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2018年06月16日15:06

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米朝首脳会談は成果少なく、新たな懸念湧く2

 前回に続いて、米朝首脳会談の結果に関するマスメディアの論説と有識者の意見のうち、目に留まったものを掲載する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー●ワシントンポストの記事

米朝首脳会談の最大の勝者は中国だ
By ジョッシュ・ローギンJune 12

 トランプ大統領と北朝鮮のリーダーである金正恩委員長との首脳会談は、習近平国家主席の想像をはるかに越えた(北京側の視点からみれば)良い形で終わった。
 たった一日の会談のあと、トランプ大統領は米韓軍事演習を停止することに合意したわけだが、これはまさに北京政府が首脳会談前に提案したことを正確に行っただけだ。トランプは在韓米軍の撤退を公言したわけだが、これは中国にとって巨大な「戦略的棚ボタ」となるものだ。
 トランプ氏は中国が北朝鮮に対する経済制裁をダメにしているが、それに対して自分が何もできないことを認めている。そしてトランプ氏は北の政権に正統性を与えてしまっており、これによって北京を両国間において大きな影響力を持つ存在として維持するための、長期的なプロセスを開始してしまったのだ。
 ロシア・ヨーロッパ・アジア研究センターの代表であるテレザ・ファロンは「トランプ氏は勝者と敗者というわかりやすい構図が好きだが、今回の歴史的なトランプ=金サミットのあとの最大の勝者は、まさに習近平のようだ」と述べている。
 北京と平壌の関係は、ほんの数ヶ月前までは暗礁に乗り上げていた。ところが習近平と金正恩はうまく改善させて戦略を連携させ、現在は――トランプのおかげで――首脳会談を望ましい形で達成したのである。
 その合間にトランプ氏の譲歩は、同盟国との関係悪化や、東アジアにおけるアメリカの戦略態勢を弱体化させ、中国が望む外交の枠組みを支持するというリスクを生じさせたのだ。
 実際のところ、トランプと金正恩がシンガポールで合意した「ディール」は、そもそも北京によって提案された「凍結のための凍結」だったのだ。
 ファロンによれば「アメリカの同盟国たちの信頼を失わせることは、習近平にとって重要な勝利の1つ」であり、「北京は“凍結のための凍結”と合同演習の停止を望んでいた。そしてトランプ氏はまさにこれを何の対価もなく与えてしまったのだ。彼の交渉術とはすごいものだ」と述べている。
 トランプ氏は米韓合同軍事演習をやめただけでなく、中国と北朝鮮のレトリックをそのまま使って、以前米国が「軍の即応体制と抑止にとって必要だ」と説明していた軍事演習を批判したのだ。
 「われわれはウォーゲームを停止する。これによって多額の資金を節約できる。さらに、これはそもそも挑発的なものだ」とトランプ氏は火曜日の記者会見で述べている。
 その同じ記者会見の中で、トランプ氏はすべての在韓米軍を韓国から撤退したいとも公言しており、これは実際にトランプ自身が長年にわたって個人的に語っていたことである。ところが彼はさらに平壌との将来的な交渉の中で、米軍の減少についても議題に乗せたいと述べたのだ。
