１枚目 エゴン・シーレ「家族」1918
２枚目 木の葉のフレディ ファンブログより
３枚目 ポール・デルボー（1897ー1994） 以上、ネットから
著者は1928―2014、山形県生まれ、農学校生だった時に、ハイデガーを読むために山形大学に転校した。哲学者。
マルティン・ハイデガーは1889―1976。ドイツ南部の小村に生まれる。教会の堂守の息子だったことで神学者・牧師を目指したが、大学時代に哲学科へ転じた。
第１章 思想の形成と背景
�．魯ぅ妊�ーはドストエフスキーやニーチェを愛読していたが、波乱万丈だった彼らと違って平凡な大学教授の一生だった。
「探求の同伴者は若きルター、模範はルターの嫌ったアリストテレス、刺激を与えられたのはキルケゴール、現象学のフッサールが私の眼を開いてくれた。」と自身で言っている。
�▲魯ぅ妊�ーの弟子だったレーヴィットはハイデガーの内面にあった葛藤を指摘している。
受けた教育はイエズス会だったが、反抗心からプロテスタントになった。
受けた訓練はスコラ哲学だったが、経験に基づいて実存的プラグマティストに。
伝統によっては神学者であるが、研究者としては無神論者である。
キルケゴールのように実存的だが、ヘーゲルの体系意志を持っている。
➂敗戦体験
ウィトゲンシュタイン（父はウィーンのブルジョアでユダヤ人）とハイデガー（父は田舎町の教会の堂守で、貧しい樽つくり職人）
この同世代であるが社会階層の異なる二人の言語や世界の限界を突き破ろうとする形而上学的衝動の動機として、第一次大戦の敗戦体験があったとしか考えられない。
著者の木田元がハイデガーに惹かれドイツ語で読みたいと、山形大学農学部から東北大学に編入したのも太平洋戦争の敗戦体験（一家は満州に住んでいたが、彼自身は江田島の海軍兵学校在学中に原爆を目撃した）だった。
�づ�時の一連の壮大な黙示録の一つである
エルンスト・ブロッホ「ユートピアの精神」
シュペングラー「西洋の没落」
カール・バルト「ロマ書」
ヒトラー「わが闘争」などに並ぶもの。
�チ粟さ�末の印象主義は、（陽気な）南方的・ラテン的だった。
20世紀初頭以来のドイツ表現主義は（ムンクやエゴン・シーレなど）北方的・ゲルマン的性格（の陰鬱さ）が目立つが、「存在と時間」もリルケ、トラークルなどと影響しあって第一次大戦後ドイツ語圏に特有の思想的雰囲気のなかで生まれた。
第２章 存在と現存在
「存在と時間」は、存在論研究の準備作業で終わってしまった挫折の書である。しかし、人間存在（現存在、実存）の分析、それも事実的に存在し、悩んだり苦しんだり絶望したりする、この私の存在を分析しようとする企てが人々の心をとらえたのである。感動した人々は、ハイデガーを実存哲学者だと理解（誤解）したのだった。
ハイデガーの真意は、あくまでもアリストテレス以来の存在論哲学史を位置づけ、そして終わらせ、新しい存在論（ソクラテス以前の思想に基づいて）を提唱することだった。
１）存在について
� 嶌澆襪箸気譴襪△蕕罎襪發痢廚髻◆嶌澆襪發痢廚燭蕕靴瓩討い襦嶌澆襦廚箸いΔ海箸呂匹ΔいΔ海箸�を問う。このような哲学的問いへの動機は、「驚き」であると、プラトンやアリストテレスは述べている。
★海風：ハイデガーは後に、ソクラテス以前の存在論に従って、存在とは生成だとしている。鴨長明「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」も、生成的存在論とみてよいのではないか。
�▲▲螢好肇謄譽垢蓮�哲学・形而上学以外の他の学問とは、存在者を全体として考察せず、ある部分を抽出して、それに付帯する属性を研究するだけである。つまり生物学とか金属学、経済学などである。
➂ウィトゲンシュタイン「神秘的なのは、世界がいかにあるか（・・・デアル）ではなく、世界がある（・・・ガアル）ということである」と言う。
ハイデガー「不安の無の明るい夜の中で、存在者としての存在者の開示がはじめて生起きする。」あるいは「ひとり人間だけが、存在の声に呼びかけられ、存在者が存在するという驚異を経験するのである。」
「明るい夜」とはヘルダーリンの詩の言葉で、明るく照らし出された闇を意味する。
