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2019年01月28日07:08

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性急な対露交渉は後世に禍根を残す〜袴田茂樹氏

 1月22日にモスクワで日露首脳会談が行われましたが、領土交渉には何の進展も見られませんでした。私にとっては、残念ながら予想通りです。昨年9月12日、プーチン大統領が日本側に「年末までに前提条件なしで平和条約を締結しよう」と提案したのを受けて、わが国のメディアの多くは、安倍首相は2島返還論に舵を切ったと観測し、今回の首脳会談での成果を国民に期待させる報道をしました。しかし、プーチンのその後の発言や最近のラブロフ外相の発言等を冷静に理解すれば、このような報道は、あまりに甘いと言わざるを得ませんでした。
 昨年9月17日、新潟県立大学教授の袴田茂樹氏は、産経新聞の記事に大略次のように書きました。
 「ロシアのフォーラムでプーチン大統領から、一切の条件なしで年内に平和条約を締結し、領土問題などはその後討議との提案があった」。この提案は「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結」という、プーチン氏自身がかつて認め、日本が今も忠実に守ろうとしている日露両国の合意を真っ向から否定するものだ。この合意は、彼が署名した2001年の「イルクーツク声明」、03年の「日露行動計画」に明記された東京宣言の基本命題だ」。「今回のプーチン氏の提案は、四島の帰属問題解決という平和条約締結の前提条件を、ひいては過去の条約交渉を全否定するもので、現実には領土問題解決の意思はない、と言ったに等しい」。「これまで日露が平和条約というときは、北方領土問題を意味していた」。「しかし今回はあえて「一切の条件なしで」と述べて、平和条約の意味を全く変えた。結局、領土問題解決の意思はない、という意味ではプーチン氏の態度は一貫している」「彼の本音をしっかり理解し、幻想を捨ててほしい」と。
 私は、当時袴田氏の見方が妥当だと考え、10月16日私見を交えて、ブログで紹介しました。
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/c4c8160098dfecce206bd6fda675f565

 ところが、11月14日安倍首相は、プーチン大統領と会談し、昭和31年(1956年)の日ソ共同宣言を基礎に今後3年以内の平和条約締結を目指すことで合意しました。これは、東京宣言を外して、日ソ共同宣言のみを基礎として交渉することにしたものです。この合意について、私は昨年12月21日のブログで取り上げ、「56年宣言」を基礎とする交渉は危うい、四島返還の原則を変えてはいけないという観点から次のように書きました。
 「首脳会談後、プーチン大統領は、ロシアでの記者会見で、共同宣言で旧ソ連が引き渡すとした歯舞群島と色丹島について、引き渡し後の主権は協議の対象だと発言しました。これは、詭弁です。ロシアは北方四島を不法占拠しているのであって、もともと主権は日本にあります。引き渡しが行われれば、従来保有している主権を確認することになるのであって、協議の余地はありません。あたかもロシアが所有者で、ロシアが所有権を保ったまま、日本が借地するような状態になったならば、それを領土の返還とは言いません。
 次に、北方四島のうち、歯舞・色丹は領土の7%にすぎません。2島返還といっても、その時点で93%はロシアに占拠されているわけですから、4分の2が戻るのではありません。領海については、2島返還によって20%が戻ることになりますが、80%の海はロシアに占拠されている状態となります。ただし、もし2島の引き渡しはするが、主権は別問題だという詭弁に乗せられて、逆に事実上ロシアが主権を確保するような状態になれば、領土は引き渡されても、領海は戻ってこないことになります。世界三大漁場の一つといわれるこの海域における漁業権や資源に関する権利等は、戻ってこないことになります。領土とともに領海に関する主権の確認が欠かせません」と。
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/1b096473284608912f29f4cde1c33774

