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2016年08月20日13:53

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時代を越えて（１０６）　仲正昌樹「精神論ぬきの保守主義」

　仲正昌樹「精神論ぬきの保守主義」新潮選書2014　を読んだ。「今こそアーレントを読む」の著者で分かりやすいだろうと期待して、それに「精神論抜き」なところもいい。私も精神論は苦手な方で、・・・子どもにははっぱをかけていたのだが。

　①保守主義とは、古くからあるものを破壊しそうな勢力が目立つ状況になったときに現れる。西欧政治思想史で最初の保守主義者とされるバークは、進歩主義志向のフランス革命批判者として現れた。
　②保守主義は国、国民、民族などの集合的記憶を守ろうとするもので、家族などの小さい歴史に主義と言えるものはなく、逆に、アジア全体、全世界などの大きい歴史には共通性がないために保守主義は成立しない。
　③言語や宗教を守ろうとする保守主義には多くの人を動員しやすい。
　☆海風：自分のアイデンティティ（集合的記憶）を求めて歴史をさかのぼる。これはＳFファンタジーの大きなテーマだとも思う。

　戦後日本の保守政党である自民党は、戦前の体制を部分的に復活させようとする勢力、アメリカ型の自由主義社会を目指す勢力、穏健な社会民主主義的勢力が含まれている。これらはすべて、日本という共同体にとって他者であるソ連型社会主義との対比で保守と呼ばれた。
　精神論的な保守主義は、大和魂とか、日本古来の文化、美しい国土などのポジティブなイメージを持っている人にしか通用しないだろうし、天皇制は素晴らしいと言われても、それで生活が、経済が、治安がよくなるのかと疑問を持ってしまう。
　西欧諸国の場合は、伝統的精神を具現し、慣習的に形成されてきた法、秩序、経済の制度に焦点を当てて議論している。古い制度を捨てて、少数のエリートの思いつきになる新制度におきかえるのは危険だと考えるのである。
天皇制も制度なのであるが、現在は法、政治、経済との関係が無くなっているので制度としての機能を明確にすることができない。
　☆海風：ということで、保守思想とは集合的記憶の結晶した慣習的制度に価値を見出そうとする思想だと理解しておく。ただし、日本では慣習は、目的や効用などが分からなくなって、因習視されることが多かったと思われる。

　第１章　ヒューム（1711-76）　　慣習から生まれる正義
　名誉革命時代を代表する哲学者ロック（1632-1704）は、タブラ・ラサ（心は白紙）の標語でイギリス経験論を創始した。さらに抵抗権込みの社会契約論を創始して名誉革命を正当化したことで有名だが、ヒュームは懐疑論者として専門家に知られるだけだった。しかし近年は、ポスト・モダンの風潮の中で、人間の、周囲の世界を把握する限界を見極め理性を相対化する思考を展開したとして再評価されている。
　☆海風：「社会契約論」といえばルソーだと思ってしまうが、この頃の流行だったらしい。

　ヒュームは、理性絶対の18世紀半ばにあって、人間の思考や振る舞いは、常に理性の明晰な働きに制御されているわけでなく、情念や習慣＝慣習によって動かされている部分が多いことを明らかにした。ここで、不安定な情念は経験の積み重ねによる習慣によって枠づけられているのである。
　☆海風：自分自身を省みれば納得できる。アリストテレスは人間は理性（ロゴス）を持った動物だと言ったとのことだが、動物部分の方が大きいことを前提として人間モデルを作らねばならないのであろう。

　デカルトやロックの哲学では、理性の主体である私に自由意志が備わっていることが前提であったが、ヒュームは自由意志とは外部や内部要因（身体）に影響されているとする。
　自己を理性によってコントロールしているように見えるのは、快適と苦痛を繰り返した経験によってつくられた習慣に方向づけられているからである。
　早くから社会の中で教育されることで共通感覚が形成され、それをもとに人間関係の安定のための規則が暗黙の取り決め（黙約）となる。
　ヒュームは政府の起源としての王権神授説と原始契約説（社会契約説）の両方を批判し、始まりは力によって権力を得た政府が社会を維持することで、それが利益になると人民が認識したことで正統性を得たと見るべきである。したがって、利益が無くなれば政府に忠誠である必要もなくなる、とする
　☆海風：ただし、ゼロから作り直すのは危険との考えだと思う。

