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2020年07月03日10:05

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世界コロナ危機をどう見るか9〜エドワード・ルトワック3

 最終回。

◆経済への影響

――製造業のサプライチェーン(調達・供給網)への影響は(Japan-forward 2020.5.26)
「日本政府は企業が中国の拠点を国内に回帰させるか、第三国に移転させるのを後押しする費用として総額2435憶円を緊急経済対策に盛り込んだ。他国の企業も、自国政府の支援の有無とは無関係に、中国との縁を完全に切りたい思惑から脱出を進めている。中国の実業界も同様だ。彼らは資産をニューヨークに移そうと血眼になっている」

◆国際社会への影響

――国際機関や多国間枠組みの役割はどうなる(Japan-forward 2020.5.26)
「新型コロナはいわば『真実を暴くウイルス』だ。EUが機能しないことを暴き、多数の死者を出したイタリアの無秩序ぶりを暴いた。中国は虚言の国であることも白日の下にさらした。日本については『日本は中国とは違うから安全』といった意識が間違っていたことを思い知らせた。
 新型コロナ危機を受けて起きているのは、グローバル化の揺り戻しとしての『脱グローバル化』だ。グローバル化は国際機関の台頭と連動してきた。EUや世界保健機関(WHO)などの機能不全が明白となったことで、世界はグローバル化や多国間枠組みから後退し、国民国家が責任をもって自国民を守る方向に回帰するだろう」

ほそかわ
 ルトワックは、世界コロナ危機において、「グローバル化の揺り戻しとしての『脱グローバル化』」が起こっており、「国民国家が責任をもって自国民を守る方向に回帰する」と予想する。彼はこの方向について、ナショナリズム(nationalism)という言葉を使っていないが、国民国家すなわちネイション・ステイト(nation-state)が責任をもって自国民すなわちネイション(nation)を守る方向への回帰とは、ナショナリズムへの回帰を意味する。
 私は、国民国家を否定するグローバリズムからの脱却が進み、ナショナリズムを基礎としたインターナショナリズム、諸国家・諸民族の共存共栄を求める方向に、世界は変化していくと予想する。

◆民主主義と権威主義/自由主義と統制主義

――米中による「大国間競争」はどうなる(Japan-forward 2020.5.26)
「米中関係は悪化の一途をたどり続けるという意味で一貫している。わずか十数年前、米国は『パンダ・ハガー』(媚中派)に席巻されていた。違っていたのは国防総省だけだ。風潮は変わりつつあるが、新型コロナが人々の対中意識の変化を加速させるだろう。誰もがウイルスが中国由来であり、中国当局が対応を誤ったことを知っているからだ。
 トランプ米政権に有利に働くだろう。これは、米国の(自由民主主義的な)政治制度と中国を統治する(共産党独裁)体制とのせめぎ合いだが、中国の同盟国はパキスタンとイランの2カ国だけ。イタリアも中国に征服された。イタリアは歴史上、間違った側について、後から態度を変えることで有名だ。
 一方、他の国々は中国に背を向け、米国に付いている。ラーブ英外相が4月16日、『対中関係を全面的に見直すべきだ』と語っているのが良い例だ。中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化する。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示すが、世界各地で拒絶されている」

――東欧諸国などでも権威主義体制が台頭している(Japan-forward 2020.5.26)
「新たな独裁諸国の台頭こそが、人々が称揚するグローバル化の産物だ。インテリ層は、グローバル化を『世界民主主義』であるかのように主張したが、現実には民主体制からプーチン独裁体制に変容したロシアや、集団指導体制から習体制に移った中国など、多くの国が独裁制に傾いていくのを促進した。
 グローバル化が独裁制と親和性が高いのは、国際機関が非民主的だからでもある。EUとは選挙で選ばれた各国政府の権限を欧州委員会に移管するものだ。欧州中央銀行(ECB)の運営も非民主的だ。欧州諸国の民主体制が弱体化したのも、各国の権力が(EUという)非民主的な体制に移されたせいだ。グローバル化が民主主義に何ら寄与しなかった以上、脱グローバル化によって民主主義が損なわれることはない」

