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2016年11月27日10:01

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天皇陛下のお気持ち表明にどのようにお応えするか

 8月8日NHKテレビで「天皇陛下のお気持ち表明」という番組が放送された。今上陛下は、数年のうちに譲位をされたいというご希望と強く感じられるお言葉だった。ご高齢の天皇に譲位を認めるのか、それとも摂政を置くという伝統的なあり方を踏襲するのか。お気持ち表明に対して、どのようにお応えするかは、我が国の根幹に関わる重大課題である。
 政府は10月7日の閣議で、天皇陛下の譲位を可能にする法整備について、皇室典範の改正によらず、特別措置法制定でも可能とする答弁書を決定した。憲法は、皇位継承について第2条で「皇室典範の定めるところによる」と規定している。同条における「皇室典範」には「現行の皇室典範のみならず、その特例や特則を定める別法も含み得る」と指摘した。皇室典範の付則に「特別の場合」に限定して特措法で対応できる旨を追加することが考えられる。
 10月から安倍晋三首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が行われている。16人の専門家から意見を聴き、答申をまとめる。内閣官房の皇室典範改正準備室を中心に、それら専門家などから幅広い意見を聴取し、特措法案の内容を詰める。提出は年明け以降になる見通しという。
 特別措置とはいえ、それが前例になる。譲位を可能にすることは、皇室制度の根幹に関わる。わが国の歴史・伝統・国柄を踏まえた一大研究が必要である。明治維新の時以来の大きな重みをもった取り組みになる。
 最大の課題は、譲位による争いを避ける工夫である。そんなことはありえないと考える有識者がいるが、彼らは日本の歴史とそれを踏まえた明治の元勲・伊藤博文らの努力をよく理解していないのではないか。特別措置と言っても、後顧に憂いのないように熟慮検討すべきである。
譲位がされれば、元号が変わることになる。現行の皇室典範には、譲位した後の天皇の称号を定めていない。歴史的には太上天皇いわゆる上皇が用いられたが、これをどうするか。譲位後の先帝の権能、お住まい、公費(内廷費か皇族費)の支給額等をどうするか。また、皇太子が天皇に即位した場合、男子のお子様がいないので新たな皇太子を置くことができない。皇太子は「皇嗣たる皇子」と皇室典範に定めているからである。皇位継承順位第1位となる秋篠宮殿下は、皇太子ではなく別の呼称が必要になる。歴史的には皇太弟というが、これも皇室典範に新たに定めねばならない。その他にもいろいろ検討点がある。
 現行の皇室典範の規定に基づいて、摂政を置くのであれば、検討点は限られる。しかし、譲位を可能にしこれを特措法で対応するとすれば、遥かに多くの検討点をしっかり網羅したものにしなければならない。特に重要なのは、譲位による争いを避け、皇位継承が安定的に行われるようにすることである。

 11月24日有識者会議の議事録が公開された。首相官邸のサイトに掲載されている。
11月7日と14日の2回にわたる意見聴取の議事録は、下記にて公開されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koumu_keigen/dai3/gijiroku.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koumu_keigen/dai4/gijiroku.pdf
 意見聴取の議事録によると、意見陳述者のうちには、政府が方針としている譲位を可能にするための特措法に反対する意見の人たちがいる。摂政か臨時代行を置くという対案が出されている。
 例えば、東京大学名誉教授の平川祐弘氏は、「退位せずとも高齢化の問題への対処は摂政でできるはずで、もしご高齢を天皇の責務免除の条件として認めるのであれば、それで問題はすむことかと存じます。皇室典範の摂政設置要件「天皇が精神、身体の重患、重大な事故により」の中に「高齢により国事行為ができない場合」を加えるか、あるいは解釈を拡大、緩和して摂政を置かれるのがよくはないか」と摂政を置くことが望ましいと発言した。陛下が制度としての摂政に反対されたことには「甚だ理解に苦しむ」と述べ、陛下の「個人的なお気持ちを現行の法律より優先して良いことか」と指摘し、天皇高齢の退位について「強く否定的な見方」を示した。
 帝京大特任教授の今谷明氏は、「憲法4条2項に基づく国事行為委任。これは御老齢の陛下の代行としてはふさわしい。この規定をあるいは拡大して、公的行為にとりましてもこの規定を拡大して御老齢の代行措置として対応したらいいのではないか。したがいまして、摂政設置には及ばないのではないか」という意見を述べた。続いて譲位の可否に関し「与野党の見解が分かれており、すでに政治問題化しかかっている。天皇の問題について与野党が一致していない場合、近代憲政史上では極めて遺憾な処理が行われている」と指摘した。具体例として昭和初期の統帥権干犯問題を挙げ「与野党が分かれた上に野党の見解に軍部が便乗して、取り返しもつかない無謀な戦争へ転げ落ちていく動きにつながった。与野党一致するまで見送りが相当ではないか」と問題提起した。
 上智大名誉教授の渡部昇一氏は、譲位への否定的見解を示した上で「今、天皇陛下は皇室典範の違反を犯そうとしていらっしゃる。皇室典範を変えてはいけないし、臨時措置法(特別措置法)などというインチキなものを作ってはいけない」と述べた。「問題は、今の天皇陛下が摂政は好ましくないとおっしゃったことです。これは公におっしゃる前に、そばにおつきの方が「そんなことをおっしゃってはいけませんよ」とおっしゃる方がいればよかったわけです」。と指摘した。そして、「おっしゃる方がいないから、今、天皇陛下は皇室典範の違反を犯そうとしていらっしゃいます。だから、それはそうさせてはいけません。皇室典範を変えてはいけないし、臨時措置法などというインチキなものを作ってはいけません。どうしてもこれはしかるべき人が説得すべきです」と持論を述べた。

