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2021年06月30日10:10

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仏教174〜アメリカ仏教の限界

●現代社会の特徴とアメリカ仏教(続き)

5.個人化

 ケネス・田中は、現代社会は「個人化が進んだ結果、共同体の重要性が弱まってきた」とし、それによって、社会における心の不安と個人の孤立化が「自己のアイデンティティの不安定を生み、自分が本当は何者であるかが不明であるという人々を増やしてきた」という。「その結果、多くの人々は『真実の自己』を求めているのである」と述べている。また、欧米の仏教はそうした「人々の精神的なニーズに応えてきた」として、その点を現代社会で受容されやすい理由の一つとしている。
 私見を述べると、現代社会の個人化とは、家族、親族、村落、地域等の共同体が解体することによって進んできた現象である。共同体から離脱した個人は、自由を得るとともに不安と孤独感を抱える。そうした個人に安心や新たな帰属の場所を与えることは、宗教の機能の一つとなっている。この機能は、仏教に限らず、他の宗教にもあるものではある。問題は、従来の宗教が多くの人々を、自己の本質ないし真の自己の探求、発見、開発、実現に導くことが出来ているかである。一定程度の機能を発揮してはいても、自己の本質ないし真の自己の開発、実現に導くまでには至っていないと私は見ている。言い換えれば、悟りとしての「目覚め」まで、諸個人を導くことは、できていないということである。詳しくは、「信じる宗教」と「目覚める宗教」の項目に書いたところである。
 
 以上、ケネス・田中が現代社会の特徴としてあげる平等化、理性化、多様化、世俗化、個人化とアメリカ仏教の関係について、私見を述べた。この考察によって、アメリカ仏教の限界が、より明確になったと思う。

◆アメリカ仏教の限界

 アメリカ仏教の限界について、これまで各項目に私見を書いてきたが、それを補足する形で、アメリカ仏教に関するまとめとしたい。
 キリスト教の腐敗・堕落に幻滅を感じた欧米人の中には、科学と矛盾せず合理的に見える仏教に魅力を感じる人々がいる。キリスト教のように教会から与えられた教義を信じ、儀礼に参加するのではなく、自らメディテーションを実践して悟りを目指すアメリカ仏教は、彼らにとって受け入れやすいものなのだろう。
 今日アメリカでは、仏教のメディテーションの心理的・医学的効果が評価され、メディテーションを実践する人が増えており、今後も実践者の増加が予想されている。だが、仏教の教えにはほとんど実証が伴っていない。また簡略化された実践によって悟りを得るのは、至難である。もし仏教のメディテーションが真に効果的なものであるならば、仏教は、古代にインドで社会の隅々まで広がり、インド文明は仏教文明になっていただろう。実際は、仏教は、ヒンドゥー教の影響を受けてヒンドゥー化を続け、13世紀以降、インドでは消滅してしまった。また、それまでの過程において、仏教の中で法滅思想や末法思想が現れ、仏教が廃れることを説いてきた。わが国では、平安時代中期から末法思想が流行し、1052年(永承7年)から末法に入ったとされた。そして、末法の時代の信仰のあり方として、浄土信仰や法華経信仰が盛んになったという歴史がある。アメリカに仏教を伝えた伝道師たちは、こうした仏教の歴史をアメリカ人によく伝えることなく、禅や密教等の瞑想法を教え広めたのだろう。そのため、仏教の法と力の限界が目立ちにくい状態になっているものと見られる。
 チベットでは、8世紀後半にインドから密教を取り入れ、民族宗教のボン教と習合したチベット仏教が生まれた。チベット仏教では、ゲルク派のダライ・ラマが宗教的な最高指導者であるとともに君主となって、宗教・政治・文化をすべて統率する体制が続いた。だが、チベット仏教は、20世紀半ばから共産中国の侵攻・支配を受け、ダライ・ラマ14世が国外に亡命し、多くの僧侶は海外で活動せざるを得ない状態が続いている。チベットでは、中国共産党による仏教への弾圧、僧侶の虐待・殺害、民族浄化が強行されている。そこには、仏教の法と力の限界が強く現れている。仏教では、共産主義から国家と人民を守ることができないのである。これは、チベット仏教の問題だけというだけではなく、仏教全体の問題である。アメリカ仏教では、チベットへの支援や中国共産党への抗議が行われているが、チベットの悲劇は、仏教そのものの限界と広く認識されてはいないようである。
 やがてアメリカの人々は仏教の法と力の限界に気がついて、仏教を超えたものを求めるようになるだろう。

 次回に続く。

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