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2021年06月04日10:03

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仏教162〜仏教は科学と矛盾しないとの理解が

●仏教は科学と矛盾しないとの理解が

 アメリカで仏教が受け入れられ、多くの人々を惹きつけてきた理由の一つに、仏教は科学と矛盾しない宗教だという理解が広まったことがある。
 第1部の「仏教と科学」の項目に、仏教と科学の関係について書いた。仏教は、キリスト教と異なり、地動説や進化論を否定しない。そのため、これらを否定するキリスト教の教義に疑問を持つ人々が受け入れやすい。
 アルベルト・アインシュタインは、「現代科学が必要としているものに応える宗教があるとすれば、それは仏教だろう」、「仏教は、近代科学と両立可能な唯一の宗教である」と述べている。アインシュタイン以外にもラッセル、ボーア、シュレーディンガー、ハイゼンベルク等が科学者として、仏教を含む東洋宗教に関心を向けていた。だが、20世紀半ば過ぎまで、そのことを知るのは、一部の科学者や知識人に限られていた。
 大きな変化が起こったのは、フリチョフ・カプラが、1975年(昭和50年)に『物理学のタオ』(邦題『タオ自然学』)を刊行したことによる。原子物理学者のカプラは、本書で現代物理学の世界観と東洋宗教の世界観には類似性があることを明らかにした。物理学の最先端が到達したのは、仏教・ヒンドゥー教・道教等の神秘主義とよく似た世界観であるという説明は画期的なもので、本書は世界的なベストセラーになった。
 カプラは、本書で総論的に次のように言う。「東洋の精神的伝統は、細かい点でいろいろ異なってはいるが、その世界観の本質はみな同じである。それは神秘体験という、知力に頼らない直接的なリアリティの体験に基づく世界観であって、(略)その基本的要素はどれも同じだ。しかも驚くべきことに、その基本要素は現代物理学を通して生まれてくる世界観の本質と共通しているのである」
 カプラは、具体的に現代物理学の知見と東洋神秘主義の思想の類似点を挙げている。万物の合一性及び相互依存性、主観と客観の不可分性、対立概念の超越、時間と空間の融合等である。
 例えば、万物の合一性及び相互依存性について、カプラは、次のように言う。「東洋の世界観は西洋の機械論と違って『有機的』である。東洋の神秘主義者にとって、知覚された事象はすべて相互に関連し合ったもので、同一の究極的リアリティの諸断面、あるいはその現われでしかない」
 カプラは、自らの師であるジェフリー・チューのブーツストラップ理論について、次のように言う。「この新しい世界観では、宇宙は相互に関連し合った出来事のダイナミックな織物と見られている。この織物の中では、いかなる部分の特性も根源的ではない。それらはすべて他の部分の特性に従うもので、その相互関係の全体的調和が織物全体の構造を決定する」と。
 カプラは、チューの言葉を引く。「ハドロン・ブーツストラップでは、すべての粒子が自己調和的な形でダイナミックに互いを構成し合っている。その意味では、互いを『含み』合っていると言えるのである。大乗仏教ではそれに極めて近い概念が宇宙に適用されている。この相互に浸透する事象のネットワークは、『華厳宗』の中でインドラ(帝釈天)の網、帝釈天の首にかかっている壮大な珠玉のネットワークという比喩で語られている」
 量子物理学には、観測者の問題というものがある。ハイゼンベルクは、素粒子に関して、観測者は必然的に実験の対象に関わり、その結果まで作用することを明らかにした。これは新しい発見のようだが、カプラは、東洋の神秘主義者にとっては、このような関係が当然であることを指摘する。彼らは、主観と客観の区別がなくなる体験を語っているからである。
 ニュートン力学では、何もない空間にそれぞれ独立した物体が存在すると考えていた。しかし、現代物理学の場の理論では、空間は何もないのではなく、そこから素粒子が生まれては消え、生まれては消えているととらえる。カプラは、次のように言う。「東洋の神秘主義者の見方では、すべての現象の根源をなすリアリティは、あらゆる形を超越し、どんな説明も記述も寄せ付けない。そこでよく『無形』とか『空』と言われるが、この『空』は、単に何もない状態をさしているのではない。逆に、すべての形の根源であり、すべての生命の源なのである」と。
 般若心経に「色即是空、空即是色」という名句がある。「色(ルーパ)」は「形」や「物質」を意味する。カプラの説明は、この「色」と「空」の関係を含意したものだろう。
 カプラは、1982年(昭和57年)に刊行した『ターニング・ポイント』では、次のように書いている。
 「東洋思想がきわめて多くの人々の関心を呼び起こし始め、瞑想がもはや嘲笑や疑いを持って見られなくなるに従い、神秘主義は科学界においてさえ、真面目に取り上げられるようになってきている。そして神秘思想は現代科学の理論に一貫性のある適切な哲学的裏づけを与えるもの、という認識に立つ科学者が、その数を増しつつある。人類の科学的発見は、人類の精神的目的や宗教的信条と完全に調和しうる、という世界観である」
 1970年代半ばから80年代にかけて、カプラが現代物理学と東洋神秘主義の類似性を一般向けに広く啓蒙したことによって、東洋思想、とりわけ仏教に対して、科学と矛盾しない宗教だというイメージを持つ人が増えた。その結果、アメリカでは、禅やメディテーションがより広く普及することになったといえる。

 次回に続く。

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