★海風注：「明るい夜」と言われると、裸婦が白夜を歩くポール・デルボーの絵を思い出す。確かに、目を見開いていて、内心の不安が感じられる。それに幽霊のようにも見える。
２）現存在（実存、人間）
�じ渋減漾平祐屐砲和減瀘参鬚両譟並減澆箸い�視点の設定が行われる場）である。
現存在が存在を了解した時のみ存在はある。
他方で、現存在の存在が時間性であること。つまり、現在のうちに差異化が起こり、未来と過去という次元が開かれてくる時間化の働きが現存在の存在を成り立たせているのである。
（ただし）存在了解は、現存在のなかで起きたことではあるが、自分が行ったのではなく、自分を越えた何者かによって生起したとしか思われずに、畏敬の念や驚きを感じざるを得ないのである。
★海風：存在が先か、現存在（人間）が先か、という問題がある。現存在が存在に気が付いて驚くのだから、存在が先だと思う。
�テ以�は環境に緊縛されていると、マックス・シェーラー（フッサールの弟子で、ハイデガーの兄弟子）が述べている。
現存在は、世界を抽象化（シンボルの体系化）して、生物学的環境を超越する（自身を引き離す）。
�Α嵋寨菘�時間性」 現存在が己自身の死という、もはやその先にいかなる可能性も残されていない究極の可能性にまで先駆けて、そのうえで己の過去を引き受け直し、現在の状況を生きるというように時間化する。
「非本来的時間性」 己の死から目をそらし、不定の可能性と漠然とかかわりあるような在り方。
★海風注：このように分類すると、一生の大部分が非本来的だとならないか。ニーチェの超人論を引き継いだのかもしれないが、その結果、存在と現存在との関係が付けにくくなって、「存在と時間」を完結させられなかったのではなかろうか。
むしろ、マルセル・プルースト「失われた時を求めて」の回想が「本来的」と見て良いのでは。だったら、人間は（現存在は）回想しながら前へ進んでいる。藤村「昨日またかくてありけり; 今日もまたかくてありなむ 」である。また、映画「Back to the future」でもある。
これを「非本来的」と見たら、「本来的」は切腹覚悟で毎日生きている武士しかいなくなる。
第３章 ハイデガーの存在論哲学史
�．愁�ラテス以前
存在は生成するもの。
�▲▲螢好肇謄譽垢梁減瀟�
「本質存在」 あるものが何であるか 「・・・デアル」
「事実存在」 あるものがあるかないか 「・・・ガアル」
例えば、陶工が粘土をこねて、理想の形（本質存在・イデア）を想像して壺（事実存在）を作る。つまり、存在＝現前性（作られて目の前にある）。
➂中世スコラ哲学はアリストテレス（あるいはプラトン）と同様の存在論。
神によって創造されたものだけが現実に存在することになるので、「存在」が「（神によって）作られてあること・被制作的存在」として解される。
�ぅ魯ぅ妊�ーはソクラテス以前に戻って、存在は生起するものとした。
著者の木田は「古事記 万物は葦芽（アシカビ）の萌えあがる如くに成る。」と同じだとする。丸山真男は「歴史意識の古層」において西欧の創造は「作る」、日本の創造は「なる、産む」であるとした。日本の考え方の方が、一般的であり、古代ギリシャでも同じだった。
ハイデガーの発想は当時評判の高かったヘッケル「ダーウィン、ゲーテ、ラマルクの自然観」1882年 に影響されているという。
★海風：まとめ 存在と実存の関係について
�’亢�
俳句では、「作った」より、「得た」の場合の方がインパクトが強いし評価もされる。つまり、存在は「制作」されたものではなく、初めにあり、さらに生成・拡大したのであって、俳句はそのことの驚きや感動を実存が「得た」結果である。
杉田久女「谺して山ほととぎすほしいまま」の「ほしいまま」は感得したものであるとのことである。ほととぎすは夏の季語で、夏の山並みを謳歌しているのであろう。
芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」の「閑かさ」「しみ入る」も、後で「得た」のだと思う。
私海風の句であるが、「思い出すたびに輝く薄かな」は運転中に道路わきで夕照に輝いていた薄が目に入った。薄は秋の季語、「思い出すたびに」は後で「得た」のである。確かに「思い出した」からできたのだった。
