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2020年09月12日10:14

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人種差別16〜人種差別問題の大統領選挙への影響

●人種差別問題の大統領選挙への影響はどの程度か

 人種差別に抗議する運動は、今年11月に行われる大統領選挙に少なからず影響をもたらすだろう。また、抗議デモを組織し、拡大しようとしている勢力は、まさに大統領選挙の結果を左右することを目指して行動していると見られる。
 過去を振り返ると、米国で公民権運動の嵐が吹き荒れた1960年代には、人種差別問題にどう取り組むかが選挙の行方に大きく影響したという見方がある。
 1960年の選挙では、民主党のジョン・F・ケネディ、共和党のリチャード・ニクソン両上院議員が対決した。その時期に、公民権運動指導者のマーティン・ルーサー・キング牧師が抗議活動中に逮捕・勾留された。これに対し、ケネディはキングの釈放に尽力した。一方のニクソンは積極的に動かなかった。この対応の違いを見た黒人の票がケネディに流れ、ケネディの当選につながったという説がある。得票率差はわずか0.2パーセントだった。だが、ケネディ獲得した選挙人数は303人、ニクソンは219人とかなりの差がついたので、黒人の票が勝敗を左右したとまではいえない。
 ケネディ大統領は、1963年11月22日にテキサス州ダラスで暗殺された。副大統領のリンドン・ジョンソンが後継した。1968年の大統領選挙は、民主党ヒューバート・H・ハンフリーと共和党ニクソンの戦いとなった。公民権運動の高揚のなか、同年4月にキング氏が暗殺されて全米で大規模暴動が起きた。また、ベトナム反戦運動が高揚し、一部は過激化した。これに対し、ニクソンは「法と秩序の回復」を有権者に訴えた。対するハンフリーは、「偉大な社会」計画の継承を訴え、貧困の撲滅等の実現を主張した。だが、ニクソンは、民主党のケネディ政権が始めジョンソン政権で拡大・長期化したベトナム戦争からの「名誉ある撤退」を主張した。それで支持を拡大した。ベトナム戦争に反対する者の多くは、ニクソン支持に回った。黒人も同様と見られる。結果は、ニクソンが302人の選挙人を獲得し、191人のハンフリーに大差をつけて勝利した。得票率差は0.7%だった。この時、主流のマスメディアは反ニクソンの立場を取り、選挙直前にはハンフリー有利と報道したため、選挙後、マスメディアと有権者の意識の乖離が話題になった。半世紀前から、アメリカのマスメディアの民主党寄りの姿勢と大衆の意識操作が指摘されている。
 1960年と68年の大統領選挙を比較する時、人種差別問題にどう取り組むかが選挙の行方に大きく影響したという見方は、十分な根拠があるとは言えないと私は考える。
 黒人は、1930年代以前には「リンカーンの党」である共和党を支持していた。だが、1930年代にフランクリン・D・ルーズベルトが、民主党を政府の権限を拡大して社会的・経済的弱者を救済する政党に変えたことによって、黒人は民主党を支持する諸集団の一翼を担うようになった。黒人の有権者は、近年の選挙でも約90%が民主党に投票している。
 2009年1月、民主党のバラク・オバマが、共和党のミッド・ロムニーに勝って、米国で初めての黒人大統領となった。オバマが2期8年務めた後の2016年の大統領選挙は、先に書いたように、人種差別問題が争点の一つになった。民主党のヒラリー・クリントンは、黒人の支持層を固めるため警察の人種偏見を示唆した。一方、共和党のトランプは、「法と秩序の候補」を自称し、警察への全面支持を打ち出した。結果は、トランプの勝利に終わった。この時、トランプが獲得した黒人の支持票は、黒人有権者のうちの8%のみと極めて少なかった。だが、それでもトランプが勝利したのだから、人種差別問題がこの時も大統領選挙の行方を左右したとは言えない。米国史上初の黒人大統領が2期8年務める間に、国民の意識が変わり、人種差別問題が改善されたのであれば、2016年の選挙は民主党候補に有利な状況になっていただろう。だが、トランプの勝利が意味するものは、むしろ米国で価値観の対立が激しくなっていることである。
 米国では、さまざまは価値観が対立している。その状況で1980年代から浮上したのが、ポリティカル・コレクトネス(political correctness)である。直訳すれば「政治的妥当性」である。具体的には、人種・民族・宗教・性別等の違いによる偏見・差別のない表現が政治的に妥当であるとして、偏見・差別に基づく言語表現を是正すべきとする考え方をいう。単に言葉の問題にとどまらず、社会から偏見・差別をなくすために制度や文化を改革する思想を意味する場合もある。ここ30年ほどの間に、米国から欧州諸国や日本等にも広まった。
