彼は無刀流という極意に達し、「五常の剣」という精神性の高い剣法を説くに至りました。それを受け継いで発展させたのが、五男の柳生但馬守宗矩(たじまのかみ・むねのり)です。
 柳生家は徳川家康に取り立てられ、宗矩は1万2千石を与えられ大名となります。宗矩は家康・秀忠・家光の三代の将軍に、剣術指南役として仕えました。息子には、十兵衛三巌(みつよし)があり、やはり優れた武芸者として名を轟かせています。
 柳生新陰流は、将軍家だけが学ぶお留め技とされ、一般への伝授は禁じられていました。その特徴は、相手の剣を殺す技、動きを止める技にあります。相手を切るのではなく、相手の剣の働きを無効にしたり、敵へ詰め入って動きを封じたりするのです。相手の小手や竹刀を制する形が多く、斬り殺すことを意図したものは、原則としてないとされます。
 また、心のあり方を非常に重視していることも特徴です。柳生新陰流の極致を説いたとされる「本識三問答」には、「世間の剣術者は、ただ勝つことを急ぐ。そのために、早く打ちたがり、心も技も乱れて結局容易に勝つことができない。柳生流は、無理に勝つことを急がない。早く打ちたがらない。道理に叶い、法理にしたがって動くので自然に勝つのである。つまり心は平易につながるのだ。他流と違うのはここである」とあります。
 このように、心のあり方が重視されるのは、宗矩が沢庵禅師に師事し、剣の心諦を学んだことに多くを負っています。沢庵が宗矩に与えた『不動智神妙録』には、「無心之心」ということが繰り返し、述べられています。「無心の心と申すは、…固(かたま)り定(さだま)りたる事なく、分別も思案も何も無き時の心、総身にのびひろごりて、全体に行き渡る心を無心と申す也。どこにも置かぬ心なり。石木かのやうにてはなし。留る所なきを無心と申す也。留れば心に物があり、留る所なければ心に何もなし。心に何もなきを無心の心と申し、又は無心無念とも申し候…」
 宗矩は、沢庵に学んだ心法を、自身の剣法に採り入れました。時代は天下泰平の時代です。父石舟斎の思い描いた仁義礼智信の五常を本とする「五常の剣」が、活きる時代です。宗矩は、人を殺す「殺人刀(せつにんとう)」ではなく、人を活かす「活人刀(かつにんとう)」を追求していきました。それは剣法の域を越えて、天下国家を治める兵法へと発展しました。
 宗矩は寛永9年(1632)、『兵法家伝書』を著しました。宗矩は言います。「古にいへる事あり、『兵は不祥の器なり。天道之を悪(にく)む。止むことを獲(え)ずして之を用ゐる、是れ天道也』と。…其故は、天道は物をいかす道なるに、却而(かえって)ころす事をとるは、実に不祥の器也。しかれば、天道にたがふ所を即ちにくむといへる也。しかれど、止むことを得ずして兵を用ゐて人をころすを、又天道也と云ふ…」と。彼はさらに続けて、「一人の悪をころして万人をいかす。是等誠に、人をころす刀は、人をいかすつるぎなるべきにや」と力説します。
 兵法(武力)を行使することは、天道(自然の理法)にそむくが、一人の悪人のために万人が苦しむならば、一人の悪人を殺し、万人を救うこともやむを得ない。これが天道であり、すなわち「殺人刀」が同時に「活人刀」となる「一殺多生」の理であると、宗矩は武力の役割を意義付けます。
 宗矩はさらに、次のように言います。「治まれる時乱をわすれざる、是兵法也。国の機を見て、みだれむ事をしり、いまだみだれざるに治むる、是又兵法也」と。
 宗矩の言うことを、現代の国際関係に置き換えると、彼は国際関係を見て、戦争が起こる可能性を知り、戦争になる前に外交で解決することもまた、軍事であると言っています。言わば、戦わずして勝つことです。これは、孫子の兵法において、最上とされていることです。
 人間の社会から戦いは、まだまだ容易になくならないようです。戦いから身を守るには、武力が要ります。武力をもって相手の攻撃を抑止し、いかに戦いを避け、平和を維持するか。また、武力を極力用いぬようにし、行使するときは最小で最大の効果を生むこと。これは武の奥義を究めることによってのみ、可能なことです。
 日本の武士道は、戦いの中から生まれ、戦いを避け平和を維持する道へと深化しました。その平和の維持のためには、武を尊び、備えを怠らない。こうした武士道の思想には、核時代の政治・外交・軍事にも通じるものを見出すことができるでしょう。

 次回に続く。

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