　ヒュームは経済学の始祖であるアダム・スミス（1723-90）などと同じく、フランス啓蒙主義の影響を受けたスコットランド啓蒙主義の理論家だった。フランスの啓蒙主義が迷信や偏見などに理性の光をあてて除去（ラディカルな変革）しようとしたのに対して、スコットランドでは清教徒革命や名誉革命による市民の権利の存在に基づいて、現存する社会を機能させている法、政治、経済、道徳の仕組みを経験的に研究し、それらの諸法則を定式化することに力を入れた。それらは意図的に作られたものではなく、長年の経験から慣習的に形成されたものであった。
　☆海風：池田信夫氏の紹介によると、「丸山真男は、日本人の精神的原型（古層）である「つぎつぎに・なりゆく・いきほひ」と要約される、超越的な価値観をもたず、その場のなりゆきに流されやすいニヒリズムが戦前日本の敗戦に至る失敗の原因とみていたが、晩年には再評価し、むしろ世界がそうなってきた、というようになった」。
　しかし、池田は丸山による再評価に否定的である。「明治以来100年以上たっても日本人の「古層」は変わらない、という晩年の丸山のあきらめにも似た宿命論は、おそらく正しい。進歩的知識人が、晩年にこうした「日本的なるもの」に回帰するのも近代日本の特徴だ。それが何の解決にもならなかったこともわかっているのだが・・・」

　第２章　バーク（1729-97）　　相続と偏見による安定
　バークの「フランス革命についての省察」1790年11月　は、フランス人青年がフラン革命についてのバークの意見を求める手紙への回答として書かれた。この時点ではまだロベスピエールの恐怖政治（1793-94）は始まっていない。
　一方、イギリス内では非国教会派の牧師リチャード・プライスがフランス革命を支持する講演を行うなど、市民の権利を拡充する革命的プロセスを進展させようという意見が強まっていた。
　バークの「省察」はプライス批判として書かれたものであるが、大きな反響を呼び、アメリカ独立運動の理論家トマス・ペイン（1737-1809）はバークへの反論として「人間の権利」1791　を執筆した。
　バークはまずイギリスの名誉革命とフランス革命との間の異質性を明確にする。名誉革命は国家を同じ一つの政治体として維持していこうとする国王と臣民とのあいだの原初的約束を確認したものであって、ゼロから新しい市民秩序をつくる権利が確認されたものではない。重要なのは部分的補正の手段を持っていることであって、保全（conservation）と補正（correction）の原理を持っていたことでイギリスは国王不在の革命期を乗り切ることができた。
　憲法には古くなった部分を改善し、一体性を回復する自己再生プログラムが備わっている。バークはマグナ・カルタ以来の憲法によって保障された権利を「先祖からの相続財産」と考えている。
　☆海風：少しずつ修正していくのがベストだということだろう。公明党の言う加憲でもいいわけで、矛盾する場合には新しい条文が優先されるのが慣行だったと思う。

　人民の支持を背景として古い法体系を破壊し、新しい憲法＝国家体制をつくり出そうとするフランス革命支持派と違って、慣習的側面を重視するバークは、伝統こそが正統性の基盤になると考える。彼はそれを民法の時効概念（prescription）で説明する。長期にわたって、ある統治体制が続くと、その間の慣行によって、その統治体制は合法的存在になる、ということである。
　☆海風：摂関政治の藤原氏も幕府も、万世一系（ただの看板されど看板）の天皇制の伝統の下にいた方が良いと判断したに違いない。

