たまには小説の話です。
大泉貴・著の「古書街キネマの案内人」を読みました。
これ、良いです。
映画好きのノスタルジーに付け込むような、「『ローマの休日』最高!『風と共に去りぬ』最高!『スタンド・バイ・ミー』最高!」というような類の映画小説ではなく、作品中で紹介される映画に渋みがあります。
神保町のミニシアターが舞台となる連作小説です。
【物語】
就職も決まり、暇になった大学生の多比良龍司(たいら りゅうじ)。
亡くなった叔父の遺品である映画パンフレットを買い取ってもらうため、神保町の古書街に立ち寄った龍司は、小さな名画座「神保町オデヲン」に偶然入る。そこでは『E,T,』と『ジョーズ』の2本立てが上映中であり、叔父の遺品にロードショー当時の『E,T,』の未使用前売り券が何枚もあることを思い出した龍司は、劇場の”案内人”の女性・六浦(むつうら)すばるに、前売り券が遺された謎を解いてもらうよう、依頼する。
映画に異様に詳しいすばるに惹かれて、龍司も「神保町オデヲン」で働き始める。
…第1章(Film.01)では『E,T,』の未使用前売り券の謎。
第2章(Film.02)では、『トラ・トラ・トラ!』の上映中に消えたあるフイルムの謎。
第3章(Film.03)では、ソフト化されていない幻の映画の盗撮事件。
第4章(Film.04)では、満州国時代の幻の映画『私の鶯』をめぐる顛末記が、それぞれテーマとなります。
あるジャンルに非常に詳しい女性(探偵役)と、彼女に惹かれる青年(助手役)という構図は、「ビブリア古書堂」「珈琲店タレーランの事件簿」あたりで定番化したようですが、この作品でもその構図です。
映画探偵のヒロイン、六浦すばるが非常に映画に詳しい理由は、映画ファンなら思わず開眼して納得してしまう、極めて説得力のあるものです。
舞台となる名画座・神保町オデヲンは架空の劇場ですが、モデルは神保町シアターか渋谷のシネマヴェーラでしょう。近くに喫茶店「さぼうる」があるようです。
この作者の小説は初めて読みました。ほかに映画に関する著作はないようですが、だとすると、かなり労力をかけて取材したのでしょう。でないと『私の鶯』を題材にはしないでしょう。
映画好きなら読んで損はありません。
ログインしてコメントを確認・投稿する