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2017年02月16日09:36

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ユダヤ13〜道徳的・経済的生活と家族形態

(5)生活

●道徳的生活

 ユダヤ教は、信徒に律法・戒律を守る道徳的な生活を課す。紀元前9世紀ころから約400年続いた預言者時代に倫理的応報主義が確立し、その伝統が受け継がれている。
 ユダヤ教は、来世志向ではなく、また呪術を否定する。そのため、ユダヤ人の知恵は、現世における道徳的な実践に向けられた。そして、人間社会において正しく身を処するための方法が説かれた。
 それがよく表れているものの一つが、聖書の『箴言』である。『箴言』の作者は、紀元前10世紀の深い知恵を持つ王ソロモンに帰せられる。主な内容は、夫婦、親子、富者と貧者、主人と従僕などの人間関係に関する道徳的教訓である。特に繰り返されているのは、酒とみだらな女に対する注意や、平静と沈黙の勧めなどの教訓である。
 『箴言』に盛られたような知恵(ホクマー)は、律法に準じて神聖視される道徳的訓戒となっている。

●営利追求の肯定

 ユダヤ教は、営利欲求を肯定する。ポール・ジョンソンは、著書『ユダヤ人の歴史』に次のように書いている。「ユダヤ教は宗教心と経済的繁栄を切り離さない。貧しい者を讃え、強欲を戒める一方、実生活のためになるものと倫理的価値が切っても切れない関係にあることを示している」。ユダヤ教では、「正しく執り行われた商売は厳格な倫理に完全に即しているばかりか、徳の高い行いだと考えた」と。
 古代メソポタミア文明のバビロニア王国では、「ハンムラビ法典」に貸し付けの利子率が定められていた。ヒッタイト人、フェニキア人、エジプト人の間でも、利子は合法的だった。ユダヤ人は、こうした古代西アジアの諸文明の経済文化の影響を受けた。
 『申命記』に、「外国人には利子を付けて貸してもよいが、同胞には利子を付けて貸してはならない。」(23章21節)と定めている。また「外国人からは取り立ててもよいが、同胞である場合は負債を免除しなければならない。」(15章3節)としている。外国人からは利子を取ったり、取り立てをしたりしてよいという教えである。またユダヤ民族について、「あなたに告げたとおり、あなたの神、主はあなたを祝福されるから、多くの国民に貸すようになるが、借りることはないであろう。多くの国民を支配するようになるが、支配されることはないであろう。」(15章6節)とも書かれている。富の力による他民族への支配が予言されている。そして、タルムードには、「義人の目に麗しく、世間の目に麗しいものが七つある。その一つは富である」と記され、富は美徳とされている。
 仏教の開祖である釈迦やキリスト教の開祖イエスは、現世的な欲望を否定し清貧であることをよしとしたが、ユダヤ教は富を良いものとし、営利欲求を抑制して歯止めをかける教えを持たなかった。ユダヤ教の営利欲求を肯定する教えは、ユダヤ的価値観の根本にあるものの一つである。この価値観は、近代西欧の資本主義と結びついて発展し、キリスト教社会へ、さらに非ユダヤ=キリスト教社会へと広まって、今日に至っている。

●家族型の影響
 
 ユダヤ人の家族形態は、直系家族である。直系家族はヨーロッパでは広く見られ、ヨーロッパ以外ではユダヤの他、日本と朝鮮が直系家族である。直系家族は、子供のうち一人のみを跡取りとし、結婚後も親の家に同居させ、遺産を相続させる型である。その一人は年長の男子が多い。他の子供は遺産相続から排除され、成年に達すると家を出なければならない。こうした婚姻と相続の慣習によって、父子関係は権威主義的であり、兄弟関係は不平等主義的である。この型が生み出す基本的価値は、権威と不平等である。
 ユダヤ人の家族人類学者・歴史人口学者であるエマヌエル・トッドは、家族型における父性の権威の強弱と、ユダヤ=キリスト教における神のイメージには相関性があることを指摘する。権威の強い父からは厳格な神がイメージされ、全能の神のもとで人間の自由意思は否定される。直系家族を母体としたユダヤ教やルター・カルヴァン的なプロテスタントがこれであるとする。逆に権威の弱い父からは寛容な神がイメージされ、非全能の神のもとで人間の自由意思が肯定される。絶対核家族を母体としたアングロ・サクソン的なプロテスタントがこれであるとする。私は、ユダヤ教は単純に自由意思を否定していないと考えるので、その点には異論がある。
 また、トッドによると、直系家族は権威と不平等の価値から、人間は本質的に違うという差異主義の価値観を示す。それが他民族への態度の根底にある。加えて、私見によれば、直系家族は、絶対核家族や平等主義核家族と違って、個人主義的ではなく集団主義的である。個人の自由や権利より、集団の維持や繁栄を重視する。
 次に、ユダヤ社会の通婚制度は、族内婚である。族内婚は、配偶者を自己の所属する集団の内部で得る制度である。族内婚型直系家族は閉鎖的だが、族外婚型直系家族よりも温和な差異主義を示す。兄弟を不平等としながら、族内婚であることによって、兄弟関係に温かさを持つ。民族内における集団間の関係についての見方は穏和である。
 トッドは、直系家族を「父系への屈折を伴う双系制」と定義し、ユダヤ人社会は、父方・母方の親族に平等に重要性を与える双系制だとする。遺産相続は女性を対象から除外しており、この点は父系的だが、ユダヤ人はユダヤ人の母親から生まれた者をユダヤ人とするので、この点では母系的である。そのため、女性の地位はある程度高い。
 ユダヤ人社会の持つ直系家族・族内婚・双系制という要素が、ユダヤ教に影響を与えていると考えらえる。その限りで、ユダヤ教は直系家族の価値観に基づく権威主義的で差異主義的、また集団主義的な宗教である。
 ただし、こうした家族形態だけで、ユダヤ教の特徴が決まるわけではない。一個の宗教としての独自の人間観・世界観・実在観が形成されたのは、主体と環境の相互作用の中でなされた、と考えるべきだからである。ここで主体とは集団的主体であり、家族形態はその集団の構成に関わるものである。そうした主体が生きる環境には、自然環境と社会環境がある。ユダヤ教は、砂漠に発生した宗教としてその自然環境の影響を深く受けている。また、周辺諸民族から侵攻され、征服・支配されやすいという社会環境の影響も大きい。こうした自然及び社会の環境との相互作用の中で、家族形態に基づく価値観が反映する仕方で、ユダヤ教の人間観・世界観・実在観が形成された、と私は考える。

 次回に続く。

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