 「われわれの兵士を撤退させて帰還させたい。現在われわれは韓国に3万2千人もの兵士を駐留させているのだ・・・もちろんこれは北朝鮮との交渉の中で現在は議題として取り上げているわけではないが、将来的にはどこかの時点で議題となるはずだ」と述べている。
 またトランプは、米・韓・日が行ってきた「最大圧力」というキャンペーンを弱体化させることによって、北京に勝利を与えている。彼は北に対する新たな制裁を延期すると述べただけでなく、中国が厳格に制裁を実行していないことを認め、しかもそれを無視したのだ。
 「中国の習近平国家主席は・・・北との国境を封鎖したが、ここ数ヶ月はやや緩めているのかもしれない。でもそれでもかまわない・・・私はここ二ヶ月間において、国境は制裁を実行しはじめた頃と比べて開放されているのだが、それも現実だ」と述べている。
 中国の外交部は、火曜日に北への制裁解除を求める声明を発表して、会談から成果を挙げられるように「掛け金」を釣り上げている。
 北京は首脳会談が実現したという点だけでもトランプと喜んで合意するはずだ。中国外交部部長の王毅は、声明文書の中で、「両国首脳が共に座って台頭な立場で議論できただけでも重要な意義がある。これは新しい歴史をつくったのであり、北京はこれを歓迎し、このような結果を支援する」と述べている。
 元CIA長官のマイケル・ヘイデンは、「金委員長との将来の交渉に向けたプロセスを始めるための良い会談が行われたのはポジティブなことだが、北朝鮮が何か新しいことに合意した考えるべきではないし、このためにわれわれが大きな代価を支払ったことは忘れてはならない」と私に語ってくれた。
 彼によれば「われわれは世界最悪の独裁者の一人に対して、われわれと対等であるという感覚を、大統領の言葉を通じて、建前上でも本音レベルでも与えてしまったのだ。そしてそこからわれわれが得た成果というのは、将来のどこかで合意することを考えようという合意だけであった」のだ。
 中国にとってさらに嬉しいことに、トランプ氏はアメリカの同盟国である、韓国と日本に対して混乱を与えた。ソウルの大統領府の報道官は、火曜日の声明で「現時点でトランプ大統領の声明の真意についてはさらなる情報が必要だ」と述べている。
 トランプ大統領に対して不可逆な非核化の約束がなければ金委員長に譲歩しないよう求めていた日本政府は、屈辱を味わっているはずだ。
 トランプ氏は自分の直感を信じており、金委員長は非核化に真剣に取り組むと考えていて、トランプ氏が申し出ている経済開発支援を欲していると考えており、必ず約束を果たすはずだと信じている。
 「それでも彼は約束を果たすだろう。もちろん私が間違っている可能性はあるので、たとえば半年後に私はみなさんの前にたって自分が間違っていたと言うかもしれない。もちろん私はそれを認めるかどうかはわからないが、何らかの言い訳は見つけるかもしれない」と述べている。
 北朝鮮の独裁者の誠意を盲目的に信じることによって、アジアにおける米国の戦略態勢を破壊し、同盟関係に疑問を生じさせ、北朝鮮への圧力を緩和するのは、まったく合理的ではない
 もし北京の戦略的な狙いが「アジア地域におけるアメリカの地位の弱体化」にあるとすれば、トランプ氏は彼らにとってかなり役に立つ仕事をしたということが言えるだろう。

