１枚目 鳥取県淀江町角田遺跡 望楼のような高殿と船が描かれている。
２枚目 琵琶湖の水運 ローカルウィキ橋本市より
東岸に朝妻という港が記されているが、ここから内陸に進むと関ヶ原から名古屋市に出られる。
３枚目 淀川と平安京の関係。長岡京の赤い長方形の右下隅が淀津。最初は長岡京だったのは瀬戸内海を結ぶ水運の利便だったのだろう。淀津は江戸時代まで京への要衝だった。坂本龍馬もここの宿に泊まっていたはずである。
以上、ネットから
著者は1928−２０13、 同志社大学英文科卒、学生時代から発掘に従事し、高校教師を経て同志社大学文学部教授。
本書は北海道から九州まで、各地の遺跡調査に基づいて古代の地域社会の復元をテーマとしている。しかし著者の一番の関心は日本海側の遺跡と文化にあるようだ。本書では二章にわたっているが、他にすでに単行本となっている日本海沿岸地域をテーマにしたものも多い。ここでは、私自身の関心に従って日本海側の神話と文化を中心にまとめることにする。
江戸時代に活躍した北前船交易の先駆となる交易ルートがあった。
日本海沿岸の縄文文化
�（＾羝�三方五湖の鳥浜遺跡
ここから大量のヒョウタンが出土した。縄文時代からヒョウタンが栽培されていたと考えられるが、ヒョウタンは飲料水を蓄えるのに便利で、航海に必須の道具である。
さらに中国より古い時代の漆器も大量に出土し、従来考えられていた中国渡来説を覆した。また漆器製作に必要なエゴマの実も出土している。エゴマは奈良時代の文献にも記載されているし、現在の輪島塗にも使われている。
またいろいろな太さの縄も出土した。原料は大麻であって、この綱で荷物を船に縛っていたものと考えられている。なお、鳥浜遺跡には偶然にも地下水があって、これが腐敗するのを防いでいたのである。
��金沢市のチカモリ遺跡
最大で90センチもの柱が出土した。50センチ以上だと40本あったとのこと。
従来から近くの御経塚遺跡などで太い穴が発見されていたのだがチカモリ遺跡によって柱の跡だと証明されたのである。
大仏殿級の太い柱は日本海沿岸と、長野県中部高地、それと群馬県月夜野町で発見され、同時に、巨木の柱の下部に穴があけてあるのも発見された。奈良時代の宮殿や国分寺の柱の下部に穴が開いているのであるが、これが柱を運ぶための穴だと、すでに縄文時代からのものだと分かったのである。
日本海沿岸の巨大建築物は豪雪を支えるためと思われていたのだが、それだけの理由ではないことが真脇遺跡の発掘で分かった。
�Ｇ重佝湘臟重堋�の真脇遺跡
真脇遺跡から大量のイルカの骨が出土した。このイルカは食用のためではあるが、それだけではなく油をとるためでもあった。この真脇の神社に江戸時代のイルカ漁の網本が奉納した絵馬が残されていた。肉が目的ではなく脂だったのである。
一方、長野県の縄文遺跡から天井から吊るすランプの形をした縄文土器が出土し、その中は煤けたものがいっぱい付着していた。現在では脂から動物の種類が分かるようになり、この縄文ランプの付着物はイルカのものだと分かっている。
真脇ではイルカの脂を縄文土器に保存して交易に使っていたと考えられている。
★海風：欧米では石油の採掘法が発明されるまでクジラの脂が灯油や潤滑油などに使われていたが、古代日本はイルカだったようだ。クジラでは命懸けになりそうだし。
�て�本海沿岸に点々と存在する潟
今では埋め立てられたり、海への入り口を閉ざされて池になったものもあるが、石川県の邑知潟、柴山潟。富山県の放生津潟、鳥取県の東郷池、湖山池などで、船着き場や津として利用されていた。そして、そのような場所には一宮や寺院、そして大きな古墳がある。邑知潟には石川県の一の宮である気多大社がある。日本海沿岸は、このような潟（港）を中心とした地域経済と政治のまとまりがあったのである。
