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2017年08月26日08:47

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ユダヤ93〜ユダヤ人の人権

●第2次大戦後の世界とユダヤ人の人権
 
 人権は、普遍的生得的な「人間の権利」ではなく、歴史的・社会的・文化的に発達する「人間的な権利」である。人権については、拙稿「人権――その起源と目標」で、社会思想史、政治哲学、倫理学、国際法、国際人権法、文明学等を踏まえて総合的な考察を行った。詳しくはそれを参照していただくこととして、私は、近代西欧における人権思想の発達は、ユダヤ人の存在と深い関係があると見ている。「発達する人間的な権利」としての人権は、主に国民の権利として発達したが、同時にユダヤ人等の権利としても発達した。
 第2次世界大戦後、人権を国際的に保障する制度や機構が発達した。人権の発達を推進したのは、「連合国=国際連合」だった。いわゆる国連は、連合国が戦後の世界秩序を維持するために制定した国際機関である。第2次大戦中に結成された連合国が、国際機関に発展したものである。英語名は、連合国も国際連合も“the United Nations”である。
  「国連=連合国」は、「国連憲章=連合国憲章」に、人権に関する規定を設けた。その背景として3点が挙げられよう。
 第1に、ナチス・ドイツの暴虐によって、人権を各国の国内法で保障するだけでは不十分であり、国際的に保障する必要性が認識されたことである。第2に、大西洋憲章に「恐怖及び欠乏からの解放」と「生命を全うすることを保障するような平和の確立」を掲げて、人権の尊重を戦争目的に掲げた連合国が勝利をおさめ、戦後の世界秩序を形作ったことである。第3に、資本主義諸国にとって、経済活動の自由を保障するため、人権を保障することが、資本と国家の利益になったことである。
 私は、これらの3点には、ユダヤ人が自らの生存と利益の確保のために、国際的に働きかけをしたことが重要な作用をしただろうと推測する。ユダヤ人にとっては、国家や民族を否定し、個人や市場を強調することが有利だからである。
 国連憲章に続く世界人権宣言による世界的な人権の実現は、ユダヤ人の自由と権利を保障することを、一つの目的とするものだったと私は考える。
 人間の尊厳という観念の背景には、キリスト教及びイマヌエル・カントの哲学があると私は考えている。近代西欧から世界に広がった人権の観念のもとにあるのは、ユダヤ=キリスト教の教義である。ユダヤ民族が生み出した宗教では、人間は神ヤーウェが創造したものであると教える。神が偉大であるゆえに、神の被造物である人間は尊厳を持つ。しかも、人間は神の似姿として造られたとされる。人間は他の生物とは異なる存在であり、地上のすべてを支配すべきものとされる。この人間をユダヤ民族に限定せず、キリスト教を通じて人類一般に広げるところに、人間一般の権利の思想として人権の思想が発展する。
 ユダヤ教を信じるユダヤ人にとって、18世紀以降啓蒙化されてきたキリスト教は、許容できるものである。ユダヤ教徒とキリスト教徒は、共通の神を信じ、共通の書物を啓典とし、共通の場所を聖地とする。キリスト教徒にユダヤ人を迫害させない仕組みをつくれば、人権思想はユダヤ人にとっても有益なものとなる。人権の思想を国連の組織や「憲章」「宣言」に浸透させることによって、彼らの経済力や科学・思想・芸術等に示す優れた能力を発揮できる社会を実現することができる。
 ユダヤ人の生命と尊厳、自由と権利を守るにはどうすべきか。外国に亡命を希望する者、国籍を失った無国籍者の権利は誰がどのように守るか。これらの課題について、ナチスの脅威を体験したユダヤ人は、大戦後の国際社会で自己防衛のために行動しただろうと推測する。
 私の思うに、働きかけは二つの方向で行われた。一つは、シオニズムが目的の地としたパレスチナに、ユダヤ人国家を建設すること。もう一つは、主権国家による国際社会の相対化を図り、ユダヤ人の生命と安全、財産と経済活動が守られるように、世界を変えることである。これら二つは、どちらも欠かせないものだった。
 イスラエルの建国は、ユダヤ民族の集団としての権利の決定的な実現となった。国家なき流浪の民が、希望の土地に国家を建設し、定住地を得た。大戦後、世界各地からユダヤ人がイスラエルに移住した。また各国に居住し続けるユダヤ人は、イスラエルを故国として連携した。
 ここで私が重要な役割を果たしたと考えるのが、ユダヤ人最高の実力者ロスチャイルド家である。欧州の支配集団の構成員であるロスチャイルド家は、英国政府等に働きかけ、イスラエル建国を推進した。ロスチャイルド家は、イスラエル建国に多額の資金を提供し、イスラエルの盟主のような存在となっている。ロスチャイルド家は、またユダヤ人の生命と安全、財産と経済活動が守られるように、国連の設立や世界人権宣言の実現を図り、働きかけをしたと思われる。
 だが、ロスチャイルド家が資金を出したイスラエルの建国は、パレスチナ住民の権利を侵害し、中東に深刻な対立構造を生み出した。ユダヤ人の自由と権利の拡大は、ユダヤ人の利益実現を中心としており、人類全体の人間的な権利の発達に、十分つながってはいない。
もともと「ディアスポラ(diaspora、離散民)」だったユダヤ人は世界各地に広がっており、文明間・ 国家間を自由に行動し、ネットワークを広げている。ユダヤ民族には、他の民族と同様、生存と繁栄の権利がある。しかし、彼らが中東でアラブ民族との和解・共存に努めない限り、彼らの行動はアラブ民族の自由と権利を侵害する。また、ユダヤ的価値観による強欲的な利益の追求は、世界の調和的な発展の阻害となっており、価値観の転換が求められている。21世紀の世界で人類が人権を世界的に拡大するには、人類全体のためにユダヤ民族が自己中心主義を打ち破ることが必要なのである。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「人権ーーその起源と目標」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i.htm
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