<上記の記事に対する奥山真司氏の見解>
 たしかにトランプ大統領の言うように事態が進めば、北京にとって願ったり叶ったりですね。ただし私は逆に、やはり今回の「失敗」は、トランプ政権自身の自滅的な要素が大きいと考えております。
 それよりも重要だと思うのは、なんといっても北朝鮮が会談を実現させたことによって、図らずとも小国が核武装をすることのメリットを世界中に教えてしまったこと。
 正直な戦略家は、核兵器を入手した国家には圧倒的な破壊力による対規模侵攻に対する抑止能力と、他国のリスペクトが与えられると主張することが多いわけですが、一時的にせよアメリカとの対等な関係が樹立可能であることをシンガポールで金委員長は立証してしまいました。
 もちろんワシントン側がこの失敗を認めて政策変更をしてくるかが今後の見どころですが、少なくとも短期的には北朝鮮、そしてもし本当に米韓軍事演習が停止されれば、中国の外交的な勝利は固まりそうです。

●有識者の見解(その2)

◆宮崎正弘氏

http://news.livedoor.com/article/detail/14864901/
中国、米朝首脳会談を実質コントロールか…会談内容が筒抜け、北への制裁解除か
2018年6月14日 19時0分
ビジネスジャーナル

 歯の浮くような儀礼的言辞のやりとりから、米朝首脳会談は始まった。2018年6月12日、シンガポールのセントーサ島のリゾートホテルで「世紀の会談」が行われた。会場に市内から離れた豪華ホテルを選んだのは、おそらく盗聴器を仕掛ける余裕を与えないためだろう。「警備がしやすい」というのは口実にすぎない。
 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は前夜にマーライオンを観光するなどリラックスムードを演出したが、当日は緊張した表情を見せていた。
 アメリカのドナルド・トランプ大統領は、自身の後援者で共和党の大口献金者としても知られるラスベガスのカジノ王シェルドン・アデルソン氏の所有するマリーナベイ・サンズホテルに宿泊することも予想されたが、実際はマレーシア華僑が経営するシャングリラ・ホテルを選んだ。その理由は、過去に連続してアジア安全保障会議(シャングリラ対話)の会場となっており、ジェームズ・マティス国防長官ら歴代国防長官が宿泊しているという経験上のものだろう。
 北朝鮮の歴史的体質は、まず内ゲバありきで、次いで必ず外国を巻き込むというものだ。金正恩は韓国をアメリカとの仲介役兼メッセンジャーボーイとして使い、中国を蚊帳の外に置くふりをして習近平国家主席を慌てさせ、しっかりと支援を取り付けた。その上、米朝首脳会談の直前にはロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣が平壌に乗り込み、金正恩と会談を行った。これで、関係国すべてを巧妙に巻き込んで土台を固めたというわけだ。
 問題は、金正恩の背後にいる中国である。中国は“子分”の暴走を防ぐために重度の介入を示し、挙句の果てに「遠距離を飛ぶ飛行機がない」というので、共産党最高幹部専用機を例外的に金正恩に貸与した。同機の通信施設や乗務員は中国人であり、およそすべての会談内容が中国に伝えられる。

いつもの強気が鳴りを潜めたトランプの言い訳
 日本の期待は夢幻に終わった。発表された米朝首脳会談の共同声明についてトランプは「素晴らしい」と自画自賛したが、朝鮮戦争終結の宣言はなく、非核化プロセスの具体的内容も欠いている。
 第一に「非核化への努力」はうたわれたが、「完全な、検証可能な、不可逆的な」という文言は共同声明のどこにもない。また、期限も方法も明記されていない。具体的な成果がなかったにもかかわらず、安倍晋三首相が「高く評価する」などとトランプの成果を渋々評価したが、納得するには無理がある。
 アメリカ政府筋は「これから高官による詰めが行われ、具体的な日程などが出てくる。ともかく、歴史的文脈においてこの会談は意議がある」と総括しており、今後の交渉に大きく期待する方向だ。とはいえ、「完全な、検証可能な、不可逆的な非核化」は言及されず、結局は曖昧な言質を金正恩から得ただけだった。
 5月初旬の2回目の中朝首脳会談以降、中国の後ろ盾を得た金正恩は強気になっていた。そして、トランプと「世紀のショー」を演出するためにアメリカ人人質を解放し、使い物にならなくなった核実験場を廃棄処分としたが、これらをトランプは記者会見で「成果」と総括した。それを見て、「ディール(取引)の名人もここまでか」との感想を抱いた。
「総合的に前進した」という米朝首脳会談は、アメリカにとっては11月の中間選挙対策であり、北朝鮮にとっては、やはり時間稼ぎと中国との関係性構築という意味合いが大きい。唯一、「制裁を続ける」というアメリカの姿勢だけが歯止めとなる要素ではないか。
 今回の米朝首脳会談に大きな期待を抱いた人にとって、失望の谷は深い。一方、あまり期待しなかった人にとっては、「なんとか一歩前進した」というのが率直な感想だろう。
 アメリカメディアは、次のように消極的な評価を下している。

「歴史的に米朝が『初の会談』という意議以外に何もない」(ニューヨーク・タイムズ)
「希望を抱かせたが、保証がない」(ワシントン・ポスト)
「希望に向けての前進」(ウォール・ストリート・ジャーナル)

 しかし、トランプは記者会見で「人権に言及した」「日本の拉致問題についてはちゃんと伝えた」と言い訳に終始し、いつものような強気の姿勢は見られなかった。その上、将来的な在韓米軍の縮小や撤退を示唆した。これでは、過去の歴代大統領が行ってきた、場当たり的な人気取りの対応と大きな違いはない。

米朝首脳会談、最大の勝者は中国か
 この米朝首脳会談で一番の勝者となったのは、中国である。おそらく、中国は「米朝関係に前進があった」として制裁緩和の方向に走り出すだろう。そもそも、会談前に「中国抜きでは何も進まない」と国際社会に印象づけることに成功し、金正恩の背後でシナリオを描き、結果的にトランプの在韓米軍撤退発言を誘発した。
 米朝首脳会談が行われた12日、東京・上野動物園のパンダが誕生1周年ということで、長い長い行列ができていた。パンダはチベットの動物であり、中国が外交の道具としているものだ。それを行列をつくって見るという日本人の行為は、中国を利することになりはしないだろうか。
(文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト)

