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2017年01月21日09:28

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ユダヤ2〜ユダヤ教の宗教学的・文明学的な位置づけ

●ユダヤ教の宗教学的位置づけ

 ユダヤ教の概要について、まずユダヤ教の宗教学的及び文明学的位置づけを述べる。
 宗教学では、宗教の原初形態として、マナイズム、アニミズム、フェティシズム、動物崇拝、トーテミズム、天体崇拝、自然崇拝、シャーマニズムなどが挙げられる。また、人類の歴史において現れた様々な宗教の分類が行われている。自然宗教/創唱宗教、祖先崇拝/自然崇拝、多神教/一神教/汎神教、啓典宗教/啓典なき宗教、部族宗教/民族宗教/世界宗教、、個人救済の宗教と集団救済の宗教等である。
 わが国の代表的な宗教学者・岸本英夫は、宗教には「神を立てる宗教」と「神を立てない宗教」という分け方をする。前者は崇拝・信仰の対象として神を立てるもので、一神教・多神教・汎神教等である。後者は、神観念を中心概念はしない宗教で、マナイズムやいわゆる原始宗教・根本仏教等である。この分類の仕方によれば、ユダヤ教は「神を立てる宗教」であり、そのうちの一神教である。
 一神教は、基本的に多神教と対比される。多神教は、多数の神々を祀る宗教である。多神教は、自然の事象、人間・動物・植物等を広く崇拝・信仰の対象とする。汎神教といったほうがよいものも、ここではこれに含む。多神教では、自然が神または原理であり、人間は自然からその一部として生まれたと考える。宗教的には、日本の神道、シナの道教・儒教、ヒンドゥー教、仏教、アニミズム、シャーマニズムである。地理学的・環境学的には、森林に現れた宗教という特徴を持つ。森林の自然が人間の心理に影響したものと考えられる。多神教には、多元的多神教と一元的多神教がある。前者は、多くの神々が並列しており、そこにそれらを統合する神または原理が存在しないものである。後者は、根源的な神または原理があって、その様々な現れとして多数の神々が存在するものである。私は神道はこの後者と考えており、そのことを拙稿「日本文明の宗教的中核としての神道」に書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09l.htm
 一方、一神教は、一つの神のみを祀る宗教である。これには、単一神教、拝一神教、唯一神教がある。単一神教は、自己の集団において多くの神々を認め、その中に主神と従属神があるとし、他の集団の神格も認める。従属神を認める点では、多神教に近い性格を持つ。拝一神教は、自己の集団において唯一の神のみを認めるが、他の集団における神格をも認める。唯一神教は、唯一の神のみを神とし、自己の集団においても他の集団においても、一切他の神格を認めない。この唯一神教の元祖となっているのが、古代中東に現れたユダヤ教である。ユダヤ教からキリスト教が派生し、またユダヤ教の影響のもとにイスラーム教が生まれた。これらの唯一神教は、地理学的・環境学的には、砂漠に現れた宗教という特徴を持つ。砂漠の自然が人間の心理に影響したものと考えられる。
 ユダヤ教は、唯一神教であるとともに、その唯一の神の啓示を受けたとする啓示宗教、神と結んだという契約による契約宗教、また神の言葉を記したとする啓典を持つ啓典宗教である。創唱者を持たない自然宗教であり、ユダヤ民族の宗教である。また、ユダヤ民族という集団を救う集団救済の宗教である。ここで民族とは、エスニック・グループを意味する。一般にしばしば民族と訳される近代的なネイション(国家・国民)とは区別される。
 ユダヤ民族は、最初の人間をアダムとする。アダムの子孫であり大洪水で生存したとされるノアには、セム・ハム・ヤペテの三人の子があったとする。長子セムはアッシリア人、アラム人、ヘブライ人、アラブ人の祖先とされている。言語学ではセム語族という言語系統の集団がある。セム語族には、アッカド語、バビロニア語、ヘブライ語、フェニキア語、アッシリア語、アラビア語などが所属する。私は略してセム系という。ユダヤ民族は、セム語系のヘブライ語を話す。セム系以外を非セム系と言う。非セム系には、ユダヤ民族の伝承に含まれない諸民族を含む。
 ユダヤ民族は、伝説のセムの子孫であるアブラハムをユダヤ民族の始祖とする。ユダヤ民族はアブラハムが契約した神ヤーウェを信仰している。その信仰がユダヤ教である。ユダヤ教からキリスト教が派生した。さらにこれらの宗教の影響を受けて、セム語系のアラビア語地域にイスラーム教が誕生した。
 ユダヤ人もアラブ人もともにアブラハムを祖先とし、それゆえにまたセムを祖先とすると信じる。そこで私は、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教を、総称してセム系一神教と呼んでいる。非セム系では多神教が主であり、その中にはアニミズム、シャーマニズム、ヒンドゥー教、仏教、儒教、道教、神道等が含まれる。これらは、非セム系多神教である。非セム系には、一神教もある。ユーラシア大陸の遊牧民族における天空信仰は、天空を信仰対象とする一神教であり、非セム系一神教の一例である。私が一神教と多神教という分け方にセム系と非セム系という区別を加えるのは、一神教におけるユダヤ思想の影響を強調するためである。また、次の項目で述べる文明の分類においても、セム系一神教と非セム系多神教という分け方をしている。