 今回の首脳会談の結果は、袴田氏や私などが見てきたことが、残念ながらあたっていたことを示しています。袴田氏は1月25日の産経の記事にて、「今の官邸の対露政策は、露ペースに巻き込まれ過ぎている」と指摘しました。そして「日ソ共同宣言のみを基礎にして平和条約交渉を加速させるという露との合意」は「これまでの日本政府の長年の血の滲(にじ)むような対露交渉の成果を自ら否定するものではないか」と述べています。そして、次のような見解を明らかにしています。
 「ある新聞は「首相、実質2島に絞り交渉」との見出しも付けた。私は2島返還さえもプーチン政権下では極めて可能性が小さいと判断している。したがって「2島プラスα」論とか「2島プラス継続協議」論でさえも、これまでのプーチン発言から考えると、現実性はないと考えている」。「私は、2島にのみ焦点を当てた「成果」は、主権国家としての日本歴史の将来に禍根を残すと懸念している」。「日本が国際的に、主権侵害問題に真剣に対応する国と見なされるか否かが、国際政治的にはきわめて重要なのである」。「日ソ共同宣言だけ認める人の多くは、国後、択捉の返還は全く現実性がないからだと述べる。私もプーチン政権下では現実性はないと考える。しかしそれは現状を基礎とした発想だ。激動する国際情勢の中において20年、50年、100年先もこの問題に関する情勢が変化しないと誰が言い得るのか。国家主権の問題とは、まさにそのように長期の対応を必要とする問題なのである。「せいては事を仕損じる」を忘れるべきでない」と。

 私見を述べると「20年、50年、100年先も」という年数の予想の適否は別として、激動する国際情勢において、今後、北方領土をめぐる情勢が変化する可能性があることを踏まえて、長期的に対応する必要があるという氏の見解に同意します。安倍首相が、今回ロシアとの平和条約の早期締結を目指しているのは、米・中・韓・朝の関係が深刻化し、今後、わが国が現在以上に厳しい安全保障上の環境におかれる可能性があり、中国とロシアの提携が強化されることは何とか避けたいという思いがあるものと推測されます。しかし、仮にわが国がロシアと「引き分け」のような形で領土交渉に一定の決着をつけ、経済協力を拡大したところで、プーチン政権のしたたかな外交・軍事戦略は変わらないと見るべきだと思います。むしろ、ロシアとの領土交渉で安易な妥協をすることは、日本が国家主権に対して消極的だと見られて、韓国との竹島問題に重大な影響を与え、さらに尖閣諸島を「核心的利益」と主張する中国への対応においても大きなマイナスになると思います。ロシアとの拙速な交渉は中韓にますます日本を侮らせ、後世に禍根を残すと懸念します。
 以下は、袴田氏の記事の全文。

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●産経新聞 平成31年1月25日

https://special.sankei.com/f/seiron/article/20190125/0001.html
性急な対露交渉は禍根を残す 新潟県立大学教授・袴田茂樹
2019.1.25

 1月22日にモスクワで日露首脳会談が行われ、領土交渉の行方に関心が集まった。深夜にテレビ放送された共同記者発表の様子を見ただけで、拍子抜けするほど成果らしきものは感じられなかった。
 安倍晋三首相の発言や表情からは、困難な交渉で確実に成果をあげたという満足感や高揚感、喜びの感情はくみ取れなかった。またプーチン大統領からも、一応首脳会談は行いましたよ、といった雰囲気しか感じなかった。首相や大統領の共同記者発表文や野上浩太郎官房副長官のブリーフを熟読しても、この印象は変わらない。