◆ラリー・ウォーツェル氏

https://www.sankei.com/world/news/180616/wor1806160010-n1.html
2018.6.16 08:00更新
【激動・朝鮮半島】
「北、なお核兵器保持の狙い」「米朝会談で利益得るのは中国」 中国軍事戦略の専門家ウォーツェル氏に聞く 古森義久

 米国議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員で中国や東アジアの安保問題の専門家、ラリー・ウォーツェル氏が15日、産経新聞のインタビューに応じ、米朝首脳会談の成果や意味について語った。同氏は「北朝鮮はなお核兵器の保持を狙いつつ米側との厳しい非核化交渉を進めるだろう」と述べる一方、米朝間の新たな動きによって大きな利益を得るのは中国であり、日本は防衛強化が必要になると強調した。
 ウォーツェル氏はまず、米朝会談の結果を踏まえた北朝鮮の非核化の見通しについて「金正恩朝鮮労働党委員長の真意は北朝鮮が核兵器保有国として米国などに認知され、対米外交関係を樹立することだろうが、トランプ政権との合意により今後、非核化を目指しての長く厳しい交渉に応じ、その交渉を進めていくと思う」と述べ、北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の実現は簡単ではないとの見解を述べた。
 ウォーツェル氏は米朝会談の結果自体に関して「会談から利得を受ける主要な受益国は中国だ」と強調し、その理由を以下のように説明した。

(1)トランプ大統領が総括の記者会見で述べた米韓合同軍事演習の停止や在韓米軍の撤退はいずれも中国が長年、求めてきた戦略目標であり、アジア全域での米軍の存在を縮小するという習近平政権の政策に合致する
(2)金正恩氏が米朝首脳会談への往来に中国国際航空機を使ったことに象徴されるように北朝鮮は米国との協議に際し、中国を関与させており、朝鮮情勢への対処から最近、やや外れた感じのあった習近平政権にとって大歓迎の事態となった
(3)中国は北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党体制が続き、商品経済を導入して中国との貿易を拡大することが狙いの一つだが、米側の北朝鮮への安全の保証はこの意図に役立つ。

 ウォーツェル氏はトランプ大統領の米韓軍事演習の停止発言については「北朝鮮が新たに挑発的な行動を取らない限り、今年8月に予定された乙支フリーダムガーディアン演習が停止されるのだろうが、米韓両軍は他の多様な方法でも合同演習はできる」としながらも、米側のこの動きは朝鮮半島情勢の不安定化につながりかねないと述べた。トランプ大統領が記者会見で述べた在韓米軍撤退の可能性について、ウォーツェル氏は「まだ尚早であり、米韓両国で反対が起きるだろう」と語った。
 日本については「拉致問題で金正恩氏はまだ明確な発言をしていないようで残念だが希望はある」と述べる一方、今後、中国が東アジア地域で外交的にも軍事的にも影響力を強めるとして、「日本は米国との安保政策の協調を深めて中国に対する必要があり、北朝鮮の核やミサイルの脅威もなお残る以上、在日米軍との連帯による防衛一般、とくにミサイル防衛の抑止強化が求められる。日本の国会議員たちが米側の議会との連絡を緊密にして日米同盟を堅固にすることが特に効果を発揮すると思う」と語った。(ワシントン駐在客員特派員 古森義久)

◆西岡力氏

https://www.sankei.com/column/news/180614/clm1806140004-n1.html
2018.6.14 11:30更新
【正論】
玉虫色の米朝合意をどう読むか モラロジ−研究所教授、麗澤大学客員教授・西岡力

都合の良い「朝鮮半島の非核化」
 12日の首脳会談で米朝は「朝鮮半島の完全な非核化」実現で原則的な合意をした。これが米国の思惑通り北朝鮮の核兵器完全廃棄の方向に進めば、北朝鮮は見返りとして日本からの多額の経済協力資金を得ようと日本に接近してくる。すでに5月段階で、北朝鮮政権内部筋は私に、米朝協議がうまくいけば、2002年の小泉純一郎首相訪朝時の日朝協議で取ることに失敗した多額の過去清算資金を受け取るという方針が決まっていると、話していた。
 では米朝首脳会談はうまくいったのか。私は会談の結果は3つの可能性があると指摘してきた。すなわち、(1)金正恩委員長が譲歩して全ての核ミサイル、生物化学兵器の廃棄を実行する(2)トランプ大統領が核問題での中途半端な合意をしてしまう(3)決裂して昨年10月頃の軍事緊張状態に戻る−だ。
 少なくとも現段階では(3)にはならなかった。共同声明は玉虫色の表現で書かれており、トランプ氏側から読むと(1)とも解釈できるが、北朝鮮側から読むと(2)とも解釈できる。両者が都合良く解釈できる鍵になる言葉が「朝鮮半島の完全な非核化」だ。共同声明では「金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない、固い決意を再確認した」「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」と2回、この言葉が書かれた。