関連掲示
・本稿は、私の宗教論の第3作となる。既に書いたものは、次の通りである。
 「日本文明の宗教的中核としての神道」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09l.htm
 「イスラームの宗教と文明〜その過去・現在・将来」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-2.htm

●ユダヤ教の文明学的位置づけ

 世界の文明は、主要文明と周辺文明に分けられる。私の定義では、主要文明とは、独自の文明の様式をもち、自立的に発展し、かつ文明の寿命が千年以上ほどに長いか、または現代世界において重要な存在であるものである。また周辺文明とは、主要文明の文化的刺激を受けて発生し、これに依存し、宗教・政治制度・文字・芸術・技術等を借用する文明である。
 文明学者アーノルド・トインビーは、文明の中核には、宗教があると説いた。国際政治学者サミュエル・ハンチントンは、この説を受けて、世界に現存する主要文明を主に宗教によって分類している。すなわち、キリスト教的カソリシズムとプロテスタンティズムを基礎とする西洋文明(西欧・北米)、東方正教文明(ロシア・東欧)、イスラーム文明、ヒンドゥー文明、儒教を要素とするシナ文明、日本文明、カトリックと土着文化を基礎とするラテン・アメリカ文明。これに今後の可能性のあるものとして、アフリカ文明(サハラ南部)を加え、7または8と数えている。
 この分類によれば、世界の宗教のうち現代世界における主要文明の中核となっている宗教は、キリスト教、イスラーム教、ヒンドゥー教、儒教、神道の5つである。これら以外の宗教、アニミズム、シャーマニズム、仏教や様々な民族宗教を中核にしている文明は、主要文明ではなく周辺文明に留まっている。私は、世界の諸文明は、そうした宗教によって大きく二つのグループに分けている。セム系一神教による文明群、非セム系多神教による文明群である。そして、これらをセム系一神教文明群、非セム系多神教文明群と呼ぶ。
 セム系一神教文明群は、ハンチントンのいう西洋文明、東方正教文明、イスラーム文明、ラテン・アメリカ文明の四つの主要文明がこれに属する。私は、ユダヤ文明を、この文明群に属する周辺文明の一つとして位置づける。ユダヤ文明は、ユダヤ教を宗教的中核とし、ユダヤ民族が創造した文明である。
 トインビーは、世界史において、「充分に開花した文明」が過去に23あったとした。その一つとしてユダヤ文明を挙げた。ユダヤ教社会は、古代シリア文明にさかのぼる。シリア文明は、紀元前1200年頃のフェニキア文明以来、中東で発展してきた文明である。ユダヤ民族は、シリア文明の一弱小民族だった。その後、ユダヤ民族はその周辺文明として独自の文明を創造したが、ローマ帝国によって滅ぼされた。その過程で、ユダヤ文明は、ユダヤ教から派生した新たな宗教を生み出した。それが、キリスト教である。キリスト教はローマ帝国の国教となり、ユダヤ民族の亡国離散、ローマ帝国の滅亡の後も、世界宗教となって伝播し続けた。そして、ユダヤ民族は、ユダヤ=キリスト教という文化要素を、ギリシャ=ローマ文明経由でヨーロッパ文明に提供することになった。
 ローマ帝国に滅ぼされて各地に離散したユダヤ教諸社会を、まとめて一個の文明と見ることはできない。しかし、ロシア、東欧、西欧、北米等に離散したユダヤ人は、19世紀後半からパレスチナに移住し始めた。そして、第2次世界大戦後、イスラエルを建国し、ここに世界各地から多くのユダヤ人が移住するようになった。私は、イスラエル建国後のユダヤ教社会を現代ユダヤ文明と呼ぶ。これに対し、古代に滅びたユダヤ文明を古代ユダヤ文明と呼ぶ。現代ユダヤ文明は、古代ユダヤ文明を復活させたものである。これらの継続性を認めて、総称したものが、ユダヤ文明である。また、私は西洋文明、東方正教文明を主要文明とする文明群を、ユダヤ=キリスト教諸文明とも呼ぶ。
 建国後のイスラエルは、ユダヤ教を宗教的な文化要素としつつ、ロシア、東欧、西欧、北米の諸文化、諸思想が混在する社会となっている。また、ユダヤ文明は、イスラエルを中心とし、米国、フランス、カナダ、イギリス、ロシア等に広がる文明社会である。それと同時に、ユダヤ=キリスト教系の主要文明である西洋文明、東方正教文明に対する周辺的存在である。この周辺文明は、他の主要文明の文化要素を取り入れながらも、逆にそれらに強力な影響を与え続けている。このような例を他に人類の文明史に見出すことはできない。
 ユダヤ教は、ユダヤ文明の精神的中核となっている宗教である。またそれと同時に、世界有数の主要文明である西洋文明、東方正教文明、イスラーム文明に対して大きな影響を与えている宗教である。そうした宗教の事例を、現代世界において他に見出すこともできない。
 本稿は、ユダヤ教を上記のように宗教学的及び文明学的に位置づけるものである。

 次回に続く。
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