 米国では、民主党がポリティカル・コレクトネスを推進し、共和党はその行き過ぎを制しようとする傾向がある。民主党支持者と共和党支持者の間で、ポリティカル・コレクトネスをめぐる対立が顕著になっている。この対立が白人の間の分裂、さらにいえば白人のうちの高学歴者と低学歴者の分裂を助長していることが指摘される。
 白人の高学歴者と低学歴者は、1990年代半ばまでは支持政党が共和党寄りという点でほとんど同じ傾向を示していた。だが、2009年にオバマ政権下で保守派の市民組織であるティーパーティ(茶党)が台頭すると、白人の間で分極化が進んだ。ティーパーティという名称は、植民地時代に宗主国イギリスの茶法に対して反旗を翻したボストン茶会事件に由来する。ティーパーティは、オバマ政権の大型景気対策や医療保険制度改革などを批判し、増税なき「小さな政府」を掲げた。草の根の市民運動であり、参加者の大半は白人である。自由を一元的な価値とする古典的自由主義のアメリカ的な形態であるリバータリアニズム(自由至上主義)の傾向が強い。既成の大政党では共和党の最右派に近い。2010年代以降、ティーパーティが活発に活動を続けると、白人が学歴の高低によって分極化し、高学歴の白人は民主党を、低学歴の白人は共和党を支持する傾向が現れた。
 2016年の大統領選挙で、共和党の異端児ともいえるトランプが「America first」(アメリカ第一)「Make America great again」(アメリカ合衆国を再び偉大な国に)というスローガンを掲げて登場すると、ティーパーティ派の多くはトランプを支持した。それ以降、高学歴の白人は民主党を強く支持するようになり、逆に低学歴の白人は共和党を強く支持する傾向が顕著になっている。トランプは、低学歴・低所得の白人の票を集めて、選挙戦で勝利を獲得したと指摘されている。
 ここでミネアポリス暴行死事件との関係で注意したいのは、マスメディアの多くは、米国の人種問題を白人対黒人という構図で書く傾向があるが、その二元的な構図だけでは実態がよく表されないことである。
 人種問題は複雑で、単に白人対黒人ということだけではなく、白人の中の多様性や、黒人以外の有色人種であるユダヤ系、アジア系、インディアン、ヒスパニック(ラティーノ)等の存在も見ないと、深くまた多角的に理解することができない。
 例えば、白人の中には、建国の祖につらなるWASP(ホワイト・アングロ=サクソン・プロテスタント)と非WASPの間の違いがある。アングロ=サクソン系以外の白人には、アイルランド系、フランス系、イタリア系、ドイツ系等がある。また、この民族の違いとキリスト教のプロテスタントとカトリックという教派の違いが相関している。職業でも、ホワイトカラーとブルーカラーの違いがある。これらによって、白人の中にも様々な集団があり、また階層化も見られる。
 ユダヤ系は、非WASPであり、また有色人種だが、その優れた経済的・文化的能力によって、一部は支配階層であるWASPの中に入り込み、WASPを支配するほどの経済力・政治力を発揮するようになっている。
 また、アジア系は勤勉で、差別を受けながらもよく働き、また子弟の教育に力を入れる。彼らは、黒人へのアファーマティブ・アクション(積極的改善措置)に対して、黒人への優遇政策は不公平な措置だと感じている。メキシコや中南米からの移民であるヒスパニックの中にも、同様の意識が見られる。
 一方、黒人の側も一枚岩ではない。黒人の約90%は、民主党を支持している。だが、共和党を支持する者も約10%いる。彼ら黒人保守派は、オバマ政権のもとで活発に活動するようになった。彼らは、アファーマティブ・アクションの廃止を訴え、政府の福祉政策による保護から脱却して黒人が真に自立できるようにすべきと主張する。「自助・自立」の主張である。彼らは、共和党が掲げる古典的自由主義の理念に賛同する。その多くは、2016年の選挙でトランプを支持した。
 以上のように、人種差別問題の大統領選挙への影響は、単純ではなく複雑である。続いて、こうした過去の事例を踏まえて、本年11月3日の大統領選挙への人種差別問題の影響を考察したい。

 次回に続く。

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