用語と実態を取引した可能性
 「朝鮮半島の完全な非核化」という場合、すでに1990年代初め韓国から米軍の核は撤収したのだから、北朝鮮の核兵器の完全な廃棄を意味すると考えるのが常識だ。ところが、北朝鮮の定義は常識と大きくかけ離れている。
 2016年7月6日に北朝鮮政府代弁人が「『北の非核化』詭弁(きべん)は朝鮮半島非核化の前途をより険しくするだけだ」と題する声明を出した。そこで主張した「朝鮮半島の非核化」は、核兵器があるかもしれない在韓米軍基地を査察し、核を積める戦略爆撃機や空母、潜水艦など戦略兵器の北朝鮮接近を禁止し、在韓米軍を撤退させることが含まれていた。これが2年前の北朝鮮の立場だった。
 金正恩氏がこの立場を変えたのか、変えないままトランプ大統領をだまそうとしているのか。共同声明とトランプ大統領の会見だけでは明確にならない。
 しかし、北朝鮮のだましの手口をよく知っているジョン・ボルトン安保担当補佐官が首脳会談に同席したから、むざむざとだまされたわけでもないはずだ。そのような目で共同声明を見直すと「金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない、固い決意を再確認した」という先に引用した部分のすぐ前に「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を約束し」と書かれていることに大きな意味があることが分かった。米朝の相互の約束が安全の保証と非核化なのだ。
来週にも始まるポンペオ米国務長官と北朝鮮当局者の協議で、北朝鮮側が在韓米軍基地査察や米軍撤退などを持ち出せば、今回の首脳会談でトランプ大統領がだまされたと分かる。そうなれば「北朝鮮の安全の保証」を無効にして、厳しい軍事圧力をかけるだろう。
 なぜ米国は「北朝鮮の非核化」という語を求めず、「朝鮮半島の非核化」という語を使うことを許容したのか。金正恩氏が核ミサイルを米国に持ち出されることを容認する決断をしたが、国内の動揺を抑えるために言葉上は過去に使ってきた「朝鮮半島の非核化」を使わせてほしいと懇願した可能性がある。首脳会談の前日夜に行われたポンペオ国務長官の会見でも「朝鮮半島のCVID(完全で検証可能、不可逆的な非核化)が、米国が受け入れられる唯一の結果」と語っていた。この時点で用語では譲るが、実態では譲らないというディール(取引)が米朝間で成立していたのかもしれない。

拉致組み込みは大きな外交成果
 金正恩氏は父の死後、父ができなかった日本からの過去清算資金を取ることで、父の権威を乗り越えたいと考えていた、という内部情報がある。金正恩氏の狙いを安倍晋三首相とトランプ大統領は十分承知し、CVIDを呑(の)め、呑んだら日本が多額の経済協力をするというメッセージを送ったのだ。トランプ大統領の立場では、自分が金正恩氏と行うディールの中に日本が出す資金を見せ金として組み込んでいるのだ。トランプ大統領が拉致問題を取り上げたのは、安倍首相の熱意や人道主義の立場だけではない。自国の財布は開かず、かわりに日本の資金をディールに使おうとしているのだ。
 日本から見ると米朝首脳のディールに拉致問題が組み込まれたことは、大きな外交成果だ。米国の軍事圧力を拉致解決の後ろ盾に使うことができる構造を作り上げたことになるからだ。日本は蚊帳の外などではなく、米朝のディールの一角に拉致問題解決と経済協力を組み込ませることに成功した。
 次は、日朝の裏交渉だ。そこで全被害者の即時一括帰国が実現できると判断したとき、安倍首相が果敢に平壌を訪れ、金正恩氏と最終談判をするしかない。(モラロジー研究所教授、麗澤大学客員教授・西岡力 にしおか つとむ)
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