ほそかわ
 ルトワックは、グローバリズムは多くの国が独裁制に傾くのを助長したと見る。これは、グローバリズムが国民国家を否定することへの反動である。自由民主主義が発達していないロシアや中国等の国家においては、反動の結果、統制主義が強まり、政党の独裁から個人の独裁へと進んだ。プーチンや習近平の政権がそれである。
 私見によれば、ここでいうグローバリズムとは、アメリカ主導のグローバリズムである。21世紀に入って、アメリカ主導のグローバリズムに対して、中国やロシアではナショナリズムが強化され、独裁性が確立された。EUではリージョナリズムが強化され、超国家的な欧州委員会による専制体制が形成された。だが、その後、アメリカでは、民主党が推進したグローバリズムの弊害が国内で大きくなり、共和党のトランプ大統領の出現により、“アメリカ・ファースト”のナショナリズムへの転換が起こった。それによって、世界的にグローバリズムが後退し、大国のナショナリズムと中小国のナショナリズムがぶつかり合う状況が生まれた。
 ナショナリズムには、自由民主主義的か統制主義的か、国際協調的か利己主義的かの違いがある。脱グローバリズムの時代において、自由民主主義的・国際協調的な国々が連携して、統制主義的・利己主義的な国々による権益奪取・覇権拡大を防がねばならない。そのためには、中国やロシアに対抗し得る自由民主主義の大国・アメリカを自国本位ではなく、国際協調的な姿勢に向けなければならない。また、EUは、国民国家を超えた非民主的な体制が解体され、再構築される必要がある。ルトワックは語っていないが、国連の改革や国際機関の再構築も不可避の課題である。世界コロナ危機を通じて、あらためてこうした諸課題が浮かび上がったと私は思う。
 先にグローバリズムについて、アメリカ主導のグローバリズムと書いたが、グローバリズムは米国という国家の政府が行ってきた世界政策であるとともに、国家の枠組みを超えた勢力がその背後から推進している世界政策でもある。
 グローバリズムとナショナリズムの問題については、拙稿「現代の眺望と人類の課題」に書いているので、その第9章「冷戦の終焉とその後の世界」、第10章「21世紀の激動」、第11章「多極化する世界」をご参照ください。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09f.htm
 また、国家の枠組みを超えた勢力については、拙稿「現代世界の支配構造とアメリカの衰退」の第1章「現代世界の支配構造」をご参照ください。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09k.htm
 ルトワックにしても、またアタリ、ブレマーにしてもそうだが、ほとんどの世界的知性は、国家の枠組みを超えた勢力について言及しない。その勢力を構成するのは、欧米を中心とした巨大国際金融資本家・王侯・貴族等の所有者集団(the owners)と彼らに採用・雇用されている企業経営者・政治家・官僚・学者等の経営者集団(the managers)である。その勢力こそ現代世界を支配する集団であり、現代世界の構造を解明するには、国家間の関係や国際機関の機能だけでなく、その勢力の存在と思想に目を向ける必要がある。

●結びに

 世界コロナ危機について、ジャック・アタリ、イアン・ブレマー、エドワード・ルトワックの見解を紹介し、検討を行なった。
 世界コロナ危機は、続いている。感染の拡大は、ブラジルに中心地域移っている。先進国では、感染の第二波、第三波がいつ起こっても不思議ではない状況が続いている。武漢ウイルス・パンデミックは、単に感染症の猛威にとどまらず、世界的に政治・経済・社会・文化を揺り動かす地球規模の大地震となっている。今後の展開を十分予想することは難しいが、本稿における3人の世界的知性の発言は、多くのヒントを与えてくれると思う。
 世界コロナ危機について、ビフォアー・コロナ、アフター・コロナというとらえ方がある。イエス・キリストの生誕を境に、歴史を紀元前・紀元後と分ける仕方にならったものだろう(BC=Before Christ AD=Anno Domini)。アフター・コロナという言葉は、世界コロナ危機によって、人類は歴史的な新たな段階に入るという認識を表わしている。先の三人のうち、世界コロナ危機を人類史の大きな節目ととらえているのは、ジャック・アタリである。アタリは、この節目において「利己主義から利他主義への転換」が人類のなすべきことと提示する。おそらくそのことが、世界コロナ危機に関する世界的知性のうちアタリの発言がわが国で最も多くの人々の関心を引いた理由だろう。
 「利己主義から利他主義への転換」は、人類に道徳的な向上を呼びかけるものである。単なる政策論や戦略論ではない。私は、この点でアタリの発言に共感を覚える。私は、紙製の拙著『人類を導く日本精神〜新しい文明への飛躍』に次のように書いた。「人類は今日、かつてない危機に直面している。最大の危機は、核兵器による世界戦争であり、また地球環境の破壊である。われわれは、自滅したくなければ、自ら飛躍しなければならないという瀬戸際に立っている。世界平和の実現、及び文明と環境の調和のために、人類は精神的な進化に迫られている」と。こうした瀬戸際に立っている人類を新たな感染症が襲った。感染症による危機は、核兵器による世界戦争と地球環境の破壊に比べれば、これらほど決定的ではない。だが、この危機において求められているものが、人類の精神的な進化であることは、共通している。生存と飛躍のために必要な人類の精神的な進化については、紙製の拙著をご参照願いたい。(了)

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神〜新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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