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2021年06月17日10:15

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仏教168〜宗教とスピリチュアリティ

●宗教とスピリチュアリティ

 アメリカでは、1960年代以降、一部の人々の関心が宗教からスピリチュアリティへと移行したといわれる。この変化は、実態としては、キリスト教から離れた人々が、東洋宗教に関心を向け、禅、ヨーガ等を実践するようになったという現象である。この変化が、ある宗教から別の宗教への改宗ではなく、宗教からスピリチュアリティへ、すなわち宗教から、非宗教的でスピリチュアルなものへの移行として、多くの人々は意識している。このことについて、私見を述べる。
 まず、ここでいう宗教は、religionのことである。religion は、ラテン語の religio に由来する言葉である。religio は「再び(re)」「結びつける(ligio)」を意味する。再結合すべき対象は、全体としての宇宙や存在の根源、自己の本質等と考えられる。
 宗教について、様々な学者が定義を行ってきた。私は、拙著『超宗教の時代の宗教概論』で、宗教を「人間や自然を超えた力や存在を信じ、それに関わる体験を共有する集団によって形成された信念と象徴の体系」と定義している。このように定義し得る宗教には、独自の構造と機能がある。宗教の構造的要素には教義、組織、実践、体験がある。また、宗教は個人及び社会に対する様々な機能を持つ。宗教は、社会的な文化現象であるとともに、人間に内在する自己実現と自己超越の欲求に根差す心理的現象であり、生と死の本能が働く生命的現象でもある。詳しくは、上記の拙著をご参照願いたい。
 さて、キリスト教から離れた人々が、東洋宗教に関心を向け、禅、ヨーガ等を実践するようになったという現象を、宗教からスピリチュアリティへの関心の移行と理解するとしても、仏教、ヒンドゥー教、道教等もまた宗教である。キリスト教ではない別の宗教である。キリスト教を宗教とし、それ以外の宗教を宗教とは異なるもの、非宗教ととらえたところに、リリジョンとは別にスピリチュアリティという概念が生じたと考えられる。
 スピリチュアリティ(spirituality)は、スピリット(spirit)をもとにした言葉である。スピリットは、日本語では「霊魂」「精霊」「精神」等と訳される。これに対し、スピリチュアリティは「霊性」「心霊性」「精神性」等と訳される。霊という文字が入ると、霊が見えるとか、霊界のことがわかるという意味での霊的なものが連想されやすいが、スピリチュアリティという英語は、自己の本質、真の自己に関わる言葉として使われている。すなわち、スピリチュアリティは、自己の本質ないし真の自己、その探求、発見、開発、実現、またそのための方法を意味する。
 仮に自己の本質、真の自己をスピリットと呼ぶならば、スピリチュアリティとは、その意味でのスピリットを探求、発見、開発、実現することである。ここで重要なことは、近代西洋的な自我、特に独我論的な自己とはっ正反対のものとして、スピリットが考えられていることである。スピリットは、個々人のスピリットが独立して存在するのではなく、宇宙的な全体性、統一性、連結性における一部として想定されている。スピリットとそれを部分とするものとの関係は、仏教における法身仏と衆生の仏性、ヒンドゥー教におけるブラフマンとアートマン、哲学における個人精神と宇宙精神の関係に相当する。
 西方キリスト教の主流派では、神と人間の関係は創造主と被造物の関係であり、神の超越性、神と人間の非連続性が強調される。だが、非主流派の中には、神と人間の合一を目指すものがある。それは、キリスト教神秘主義の系統で受け継がれてきた思想である。1960年代以降のアメリカにおける宗教からスピリチュアリティへの移行は、キリスト教の中での主流派から神秘主義への移行とはならなかった。キリスト教から離れた人々は、東洋宗教にスピリチュアリティを見出し、東洋宗教のメディテーションを実践することによって、自己の本質ないし真の自己の探求、発見、開発、実現を目指す道に進んだ。
 人々がキリスト教神秘主義にスピリチュアリティを求めるのではなく、キリスト教から離れることによってスピリチュアリティを求めることになったのは、なぜか。科学的な知識が発達した世代にとって、キリスト教における神による天地や種、人間の創造の教義を信じられなくなったことが大きな理由だろう。これに加えて、キリスト教の教会の腐敗・堕落への幻滅、キリスト教の救済力のなさへの失望が挙げられるだろう。そして、彼らにとって、キリスト教は、もはや自己の本質ないし真の自己の探求、発見、開発、実現の場ではないと感じられたためだろう。

 次回に続く。

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