 ところで、政府の特措法案は、内閣官房の皇室典範改正準備室が中心となって立案するという。内閣官房の皇室典範改正準備室の室長は、田中宗子氏という。近畿大学卒で、ハーバード大学法学PhD、東京大学法学博士号を持つ国家公務員である。
 田中氏は、「皇室典範改正準備室、室長 田中宗子です!」と題したブログを開設していた。
http://ameblo.jp/koshitsutenpan/
 相当量の掲示がされていたが、本日(11月27日)朝9時前の時点で「このブログにはまだ投稿がありません。」という一文が掲載され、それまでの掲示文がすべて削除されていた。9時25分の時点ではブログそのものが閉鎖された。
 原因はわからないが、私は田中室長の掲示内容に注目し、大きな問題を感じていたので、その点について書いておくことにする。

 まずこのブログは、題名の下に「内閣官房公認のブログ」と明記され、「Thanks to MI6, CIA,SVC、総務省」と書かれていた。総務省はいいとして、内閣官房の皇室典範改正準備室長の公式ブログに、英国秘密情報部、米国中央情報局、ロシア対外情報庁への謝辞を掲載する必要があったのだろうか。
 数日前までこのブログに掲載されていた本年9月7日付の田中室長の「現行日本国憲法の『象徴』天皇における諸問題 」という文章は、次のように始まるものだった。「天皇陛下の生前退位の問題をきっかけに、天皇制そのものについても連日様々な議論がなされています。今日の天皇制を考える前に、まずは簡単ではありますが歴史を振り返ります。」――「生前退位」という誤った用語を使い、また「天皇制」という不適切な用語を使っている。長年皇室制度に関するしっかりした研究をしてきた人物とは思えない。
 8月31日付の「天皇の不自由」という文章には、次の一節があった。「生前退位については皇室典範のみ改正すればよいという論者もいますが、ご存知の通り、天皇は国民の総意に基づく『象徴』です。そしてそのことが憲法に定められている以上、皇室典範改正と同時に憲法改正も必要になります。また生前退位は皇室内だけの問題にとどまらず、元号の変更など国民の生活にも影響が及ぶ点からしても、憲法改正は必要です。では生前退位をどう法定していくか。現行憲法にある『これはやってよし』の条文(3条、6条、7条)にあるように、生前退位には内閣の助言と承認が必要という内容の条文を憲法に新設する必要があります。さらに皇室典範において、生前退位ができる場合の要件も事細かに列挙しておかねばなりません。」―――田中氏は、このような自説を公表していた。譲位を可能にするには、皇室典範だけでなく、憲法の改正が必要と主張しているのである。
 氏の主張は、憲法を改正せず皇室典範も改正せずに特措法で対応しようという政府の意向とは、根本的に対立する。氏の主張に基づくならば、特措法は憲法違反となる。政府は、憲法違反の疑いのある特措法を作るのか。それとも、田中氏は自説は誤りだったと取り下げるのか。―――私は動向に注目していた。
 田中氏の主張が問題になったからかどうかは不明だが、本日上記の文章を含む一切の掲示文が削除され、ブログ自体が閉鎖された。もし今も田中氏が内閣官房皇室典範改正準備室長の職にあるとするならば、上記の問題点について現在の所論を発表すべきだろう。もし政府が室長職を更迭したのであれば、妥当な措置と思う。内閣官房皇室典範改正準備室長職には、自分の学説を強く押し出すような人物ではなく、日本の伝統・文化・国柄や憲法・法制度に深く通じた有識者を始め国民の英知を集めて、最善の対処を取りまとめていけるような公平無私の人物がふさわしい。

関連掲示
・拙稿「日本の国柄と天皇の役割〜今上陛下の譲位のご希望について」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion05.htm
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