市川崑監督の貴重な初期作品の連続放送が日本映画専門チャンネルで続いています。
中でも問題作とされる社会派コメディ『億万長者』を見ました。
超ハイスピードで予想の斜め上を行く急展開。ついていくのが必死でした(笑)。
1954(昭和27)年、新東宝の配給作品です。
【物語】
税務署職員の館(木村功)は、うだつの上がらない冴えない男。滞納者の自宅へ行っても相手にされず、上司からも同僚からも無視される毎日だったが、芸者の花熊(山田五十鈴)との出会いなどを経て、脱税者のリスト作りに精を出すようになる。
ところが、ある出来事からリストを道端に落としてしまい、たまたまそれを拾ったのが検事総長だったため、政界をも揺るがす大事件へと発展していく。
…冒頭からしてぶっ飛んでいます。
東京の名所を紹介する旨の字幕が出ると、まず登場するのが、街頭で原爆製造への寄付金を募る演説をする女(久我美子)。原爆反対ではなく、日本も原爆を作るべきと絶叫。続いて、刑務所で珍説を訴える大物政治家(伊藤雄之助)が登場。こいつが汚職の元凶。
主人公を除き、登場人物のほとんどが10〜20人家族の大所帯。貧しい家族は困窮の極み、金持ちは芸者遊び三昧の生活。これを繰り返し、ハイテンションで、ハイスピードに描いて見せます。
下宿の2階で原爆を手作りする久我美子はほとんど狂人と紙一重だし、唯一まともな主人公は驚くほど影が薄い。ディフォルメもここまでくると芸術の域です。
※ご注意。以下、映画のラストに触れています※
実はこの映画、新東宝によりラストシーンが丸々カットされたため、市川崑は抗議の意味を込め、クレジットから名前を消しています(放送版には後付けで字幕が挿入される)。公開版のラストは、久我美子が原爆を完成させてしまい、主人公=木村功とパンツ一丁の岡田英二が走って逃げ出すというもの。
なんとカット版では原爆が爆発。現実と幻想が入り乱れて終わるという、なんともシュールなものだったようです。キューブリックも長谷川和彦も、市川崑に先取りされていたことになります。
ラストで原爆が炸裂というのは、大映=勝新太郎の『とむらい師たち』にもありましたが、恐らく一番古いのはこの映画。大いに笑って、ぞっと背筋が寒くなるという、笑いと恐怖が表裏一体であることを先駆けていた作品です。
★★★★。
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