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2021年06月14日10:11

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イスラエル・ハマス紛争の複雑な実態1

 本年5月10日から21日まで、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配しているイスラーム教原理主義組織ハマスが戦闘を繰り返した。軍事衝突の発端は、東エルサレムのイスラーム教聖地にある礼拝所へのパレスチナ人の立ち入りを、イスラエルが4月中旬から制限したことだった。5月10日には、反発した多数のパレスチナ人がイスラエル治安部隊と衝突し負傷した。その報復としてハマスがロケット弾の攻撃を始めた。
 一昨年、米トランプ前大統領によってイスラエルと一部のアラブ諸国(アラブ首長国連邦、パーレーン)の歴史的な和解が実現した。この和解が中東に安定をもたらすことが期待されたが、イスラエルとハマスの軍事衝突が関係改善の流れに水を差す格好になった。
今回のイスラエル・ハマス紛争について、わが国の主要メディアの多くは、イスラエルが強大な軍事力でパレスチナ人を攻撃して多くの死傷者を出していることを強調して報道した。いわば、イスラエル=強者にして悪玉、パレスチナ人=弱者にして善玉という扱いである。この扱いには一理あるが、しかし実態はそう単純ではない。そのことを書きたいと思う。
 最初に私のイスラエル・パレスチナ問題の見方を述べると、私はイスラエル建国後のイスラエルの対パレスチナ政策に批判的である。だが、パレスチナ側にも問題があり、特にイスラーム教原理主義組織ハマスの対イスラエル強硬路線が問題を複雑にしていると見ている。
 イスラエルの建国とその後の中東問題については、拙稿「現代の眺望と人類の課題」に書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09f.htm
 あらましを書くと、第2次世界大戦後、1948年5月、イスラエルは国境を明示しないまま独立を宣言した。それに抗議する周辺アラブ諸国との間で、第1次中東戦争が起こった。イスラエルは圧倒的な勝利を収めた。49年4月の休戦協定では、イスラエルは国連分割案が示す範囲を超えて、パレスチナ全土の80パーセントを支配した。
 47年の国連決議では、エルサレムは、国連永久信託統治区に位置している。しかし、第1次中東戦争の結果、49年のイスラエルとトランス・ヨルダンの休戦協定で、エルサレムは東西に分割された。これにより、国連決議は守られなくなった。
 その後、3次に渡る中東戦争を経て、1978年9月、カーター米大統領の仲介で、エジプトのサダト大統領とイスラエルのベギン首相が米国のキャンプ・デイヴィッドで会見し和平合意に達した。それによって、イスラエルとアラブ諸国、ユダヤ人とパレスチナ住民は、ようやく和平への道を歩みだしたかに見えた。しかし、サダトはイスラエルとの融和路線に反対する者によって、81年に暗殺された。その後、なお和平への道は遠く、軍による攻撃とテロの応酬が今日も日常的に繰り返されている。
 1991年(平成3年)には、湾岸戦争が起こった。湾岸戦争は、それまでの米ソ冷戦による二極的な世界秩序に替わり、アメリカ主導の一極的な世界秩序維持の動きの出発点となった。米国の中東での軍事行動は、2001年(平成13年)9月11日の米国同時多発テロ事件への報復として行われたアフガニスタン戦争、またそれに続く2003年(平成15年)のイラク戦争という形で繰り返されることになった。
 湾岸戦争において、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長は、イラク支持を打ち出して国際的に孤立した。そのため、湾岸産油国からの援助が受けられなくなり、パレスチナは経済危機に直面した。パレスチナ人の多くは当時レバノンに移住していたが、1993年(平成5年)にはパレスチナの暫定自治の基本合意が成立し、イスラエル軍が占領しているガザ地区とエリコ地区での自治が認められた。パレスチナの主要組織であるPLOは、テロ行為を放棄し、パレスチナの代表として認知されることになった。パレスチナでは、1987年イスラーム教原理主義組織ハマスが創設された。ハマスは対イスラエル強硬路線を鮮明にしており、イスラエルとの戦いが執拗に繰り返されている。
 私は、概略このように見ている。
 さて、今回のイスラエル・ハマス紛争の背景について、九州の地方紙・西日本新聞が2020年8月18日の社説で本件を解説している。米トランプ前大統領によってイスラエルと一部のアラブ諸国の歴史的な和解が実現した後の記事である。
 「イスラエルはアラブ諸国では隣国のエジプトとヨルダンとしか国交がなく、ペルシャ湾岸の国とは初の国交樹立となる」(註 アラブ首長国連邦[UAE]との国交樹立のこと)
 「70年に及ぶ対立を乗り越え、和平を目指すのであれば画期的な合意と言える。だが、合意に至る背景や現状を考えると、決して手放しで歓迎できるものではない。新たな火種を抱えているからだ。
 合意には、核開発を巡り米国と対立する、イスラム教シーア派の大国イランに対する包囲網を作る狙いが明らかにある。
 11月の米大統領選で再選を目指すトランプ氏はイスラエルに肩入れし、サウジアラビアやUAEなどと親密な関係を築いてイランへの圧力を強めてきた。今回の仲介もその一環だ。
 一方、イスラム教スンニ派のアラブ諸国にとってイスラエルはイランを敵視する点では利害が一致する。つまり合意はアラブ諸国が『敵の敵は味方』とばかりに戦略を転換する起点になり得る。バーレーンやオマーンが合意支持を表明しており、追随する動きも予想される。
 これでは対立の構図が変わるだけではないか。イランを巡る対立は深まり、中東地域の緊張を高めるばかりである」
 「さらに懸念されるのはパレスチナ問題が置き去りにされかねないことだ。この問題こそ、アラブ諸国がイスラエルを敵視する大義だったはずだ。3カ国の共同声明には、イスラエルによる占領地ヨルダン川西岸の併合計画について一時停止を明記しているにすぎない。パレスチナ側が猛反発するのは当然だ」

 次回に続く。

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