潟のあった周辺では造船技術も進んでいた。輪島市に稲舟（イナブネ）という地名がある。この「イナ」は古事記・日本書紀にでてく木工技術に巧みな人のことで、尼崎市の猪名（イナ）寺廃寺のあるあたりが根拠地だった。
★海風注：そういえば舟屋で有名な丹後半島の伊根浦がある。それに稲荷神社も字面の稲の（つまり農業の）神様と言うより、船で交易する商人の神様と見たほうが分かりやすい。記紀の垂仁天皇の時、佐保彦の反乱の記事中に、佐保彦が稲城を築いて抵抗したとある。これも木造建築（柱を並べた）の城と言う意味でないか？ 古代史学者の古田説では俵に土を詰めて防壁にしたとするが、だったら俵城と言うべきだろう。
鳥取県淀江町にはかって大きな潟があり、日本海沿岸で前方後円墳が一番多いところ。その角田遺跡から出た弥生式土器に線描画には船の着く岸に高い建物が描かれていた。鳥取県東郷池の長瀬高浜遺跡から太い柱穴が発見されたが、潟の多くに望楼のような高い建物があったのでないかと考えられる。そして、出雲大社の原型でもある。
日本海側の潟が福岡から北海道まで、宿場町のように１日以内で行ける距離に連続しているのに対して、太平洋側ではところどころにあるだけだった。そのため太平洋側での交易はできなかったのである。
５．新潟県糸魚川市の姫川流域の翡翠と佐渡島の碧玉
日本各地から出土するばかりでなく、姫川の翡翠は大陸の遺跡からも出土している。
古事記と出雲風土記には、八千矛神（大国主）が高志国の沼河（ぬなかわ）姫のところに通っていたと書かれている。
６．流通経路
日本海側の物資は、越後は新潟市の蒲原津から、佐渡は国津から、富山は高岡市の亘理湊、能登は七尾の加島津、加賀の国は比楽湊と三国港から福井県の敦賀津に集められる。ここから琵琶湖の北岸・塩津まで陸送し、琵琶湖を大津まで船で運び、平安京まで逢坂山を越えて運ばれる。ほとんどが船なのである。
瀬戸内海からの場合は、淀川をさかのぼって淀津（今の伏見区の南橋で、淀川が桂川、宇治川、木津川に分かれてすぐの桂川に面している）まで船で運ばれる。
太平洋を通しての航海が可能になったのは江戸時代からである。
７．継体天皇の勢力分布（結婚相手）
尾張連の娘：尾張氏は名古屋か春日井市など愛知県が主力だが、大阪の柏原市にも根拠地があった。
三尾君の親族に二人：三尾は近江の高島か越前の勢力。
坂田王の娘：坂田は米原や長浜
息長王の娘：息長は長浜の近く。
茨田連の娘：茨田は北河内。
和邇臣の娘：和邇は大和、近江、山城に有力な集団が存在。
それに傍系（と本人が主張）から天皇になったのだから当然天皇家：継体天皇の皇后の手白髪皇女は仁賢天皇を父に、雄略天皇の皇女を母としている。
さらに中央貴族の阿部氏（一族に阿倍比羅夫）の娘。
と言うことで、継体天皇の勢力範囲は福井県から滋賀県、京都市と名古屋市と考えられる。
★海風注：つまり継体天皇の一族は日本海沿岸で交易の一大拠点・敦賀のある福井県から琵琶湖を通って京都と名古屋方面に伸び広がっていたのである。本書の著者森氏の言う当時の交易の中心ルートを抑えていたことになる。天皇家の皇位継承戦争を治めるために中央貴族たちが推戴したのであろう。
継体天皇は筑紫の君磐井と、新羅との交易を妨げたことを理由として戦っているが、日本海交易は同時に朝鮮半島との交易ルートに繋がっていたのだろう。
★海風：まとめ
著者の森氏はそれまでの考古学の遺物中心主義を遺跡中心から、さらに地域文化やその発展基盤としての交易路の重要性に視野を広げた。
日本海沿岸の遺跡が潟の中にあること、太い柱は港を見張る望楼跡であること、そこに古代の豪族の本拠や寺社が存在していること、そして潟の港が日本海沿岸全域に船で１日行程で存在していることを明らかにした。ブラタモリの地理・地形学のようでもある。
