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2019年10月05日09:54

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中東がまた面倒な状況に〜イランとフーシー派の動き4

●イランがフーシー派に巡航ミサイルを供給

 フーシー派は、イエメンで内戦が続いていた2017年11月以降、サウディアラビアに向けて少なくとも2度、巡航ミサイルを発射した。1度目はキング・ハーリド国際空港、2度目はサウジ南西部のハミースムシャイトに向けたものだったが、どちらも標的には命中せず、サウディ政府はミサイルを撃墜したと発表した。また、フーシー派は、内戦に介入したアラブ首長国連邦(UAE)に向けても、弾道ミサイルを発射した。これは、同国西部で建設中のバラカ原子力発電所を狙ったもので、フーシ派は「標的に命中させた」と主張したが、ミサイルは飛行途中で墜落した模様で、原子力発電所に被害は生じなかった。
 フーシー派は、独力で弾道ミサイルを開発したとし、「ブルカーンH2」と命名している。だが、公表されたビデオを見た専門家は、ミサイルの外見がイラン製の地対地巡航ミサイル「スーマール」と酷似していると指摘した。スーマールは、ロシア製の空対地巡航ミサイルKh−55をイランが改造し、ロケットブースターを追加し地対地化させたものといわれる。イランがフーシー派に、この最新鋭兵器を供給していたことがほぼ確実となった。
 2017年12月14日、米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、フーシー派が発射した弾道ミサイルの残骸を提示して、イランが武器を供給している具体的な証拠だとし指摘し、イランによる武器の供給は国連安保理決議違反だと非難した。
 フーシー派は、今年5月以降、サウディアラビアへの攻撃を活発させたと伝えられる。これは、米国がペルシャ湾周辺の軍事プレゼンスを増強してイランへの圧力を強化した時期に重なることが指摘されている。それゆえ、今回、9月14日にサウディアラビアの石油施設への攻撃を行なったのは、「サウジへの報復のみならず、米・サウジによるイラン包囲網を揺さぶることを狙った可能性がある」、と産経新聞の佐藤貴生記者は、17日付の記事に書いている。

●日本のタンカーへの攻撃もフーシー派の仕業か

 今回のサウディへの攻撃の約3カ月前、2019年6月13日ホルムズ海峡近くで日本とノルウェーのタンカー2隻が何者かによって攻撃を受けた。安倍首相がイランを訪問し、米国とイランの間の緊張の緩和を図っていたまさにその時の出来事だった。同月20日には米国の無人偵察機グローバルホークがイラン付近の海上で撃墜された。これによって、米国とイランの間の緊張が一層高まった。米国とイランの主張は真っ向から対立しているが、いずれもイランの革命防衛隊の関与が疑われている。7月11日には、イギリスのタンカーがイランの革命防衛隊によって拿捕されかかった。イギリスの護衛艦がタンカーを守ったが、もしそのような機動力を持たない国のタンカーが狙われたら、大きな事件になるところだった。この時は、イランの革命防衛隊が動いた。だが、米国は、先のタンカー攻撃をイランの革命防衛隊の所業と断定していない。イラン側は、関与を否定している。
 本件について、作家の佐藤優氏は、フーシー派によるものではないかという見方をしている。
佐藤氏は、「現代ビジネス」のサイトのインタビュー記事(2019年6月30日付)で、先のタンカー攻撃には4つの可能性があるという。
 第1は、イランの最高指導者ハメネイがが「大ウソつきだという可能性」。「この最高指導者が実は大ウソつきで、安倍さんには「平和を望んでいる。核はつくらない」と言いながら、後ろで「やってこい」と命令していた可能性。でも、そんなことをやったら、ハメネイさん自身が「いったいどういう人だ?」と言われて、国際社会からの信用がゼロになっちゃうでしょ。イラン国内でも。だから、ないと思うのね」と佐藤氏は言う。
 第2は、「イスラム革命防衛隊が暴走して、ハメネイさんの知らないところでやった」という可能性。「一見、説得力がありそうに見えるんだけれど、これだとハメネイ師が国家を統治できていないということになる。そういう状況ではないと思う」と佐藤氏は言う。
 第3は、「アメリカの謀略」という可能性。
「しかし、謀略がばれたら大変なことになりますよね。流石にそんなことはしない」と佐藤氏は言う。
 そのうえで、佐藤氏は、第4の可能性として、フーシー派による攻撃を挙げる。
「フーシー派が、もしアメリカとイランの関係が正常化していく方向に向かうのだったら、まず、アメリカとの関係でイランはフーシーの支援をやめる。そうしたらおカネも来なくなる。兵器も来なくなる。自分たちは逆にサウジ系の勢力によってやられちゃう。ならば、紛争が続いたほうがいい。そうなると、やる可能性があると思う」と。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65460

