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2016年11月26日09:41

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人権380〜経済的な権利の発達

●経済的な権利の発達

 次に、人権と呼ばれる権利の種類と内容への補足の第二として、経済的権利について述べる。経済的権利は、財産の自由や契約の自由、営業の自由等の自由権から、生存や勤労等に係る社会権に及ぶ。また政治的権利とも相互に関係する。補説として別に述べるのはそのためである。
 近代西欧では、個人の権利意識が発達し、国民の権利の拡大がされた。それとともに、「人間の権利」という観念が誕生した。こうした権利をめぐる展開は、経済活動と深く結びついている。西欧では、近代化の過程で、家父長制家族としての家族共同体、血縁を基礎とする氏族共同体、封建領主による村落共同体等の解体が進んだ。生産と消費の主体が分裂し、消費生活の場所としての核家族と、生産の場所としての経営組織とに分離した。両者をつなぐものとして市場が形成された。市場の発達に伴い、西欧の各地に近代都市が形成された。都市には近代的な組織が生まれ、機能集団である企業や組合等が成立した。こうした社会的変化が、市民革命や資本主義の発達の社会的基礎となった。
 共同体の解体によって、ゲマインシャフト(協同社会)からゲゼルフシャフト(利益社会)への変化が起こった。つまり、人々の結合が、それまでの互いに感情的に融合し、全人格をもってする結合から、各自の利害関心に基づく人格の一部のみでの結合に変わった。伝統的な社会が崩壊して、近代的な個人が出現した。個人と個人は、互助原理で助け合う関係ではなく、競争原理で競い合う関係となった。資本主義の発達によって、近代西欧的な階級が生まれ、階級間の格差が広がった。都市の中小商工業者が資本家と労働者に分化し、資本家が代表的な階級に成長した。この過程で発達した近代西欧的な権利の多くは、経済活動に係る権利という側面を持っている。
 独語・仏語・伊語等の主要な西欧言語では権利を表す言葉が、法をも意味する。経済活動に係る権利は、法との間に次のような関係をもって発達した。
 近代西欧法は、近代国家の成立を背景とし、近代資本主義の経済構造を維持するため、市場の枠組みを整備・保障するという機能を担っている。この点が近代西欧以前、及び近代西欧以外の社会の固有法との大きな違いである。
 近代西欧の国家は、政府が一定の領域内で実力を独占し、実力の行使を合法化し、他の政治団体の実力行使を非合法化した。これに対し、物理的実力を行使する組織や装置が恣意的に発動されるのを防ぐため、国家権力の行使が法によって規制される。それによって、政府と国民の権利関係が制度化される。その一方、国民の経済活動は、自由で独立した個人が展開する取引・交渉によって形成・維持される。そこに個人と個人の権利関係が制度化される。こうした近代西欧的な政府と国民、及び個人と個人の権利関係を制度として定めていることが、近代西欧法の特徴である。
 近代西欧法における権利と義務の体系は、公法と私法という二元的な法体系に規定された。そのうち、近代西欧法の中枢を占めたのは、個人間の関係を規律する私法の体系だった。一方、政府と国民の関係については、政府は市場に介入せず、社会秩序を損なう事態に対処すれば十分とされた。18〜19世紀には夜警国家観のもとで、国家と国民の関係を規律する法体系は、自由権に関する規定を中心とし、私法体系と区別して観念された。
 近代西欧法には、市場における物の売買と取引に関する公正な規則を用意するため、三つの基本原理がある。第1は、市場に参加する主体相互の「人格の対等性」である。第2は、「所有権の絶対性」である。第3は、「契約の自由」である。これら三つの基本原理により、身分制から解放された個人は、法の下で平等とされ、所有物を自由に売買・処分でき、国家の介入なく自由に契約を結ぶ権利を持つ。
 経済活動に係る権利は、こうした三つの基本原理のもとに発達した。生まれながらに平等な権利を持つ自由で独立した個人という近代西欧的な人間観は、これら三原理を体現する人間を想定したものである。その人間とは、近代資本主義社会における市場・所有・契約に関する経済的な権利を持つ個人である。近代西欧的な個人の観念は、歴史的・社会的・文化的に形成されたものであり、普遍的な人間類型ではない。

 次回に続く。
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