mixiユーザー(id:525191)

2019年03月15日09:30

160 view

キリスト教173〜ラテン・アメリカの宗教事情(続き)

●ラテン・アメリカの宗教事情(続き)

 ラテン・アメリカにおけるキリスト教の布教をアジアの場合と比較すると、アジアでは15世紀末からキリスト教が宣教する前、仏教、イスラーム教のような世界宗教や、ヒンドゥー教、儒教、道教、神道のような地域宗教が文明の宗教的中核となっていた。ラテン・アメリカには、そうした世界宗教や地域宗教が存在しなかった。それゆえに、キリスト教が広く浸透し得る可能性があった。そのうえ、カトリック教会が大胆な現地適応主義を取ったことが、この地域を制した要因となっている。
 シナでは、マテオ・リッチが1582年に布教を開始して以来、イエズス会の宣教師たちは現地適応主義を取った。シナの習慣と文化を尊重し、キリスト教に取り込むことで、信徒数を拡大した。しかし、フランシスコ会やドミニコ会などがイエズス会の適応主義政策を批判して典礼問題が起こり、教皇クレメンス11世はイエズス会を断罪した。そのため、シナのイエズス会は解散に追い込まれ、カトリックの宣教活動そのものも終息した。その後、1807年からプロテスタントが進出した。カトリック側としては、プロテスタントの進出を許す結果となったわけである。
 カトリック教会は、ラテン・アメリカではシナの場合と違って大胆な現地適応主義を取った。それによって、広く浸透するとともに、プロテスタントの進出を防ぎ、圧倒的優位を確立した。ただし、それを通じて、本来のカトリックの教義・信仰形態とは違う要素が生じている。教皇庁は、聖母という本来はイエスの教えにはないものを崇敬の対象としていた。それによって、土着的な異質の要素を容認している。マリア崇敬が存在しない東方諸教会の一部教派や、マリア崇敬を否定するプロテスタントの一部教派では、あり得ない対応である。また、ラテン・アメリカにおけるキリスト教と土着宗教の習合は、カトリックの圧倒的多数という状態を可能にした。それによって、ヨーロッパで繰り返された西方キリスト教の宗教戦争が、この地域では起こらなかった要因となっている。
 次に、ラテン・アメリカの宗教の割合について述べる。フランツ・ダメンの報告によると、2000年時点でキリスト教がラテン・アメリカ全体の人口の92.7%を占める。先住民や黒人奴隷の精霊信仰、またそれに基づく土着宗教の信仰者が、0.2%程度いる。キリスト教徒の中での百分率は、カトリックが95.8%、プロテスタント・正教会等が4.2%である。カトリックは、スペイン、ポルトガルの旧植民地において圧倒的な多数を占める。方やプロテスタントは、非ラテン系の旧植民地に多い。
 ブラジルは、2010年のブラジル地理統計院の調査によると、カトリックが約65%、プロテスタント約22%、無宗教8%等である。ブラジルは人口約2億であり、そのうち約1億3千万人がカトリックとなる。世界で最も多くのカトリック人口を擁する国がブラジルである。プロテスタントは、ルター派、長老派、バプテスト、ペンテコステ派等が存在する。
 メキシコは、メキシコはブラジルに次いで世界で2番目にカトリック人口が多い国である。2000年の人口調査によると、カトリックが約87%を占める。メキシコの人口は約1億3千万ゆえ、約1億1千万のカトリック信者がいることになる。先に書いたように、メキシコのカトリックは、土着宗教と習合したカトリックとして知られる。
 カリブ海諸国では、全体としてはプロテスタントが優勢である。その中において、カトリックが多い国の一つが、ドミニカ共和国である。同国は、フランス領からイギリス領になった歴史を持つが、フランス領だった時代が長く、その間にカトリックが定着した。グレナダも同様である。現オランダ領のアンティル、現フランス領ギアナも、カトリックが多い。旧スペイン領で現米国自治体のプエルトリコはカトリックが多い。一方、プロテスタントが多いのは、旧イギリス領のジャマイカや、現イギリス領のケイマン諸島等である。旧オランダ領のスリナムは、カトリックとプロテスタントの割合が近い。
 ハイチは、カトリックを国教としているが、ブードウー教も盛んである。ブードウー教は、アフリカからハイチに連れて来られた黒人奴隷が、アフリカ土着の宗教を発展させて作りだしたものである。ブードゥーは英語読みで、原語ではヴォドゥンといい、精霊を意味する。ブードゥー教は精霊信仰の一種であり、キューバのサンテリアやブラジルのカンドンブレ、マクンバ等の民間信仰もその類似形態である。カトリックは、植民地支配の時代からブードゥー教を「奴隷の邪教」として弾圧してきた。しかし、その信仰を根絶することはできず、ブードゥー教は、カトリックと習合し、聖母マリアなどキリスト教の聖人などを摂取している。また、先祖の地のアフリカに伝わり、西アフリカのベナンでは国教となっている。アメリカ合衆国南部のニューオリンズ等でも信仰されている。
 ラテン・アメリカの宗教事情で特殊なのは、キューバである。キューバは、スペイン植民地から1898年の米西戦争を機として、1902年に独立したもののアメリカによる実質的支配を受けた。1957年のキューバ革命によって社会主義国家となった。革命以前は、カトリックが70%以上だったが、社会主義体制下で宗教離れが進み、今では無宗教者が人口の55%といわれる。旧ソ連圏や中国・北朝鮮等、社会主義が体制思想となった国々でよく見られる現象である。

 次回に続く。

2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する