●イラン革命防衛隊の破壊工作の可能性も

 佐藤氏は、イランの革命防衛隊による攻撃の可能性を否定しているが、私は、その可能性を排除すべきでないと考える。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、「ビジネスインサーダー」のサイトの記事(9月17日付)に次のように書いている。
 「イランの軍事的な対外政策は、政府ではなく軍部が主導している。今回のような破壊工作であれば、イスラム革命防衛隊(IRGC)の特殊部隊である「コッズ部隊」が関与した可能性が高い。そして、ロウハニ大統領らがそのことを知らされていない可能性も十分にありうるのだ」と黒井氏は言う。
 黒井氏によると、ハメネイ最高指導者の下に、それを補佐する側近集団「最高指導者室」があり、そのなかに安全保障政策を担当する「最高指導者軍事室」がある。その下に置かれた「イラン軍事参謀総長」が事実上の軍部トップで、その指揮下に、軍隊と警察治安部隊がある。イランの対外戦略の最終的な決定権者はハメネイ最高指導者だが、「最高指導者が細かいところまですべていちいち指示しているわけではない。実際に決定権の多くを行使しているのは、いわばイスラム保守派=軍部連合とでも呼ぶべき陣営だ」。革命防衛隊も国軍もハメネイ最高指導者の指揮下にある軍隊で、ロウハニ大統領の指揮下にはないと黒井氏はいう。それゆえ、ロウハニ大統領らがそのことを知らされていない可能性も十分にありうるというわけである。
https://www.businessinsider.jp/post-198848

●わが国は対応態勢の確立を急げ

 今回のサウディアラビアの石油施設への攻撃は、「世界のエネルギー供給に対する前代未聞の攻撃」である。イランが関与したものか、フーシー派によるものか、真相は、近いうちに明らかになるだろう。この問題には、米国とイラン、サウディとイラン等の国家間の対立だけでなく、イスラーム教の宗派間の対立やイエメン内部の勢力争い等が、複雑に絡んでいる。いずれにしても、中東がいよいよ面倒な状況になりそうな状況となっている。わが国の対応態勢の確立が急がれる。その対応態勢に関しては、8月17日付の拙稿「ホルムズ海峡で緊張増大〜自国の船は自国で守れ」に書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12.htm(目次からE07へ)
 その後、1カ月以上たつが、具体的な進展が見られない。最初、政府で偵察機だけを派遣するという案が検討されていると報じられ、次に護衛艦を派遣する案が検討されていると伝えられた。ともに米国が主導する有志連合には参加せずに、自衛隊を派遣して、各国軍に情報を提供するという案である。だが、米国とイランの間の緊張が少し緩むと、その話も報道されなくなっていた。今回のサウディアラビアの石油施設への攻撃は、重要施設が破壊されたので、復旧には最大で数カ月かかるという。長期化すれば、産業や国民生活に影響が出てくる。また、今後、米国とイラン、サウディとイラン、イエメンの諸勢力の関係が短期間に大きく改善される見込みはない。むしろ、また次の攻撃・破壊が起こる可能性を想定して、いざとなったとき、すみやかに対応できるよう態勢を整えるべきである。(了)

関連掲示
・拙稿「ホルムズ海峡で緊張増大〜自国の船は自国で守れ」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08.htm
目次からE07へ
・拙稿「イスラームの宗教と文明〜その過去・現在・将来」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-2.htm

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