市川崑監督の1981年作の刑事ミステリ映画『幸福』を、やっと見ることができました。念願でした。
エド・マクベインの原作を現代の日本に置き換えて映画化したもので、その権利の複雑さからなかなか再上映もされず、テレビ放映もほとんどされないまま今に至るという名作です。
国立フイルムセンターがプリントを所有していたことから10年前にDVD(BD珍しいハイブリッドBD)がリリースされたものの、廃盤になって長く経っています。
高額なプレミアが付いて流通しているDVDを、今回たまたま安価で入手することができました。
1981(昭和56)年公開、東宝=フォーライフの共同製作による映画です。
【物語】
ある日の午後、都内の小さな古本屋で銃の乱射事件が発生。3人が犠牲となる。犠牲者のひとりは、現場に駆け付けた北刑事(永島敏行)の恋人だった。
捜査に当たることになった、北の先輩刑事である村上(水谷豊)は、妻に逃げられ、2人の子どもの世話にも忙殺される日々を送っていたが、同僚の野呂刑事(谷啓)とともに必死で手掛かりを探す。
やがて、事件の裏には、意外な人間関係が浮かび上がる。
…これは傑作でした。
殺人事件の犯人捜しを軸にしつつも、水谷豊扮する刑事の日常に重きが置かれており、水谷と子どもたちとのやり取りが、ユーモラスながらも緊張感を持って描かれています。
とにかく、水谷豊のうらぶれ刑事ぶりが最高です。
妻に逃げられたために家事も育児もしなければならず、シワシワヨレヨレのスーツを着て、生活に疲れたお父さん刑事という役。水谷豊は、近年のシャープなイメージが強いので、監督が意識したという『クレイマー、クレイマー』のダスティン・ホフマンのような役は新鮮でした(ちゃんと血の通った感じがするのがいい)。
恋人を殺されて犯人逮捕に燃える熱血な若手刑事に永島敏行。
2人の若手刑事をしっかりサポートするベテラン、谷啓も絶妙です。
ちゃんと捜査本部にいて「よーし、わかった!」と言ってくれる上司=加藤武もいれば、市川崑の常連メンバー、草笛光子や常田富士夫も健在なのが嬉しい。
一方で、事件の真相をめぐる物語の展開は、重いテーマと激しい格差社会をあぶり出し、しかもそれが声高ではないので、かえって胸に響くものがありました。
市川崑監督にとっては『おとうと』以来となる”シルバー・カラー(銀残し)”によるくすんだ映像が、何とも言えないもの哀しさを演出しています。
★★★★。
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