≪「成果」なしは却って良かった≫
 ただ私は率直に言うと、今の両国の交渉状況の下では、変な「成果」をあげるよりも、成果らしきものが何もなかったことは、却(かえ)って良かったとさえ思っている。その理由は、安倍首相の平和条約締結に対する、歴代のどの首相よりも強い熱意には大いに敬意を払うものの、今の官邸の対露政策は、露ペースに巻き込まれ過ぎていると懸念するからだ。
 露ペースとは、これまでは日露(日ソ)で合意していた日ソ共同宣言と東京宣言を基礎にした領土交渉を−そのことを明記した2001年のイルクーツク声明と03年の日露行動計画にプーチン大統領も署名している−昨年11月の首脳会談で、東京宣言を外して、日ソ共同宣言のみを基礎として交渉すると合意したことを指す。
 現在の露指導部は、「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」と両国首脳が合意した東京宣言を、対日政策における最大の失敗だと悔やんでいる。換言すれば、日本の長年の平和条約交渉の最大の成果の一つでもある。
 その理由は、東京宣言は4島の帰属先を明記していないという点で中立的だが−つまり日本にとってもリスクがある−4島が未解決の領土問題であることを両国がはっきりと認めているからだ。プーチン氏は05年9月に初めて「第二次世界大戦の結果南クリール(北方四島)はロシア領となり国際法的にも認められている」と主張し始めた。これは明らかに東京宣言を否定する歴史の強引な修正だ。

≪血の滲む努力を否定するのか≫
 ちなみに、1998年11月の日露のモスクワ宣言のときもエリツィン大統領と小渕恵三首相は「国境画定委員会」を設立した。また、プーチン政権下の2002年3月にイワノフ外相は下院で、日露間には国際法的に認められた国境が存在しないことを認めていた。これらも、領土問題が未解決であることを露側が認めていたことを示す。プーチン氏はこれら日露両国がともに認めていた事実を、05年に否定した。
 1月14日の河野太郎外相とラブロフ外相の会談で後者が「第二次大戦の結果、南クリール諸島は露領になったことを日本が認めない限り、領土交渉の進展は期待できない」との強硬発言をした。これはプーチン氏による歴史の修正を忠実になぞるものである。ラブロフ氏が柔軟なプーチン路線に反して、対日強硬路線を遂行しているというのは明らかに誤解である。
 私が露ペースと呼んだ事態、つまり日ソ共同宣言のみを基礎にして平和条約交渉を加速させるという露との合意に首相官邸は合意したが、これはこれまでの日本政府の長年の血の滲(にじ)むような対露交渉の成果を自ら否定するものではないか。私が、成果らしきものが何もなかったのは却って良かったとさえ思っている、と述べた意味も読者にはご理解頂けると思う。

≪主権問題は長期の対応が必要≫
 ある新聞は「首相、実質2島に絞り交渉」との見出しも付けた。私は2島返還さえもプーチン政権下では極めて可能性が小さいと判断している。したがって「2島プラスα」論とか「2島プラス継続協議」論でさえも、これまでのプーチン発言から考えると、現実性はないと考えている。
 となると、東京宣言を無視して「日ソ共同宣言を基礎」にする限り、「成果」を得たというとすれば何か玉虫色の、つまり両国が自国に都合よく解釈できる曖昧な合意か「2島マイナスα」、あるいは単に日本の協力を引き出すためだけの日ソ共同宣言を基礎とした「交渉継続の合意」になる可能性が高い。
 私は、2島にのみ焦点を当てた「成果」は、主権国家としての日本歴史の将来に禍根を残すと懸念している。本音を言えば、交渉となる島の数は問題ではない。日本が国際的に、主権侵害問題に真剣に対応する国と見なされるか否かが、国際政治的にはきわめて重要なのである。
 日ソ共同宣言だけ認める人の多くは、国後、択捉の返還は全く現実性がないからだと述べる。私もプーチン政権下では現実性はないと考える。しかしそれは現状を基礎とした発想だ。激動する国際情勢の中において20年、50年、100年先もこの問題に関する情勢が変化しないと誰が言い得るのか。国家主権の問題とは、まさにそのように長期の対応を必要とする問題なのである。「せいては事を仕損じる」を忘れるべきでない。(新潟県立大学教授・袴田茂樹 はかまだ しげき)
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