�▲汽襯肇襦嶝凖如�
サルトルは、石や木の根を見ると吐き気がするだの、森が押し寄せてくる（マクベスみたいだが、確かに土石流はある）などと「存在」を毛嫌いしている。日本の季節の中に存在するものへの賛歌である俳句と正反対であると言わねばならない。もっともヴォ―ヴォアールと一緒に来日したときに、富士の樹海を見て、これだけの杉の森を見たのは初めてだと言って感動していたので、「存在」自体を嫌っていたのではないかもしれない。
多分、博物館に飾られている名士たちの肖像画に反応しているので、自然物を比喩に使っただけなのだろう。
しかし、いずれにしろ、サルトルでは実存が存在に優先するのであって、実存主義はヒューマニズムであると主張していた。その実存は社会変革への参加が要請されるので、逆説的にテロリズムもヒューマニズムだということになる。
一方、カミュ「異邦人」は、その実存こそが深層心理に動かされて殺人事件（過剰防衛だった）を起こした。本人は深層心理においてアルジェリア人を過剰に恐れ憎んでいたことに気が付いていない。それで、何度もピストルを打ったのはなぜかと尋問されたとき、太陽がぎらぎら照り付けていた、などと答えて、イライラすると人を殺す殺人鬼にされてしまった。
処刑の当日の夜明け前、満天の星を見て、その「偉大な」無関心に心を癒されて、罪を償うために喜んで処刑される決心をする。存在が実存の苦しみを救ったわけで、後のサルトルとの対立の理由だと思う。
プッチーニ「トスカ」のアリア「星は瞬きぬ」を思い出すが、翻訳を見れば「絶望の中で僕は死ぬ」との趣旨の歌だった。
➂レオ・バスカーリア「葉っぱのフレディ 命の旅」
大きな木の太い枝に生まれた、葉っぱのフレディは近くの葉っぱのダニエルと親友で、物知りのダニエルから、いろいろなことを教わりながら、季節が変わるごとに景色が変わるのを楽しく過ごしていた。
秋が来ると、緑色の葉っぱたちは一気に紅葉して、ますますきれいになるのだが、冬が近づいてくると、葉っぱたちは一枚、一枚と落ちてゆく。
それが死ぬということだと教えてくれたダニエルも落ちて行って、とうとうフレディも落ちてゆく。
地面に落ちて上を見上げたフレディは初めて自分のいた巨木の全体を知ることになった。自分もこの偉大な存在の一部だったんだと悟ったフレディは静かに目をつむった。
ここでは実存が存在の一部であったことを知って救われるのだが、「異邦人」と同じ存在の理解だと思う。
ホワイト「シャーロットの贈り物」も同様の死と生の循環を教える童話である。のんきに生きていた子豚が、いずれ肉にされると知って苦しむ。同じ小屋に住んでいる蜘蛛のシャーロットが、曲芸を覚えれば死ななくて済むと教えてくれ、シャーロットの指導に従ったことで飼い主を驚かせ、これは種豚にして生かし、曲芸を見世物にもすることにした。
子豚ののんき暮らしが再開したが、やがて冬が近くなってシャーロトは卵を産み、子豚に告げる。自分はもうすぐに死ぬ。この卵は春になれば生まれると。子豚は驚き悲しんだが、シャーロットの言ったとおり、春になって蜘蛛の子が生まれ風の乗って散らばって行った。
命は繰り返し生成する。実存はその乗り物なのである。
�ぅ魯ぅ妊�ーが影響を受けたという進化論学者のエルンスト・ヘッケル（1834―1919）については、「宮沢賢治の詩の世界ブログ」によれば、宮沢賢治「青森挽歌」において、「ヘツケル博士！／わたくしがそのありがたい証明の／任にあたつてもよろしうございます」として登場する。
彼の「個体発生が系統発生を反復する」という説（反復説）そのものは、アリストテレスにまでさかのぼるものだが、当時の生物学界の最高権威と見なされていたヘッケルが、これを進化論という立場から主張したことで大きな反響を呼んだ。
ハイデガーはヘッケル説を、存在を生成と見る根拠としたのだと思う。
宮沢賢治は人の魂は、新しく生れ出る赤ん坊の魂となって循環すると信じ、その実験台になっても良いと思っていたのだろう。海峡を渡るたびに、とし子が呼べば落ちていくと耳を澄ましていたらしいのである。
ログインしてコメントを確認・投稿する