仏教１６５〜アメリカ仏教の特徴

●アメリカ仏教の特徴

　アメリカ仏教には、アジアの伝統的な仏教にはなかった、新しいアメリカ的な特徴がある。仏教のアメリカ化が起こったのである。私の整理によると、ケネス・田中は、アジアの伝統的な仏教と比較して、アメリカ仏教の特徴として、次の５点を挙げている。平等化、メディテーション中心、社会参加、超宗派性、個人化である。

１．平等化

　アメリカ仏教では、出家者と在家者及び男性と女性の平等化が進んでいる。
　アメリカ仏教は、アジアの仏教における出家者優位の伝統を覆した。田中によると、アメリカでは、日本より、出家者はごく少なく、稀である。指導者のほとんどが家庭を持っている。その原因は、第一に、アメリカでは、出家したとしても周りからの尊敬や物質的サポートは受けられない。多くの仏教センターは小規模であり、出家者を支えるには、信者の数が少なすぎるからである。第二に、アメリカに渡った仏教自体が出家主義ではなかったことがある。禅の鈴木俊隆、チベット仏教のトゥルンパは結婚しており、テーラワーダ系統のインサイト・メディテーション指導者は出家者ではない。第三に、アメリカでは、仏教に自由な生き方を求める人が多く、彼らは厳しい戒律に束縛される出家者には抵抗を感じる。第四に、アメリカでは、出家制度自体が家庭の否定と見られる。そう見られることは、家庭を重要視するアメリカ社会では好ましいことではない。仏教を実践する者が自分が出家することを望まない。また、一般の人々が出家者を好まない。
　田中によると、これらの４点が出家者と在家者の平等化が進んでいる理由である。
　次に、男性と女性の平等化について、田中は、アジアの仏教では男性優位であるのに対し、アメリカ仏教では女性が指導的立場に多く存在すると報告している。これは、アメリカの社会では、男女平等があるべき姿とされ、アジアの社会に比べて女性の社会的な地位が高いことと関係する特徴だろう。

２．メディテーション中心

　アメリカ仏教では、教義や儀式よりも行（プラクティス）が重視される。そして、メディテーション中心であることが、アメリカ仏教の特徴の一つとなっている。
　アメリカでは、仏教の瞑想は、実践が容易であり、心を癒し、精神的に活力を与え、心を解放するものだと感じる人々が多い。特に、坐って行う瞑想を行なう禅、チベット仏教、テーラワーダ仏教の団体が、最も多くの改宗者を引きつけてきた。
　田中がキリスト教やユダヤ教から仏教に改宗した人たちに尋ねたところでは、「キリスト教やユダヤ教には、立派な教義があるが、その教えを体験する方法が明確ではないのに対し、仏教は誰もが日々実践できる瞑想などを通して実際に教えを体験できることに惹かれると話す」という。
　また、仏教に改宗せずに、キリスト教徒やユダヤ教徒でありながら同時にメディテーション等の仏教の実践も行うという人も多いと、田中は報告している。そういう人は、キリスト教では「プロテスタント信者より他宗教に比較的寛容なカトリックに多く、神父たちもすくなくない」という。また、ユダヤ教徒にとっては、キリスト教と違って、確執や苦い経験のない仏教への改宗は、「キリスト教に改宗することに比べれば抵抗がない」という。また、仏教は寛容性が高く、「改宗して仏教徒になっても、ユダヤ教の伝統や慣習は捨てる必要もなく、家族との付き合いもそのまま」でよいという。
　ユダヤ教徒から仏教徒に改宗した後も、ユダヤ教徒・ユダヤ人としてのアイデンティティを保持している人をＪＵＢＵｓ（ジューブス）という。唯一神教における二重宗教アイデンティティは考えにくいが、アメリカでは、現実に複数の宗教に所属意識を持つユダヤ教徒・ユダヤ人がいるということである。
　アメリカ仏教は、メディテーション中心であることによって、唯一神教の信徒にも受け入れられているということである。

３．社会参加

　アメリカ仏教では、ベトナム人僧侶ティク・ナット・ハンの影響で、社会参加が盛んである。その理由の一つとして、アメリカで社会参加仏教を実践している人たちには、１９６０年代からベトナム戦争の反戦運動や人権運動に参加していた人が多いことを、田中は挙げている。これは、社会するアメリカ仏教には左翼・リベラルが多いことを意味するだろう。

　次回に続く。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 著書のご案内 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　『人類を導く日本精神〜新しい文明への飛躍』（星雲社）
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
　『超宗教の時代の宗教概論』（星雲社）
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