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2017年01月05日11:24

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トランプ時代の始まり〜暴走か変革か15

(3)中東

 トランプ新政権の中東への影響に関しては、ロシアに関する項目に少し書いたが、米露関係が最も鋭い緊張を生んでいるのは、シリアをめぐってである。ロシアは、バッシャール=アル・アサドの政権側に空軍部隊を派遣し、反体制派を支援する米欧と真っ向から対決している。だが、トランプは選挙期間中に、アサド政権を支援するロシアの軍事介入を容認する発言をした。大統領を目指す人物がこのような発言をするとは、仰天ものだった。トランプが実際に従来米国が取ってきた対露強硬路線から融和路線へと大きくかじを切るならば、第2次大戦後の国際秩序が大きく変わる可能性がある。良い変化ならいいが、多極化時代における新たな国際秩序の形成というより、世界的な混乱への引き金になる恐れがある。
 アサド政権軍は、ロシアの他にイラン、レバノンのイスラーム教シーア派組織ヒズボラなどから支援を受けている。政権軍は、シリア最大の都市で北部の要衝アレッポの制圧を目指して攻勢を続け、2016年12月13日にほぼ全域を制圧した。反体制派部隊は、軍事的に壊滅状態に陥り、ロシアやトルコを仲介役として、政権側との間でほぼ降伏に等しい「市外退去」で合意した。これによって、シリア内戦は重大な転換点を迎えた。アサド大統領は、反体制派に対する勝利と政権の存続に自信を強めたことだろう。
 アレッポは、2012年、シリアの他の都市からやや遅れて反体制派の活動が活発化し、最激戦地となった。アレッポで活動する反体制派は、トルコ・サウジアラビア等の支援を受け、イスラーム教過激派の戦闘員が国外からも多数参加した。アレッポをめぐる攻防は、アサド政権やそれを支援するイラン等のシーア派とスンナ派の対立の場として、象徴的な性格を帯びることになった。戦闘による死者は10万人を超えると見られる。
 ロシアは、2015年秋、本格的な軍事介入を開始した。過激派掃討の名目で、アレッポなどへの空爆を強化した。ロシア軍の攻撃は強力で、戦況を大きく変えた。その一方、米国の大統領選では、ヒラリーの当選を阻止し、トランプに勝利させるべくたびたびサイバー攻撃を行った。昨年11月8日トランプの勝利が確実になると、ロシアは、本年1月20日にトランプ政権が発足するまでにアレッポを制圧し、その後の外交交渉を優位に進めようとしてきたと見られる。ロシアは一時、トルコがロシア軍用機を撃墜したことで同国と関係が悪化したが、エルドアン政権に強力に圧力をかけて、関係を回復している。そして、トルコの協力も得る中で、昨年12月中旬には、アレッポの制圧を実現した。
 米国のオバマ政権は、シリアからの過激派排除の必要性ではロシアと一致する一方、アサドの退陣を求めて反体制派への支援を継続してきた。だが、反体制派には多数の過激なジハーディズム(聖戦主義)の勢力が参加しており、米国の理念や価値観では複雑な現実に対応できなかった。昨年2度にわたって試みられた停戦協議などでも、米国はロシアの後手に回わった。アレッポの制圧でも、ロシアに主導権を握られたままだった。
 トランプ政権は、稼働開始後、ISIL掃討作戦にこれまで以上に力を集中すると見られる。トランプは選挙期間中、ISILに対して、オバマ政権より強硬な姿勢を明らかにした。地上軍の投入や戦術核の使用を示唆し、ロシアと連携も辞さないと述べた。だが、その一方、米国の介入を避けてロシアとイランに委ねることを示唆してもきた。従来、米国はロシアの勢力拡大を避け、イランの強大化を防ぐために中東に多くの戦力を回していたのだから、正反対の発想である。外交や軍事の知識・経験の少なさから来る放言とも取れる。世界戦略や安全保障を担当する閣僚がどのような提案・助言をするかが注目される。
 さて、米国の中東政策は、イスラエルを守ることが最も優先される傾向がある。米国では、ユダヤ・ロビーが巨大な影響力を持ち、イスラエルを守りユダヤ人社会の支持を得られる者でないと、大統領にはなれなくなっている。オバマ大統領も、就任当初はイスラエル支持を鮮明にしていた。しかし、2015年10月イランとの核合意の実現を優先したことにより、イスラエルとの間に距離を生じた。これに対し、イスラエルのネタニヤフ首相は、米国の方針転換を狙っている。ネタニヤフは、現職首脳でありながら選挙期間中に、トランプ・タワーを訪れてトランプと会談した。トランプは、イスラエルを強く支持することを表明した。2016年米大統領選挙翌日の11月9日、ネタニヤフ首相はトランプと電話会談を行い、「2人の長年の友情」を強調した。オバマ政権は、12月24日イスラエルの入植活動を批判する国連安保理決議を棄権し拒否権を行使しなかった。ほとんどの場合、イスラエルを擁護する米国としては異例の対応である。だが、ネタニヤフは、トランプ新政権が誕生することにより、米国とイスラエルの関係の再強化を確実にしている。
 さらにネタニヤフは、トランプ政権がイランに対して強硬な行動を取ることを期待していると見られる。2015年10月に発効したイランと米国等6カ国の間のイラン核合意は、イランの核開発制限と引き換えに、国際社会が制裁を解除する内容である。だが、米国内には、共和党を始め核合意への反対意見が少なくなかった。トランプは、オバマ政権による核合意を「最悪の取引」だと批判し、合意の破棄を公約している。核合意には英仏独中露も参加しており、米国の一存で解消とはならないだろうが、実際に米国が破棄したら、イラン情勢は不安定さを増す。
 イラン側にも核合意に反発する強硬保守派が存在すると伝えられる。米国が解除した制裁は核開発に対するものだけであり、弾道ミサイル開発、国際テロ支援の制裁は維持されている。制裁への懸念から欧米資本は進出をためらっており、原油安が加わって、イランの経済復興は進んでいない。それへの不満を表すように、イランは、一昨年(2015年)秋から弾道ミサイルの発射実験を繰り返している。また、核合意の規定を超える重水の貯蔵も発覚した。強硬保守派は、本年5月の大統領選挙で、合意を成果に再選をめざすロウハニ大統領の打倒を狙っている。
 イランは、中東随一の地域大国である。また、イスラエルにとっては最大のライバルである。ネタニヤフ首相とすれば、トランプがイラン核合意を破棄して、イランへの制裁を回復・強化することが国益となる。しかし、米国が対イラン強硬策を進め、これに対してイランが反米的な態度を強めれば、アメリカ対イランの対立が先鋭化する可能性が出て来る。イランは、シーア派の大国として、イラク、シリア、レバノンを結ぶ「シーア派三日月地帯」を中心に影響範囲を広げている。これを警戒するスンナ派の盟主サウジアラビアとは関係が悪化し、2016年1月に両国は国交を断絶した。
 中東は、アジア・太平洋やユーラシア北西部と異なり、15年間、戦争が続いている地域である。シリアとISILの支配地域は、世界で最も激しい戦闘が行われている地域である。地域大国のイラン、これに次ぐ強国のサウジアラビア、トルコ、イラクが複雑な絡み合いをしている。そこにロシアが影響力を強めている。そうした環境でトランプがイスラエルの方に寄りすぎると、中東で大きなバランスの変化が起り、米国が巨大な砂地獄に引きずり込まれる危険性が出てくる。またロシアとの関係改善を図ろうとする一方的な親露姿勢を、プーチンに利用される恐れもある。

次回に続く。

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