１）それで長年気にかかっていたことであるが、なぜ出雲なのか？ なぜ記紀に出雲神話が特筆されているのか？ そして神無月・神在月の伝承が今に残されているのか？ それにそもそも、なぜイザナミの墓が出雲にあるとされているのか、アマテラスやスサノオが生まれたのも出雲なのである。
それは江戸時代の北前船に至るまで、日本海航路が日本をつなぐ重要性を保っていたからに違いない。日本海と言えば、冬は大荒れで天気予報に登場する季節風を表わす筋雲を思い出すが、それ以外の季節では穏やかな海なのだろう。それで、日本海沿岸だけでなく、大陸との交通路でもあった。
記紀によれば、大国主は北は越後から西は宗像神社の沖ノ島までを婚姻の範囲に、つまり勢力圏にしていたわけで、交易路の日本海を制する者が日本列島を制することができたのに違いない。
もっとも記紀によれば、スサノオ、大国主の二代でアマテラスの一族に日本の支配権を譲ったように錯覚するのだが、記紀には国引きの八束水臣津野命の業績（出雲の国創業者）は書かれていない。また大国主にはたくさんの別名があったとされている。別名は別人で、大国主歴代の可能性があるのでないか。
もっとも私は以前に書いたことだが、全国譲り自体はニニギの天下りよりずっと後世のことだと思っている。そもそも手柄を立てて一国（県や郡の広さ）を譲られるのは当然の報酬（封建時代ではご恩）であって、ニニギも大国主のために手柄を立てたのだと思う。そこから出発して出雲以外の全国の支配権を得た、つまり力で奪ったのだが、出雲の伝統的な名分は尊重して記紀に特筆したのに違いない。
たとえば垂仁天皇が出雲からきた野見宿祢の助言に従って、葬送儀礼を奴隷の殉死から埴輪へと変え、神事として相撲を導入したのは、出雲の影響力の大きさを物語るものである。古代において葬送や神事を変えるのは一大事件で、王家の内紛を誘う事態のはずなのだが、その気配はなかった。
継体天皇も出雲の新バージョンだと思えば納得がゆく。
２）都を大和から山城へ移動させた経緯
最初に近江に注目したのは12代景行天皇のようである。滋賀高穴穂宮に居るという記事があってその二年後に死去している。都を移したかったのだろうか？
そして日本武尊の皇子だった仲哀天皇の後継戦争で、香坂王と忍熊王の兄弟は九州から帰ってきた応神天皇軍に近江で敗れている。つまり、景行天皇の最晩年から都は近江にあったのでないか。
その応神天皇であるが、敦賀の気比神宮に御幸している・・・はず。今、記事が見つからないのだが。北陸道総鎮守とされる気比神宮には日本武尊、仲哀天皇、神功皇后、応神天皇の一族が祭神になっている。そして、この応神天皇の五世の孫が継体天皇なのである。
さらに天智天皇も晩年に近江へ都を移している。その時の額田王の歌が「三輪山を しかも隠すか 雲だにも こころあらなむ 隠さふべしや」である。
で、桓武天皇に至ってついに近江に近い山城に移ることになった。種継暗殺事件や薬子の変などもあったが、もう大和朝廷創業の地である大和に帰ることはなかった。
天智天皇は唐からの攻撃を恐れたとの定説があるが、著者の森氏は、それは理由にならない。日本海との交易を重視したためだとしている。むろん、山城が瀬戸内海との中間点で、どちらにも便利だということだったのだろう。
もう一つ書くことがあったような気がするのだが、思い出したら追加する。
追加
中世史家の網野 善彦は稲作重視の歴史観を批判して、渉猟や畑作、それに商人の歴史を絵巻なども参照して発掘してきた。本書の森氏も符節を併せているというべきで、ぴったり繋がっている。日本史は稲作の弥生時代で大きく変わったわけではなく、縄文時代からの連続であること、日本海航路が江戸時代までの幹線であったことが証明している。
それに近江商人はまさにその幹線の中から生まれたわけである。明治になって本社を大阪に移して大企業になった事例も多い。
ログインしてコメントを確認・投稿する