　バークは諸個人の自由を保証する権利を重視する。問題なのは、安定した制度によって実効性が裏付けられていない形而上学的権利を強引に実現しようとして、それまでの諸権利を支えてきた制度を破壊してしまうことにある。・・・たとえば、人間として生まれてきたことによって自動的に平等な権利を付与されるという考え方を拒否するわけである。権利は人々の間の具体的な取り決めを通して生じてくるものである。
　☆海風：今なら、国民の間での機会の平等は認められても結果の平等の保障はない、という考え方だろう。それでも時限的にだろうが結果に対してアファーマティブ・アクションが導入される場合がある。国際主義者は機会の平等を外国人にも与えるのが理想だと考えているのであろう。
　しかし、結果的に天賦人権説と同じになるのでないか。原始の部族社会では族長や長老の下で当初からの構成員（その子孫たち）が社会を構成していたはず。部族員としての権利と義務は平等だったはずである。違うとしたら、後からの加入者の権利は、貢献が無かったことで制限されるということか。この場合の貢献は当然先祖代々のものを相続しているので。

　フランス啓蒙主義者は偏見を破壊することを提唱したが、バークは偏見の中には何世代にもわたる人々の叡智が含まれている、と考えた。Prejudice　という言葉は、予め(pre-)　判断(judge)していること、先入観を持っていることを意味している。先人の経験に基づいて形成された偏見に従って行動すれば、自分では把握できていないことにも行動面で解決することができる。
　☆海風：偏見も時代と共に修正、上書きされてゆくのである。

　第３章　トクヴィル（1805-59）　民主主義の抑制装置
　トクヴィルは民主主義を暴走させないためには、理念だけでなく、それを支える政治的・行政的諸制度や、社会の中での人々の関係性やメンタリティが重要であるとして、そうした諸制度の社会学的研究を行った。民主主義は決め方のルールというより、政治文化の問題であり、習俗や慣習の役割が大事なのである。

　トクヴィルは、フランス革命は物質的な変化をもたらしただけで、社会の中での人々の振る舞い方を制御する法律、理念、習慣、習俗を整えることには成功しなかった、とみている。

　現代日本人の感覚では貴族制は、国王による圧政を支えているように思われがちだが、モンテスキューは、「法の精神」で、貴族は、教会、地方自治体、職業団体等、他の中間的権力とともに王権が圧制化するのを抑止し、社会の均衡状態を保つ働きをするという見方をしており、トクヴィルもその見方を継承している。

　多数派になった政党が国家権力を使って自らの勢力を拡張し、他の党派を抑圧するというのはフランス革命で起こったことであるし、その後の各国でしばしば観察されるところである。・・・トクヴィルは、そうした政党政治に内在する危険を抑止するため、他の政党にも団結権を保障するアメリカのやり方を評価する。このことは、部分社会＝党派の存在は「一般意志」の生成を阻害するとするルソーと対照的である。
　☆海風：ヒトラーの独裁は民主主義からうまれたというが、すでにロベスピエールがそうだったのだ。気が付かなかった。

　英米系の自由主義系政治哲学の集大成者とされるジョン・スチュアート・ミルと対比した場合、トクヴィルは、個人の意志を越えて働く習俗や宗教を重視することを特徴としており、ヒュームやバークに連なる保守主義的傾向がある。

　二十世紀に登場した全体主義は、社会的な絆を失い、長引く不況の中で不安に駆られている大衆の支持を得て政権を獲得した後、人々の生活を経済、思想、教育、社会参加などさまざまな面にわたって細かく均一に管理する集権体制を確立した。トクヴィルの多数派の圧制論や民主的専制論は、将来の危険を予見したかのように見える。
　☆海風：繰り返す恐慌、止めのアメリカ発大恐慌で市場不信、流通不信、資本家不信が極まった。計画生産と平等な配給が効率的だし、恐慌も起きないと考えられたのである。
　結果、赤い貴族が作られたのだが、赤い貴族も中間権力として書記長の独裁を制約する機能を持っていて社会を安定させるはず。虎退治を適当なところで止めておけば、中国（や北朝鮮）の体制はもうしばらく続くことができるのだろう。　

　第４章　バジョット（1826-77）　　無駄な制度の効用
　バジョットは、イギリスの憲法＝国家体制の特徴に関する二つの解釈は誤りだとする。一つは、立法、行政、司法の三権が分立して、相互に干渉し合わない原理があるという解釈。もう一つは、君主制的要素、貴族性的要素、民主制的要素が混じり合い、それぞれ欠点のある三要素が牽制して均衡がとれるとする解釈。これらは、統治機構の機能的部分にだけ注目し本質をとらえていないと指摘する。
バジョットは、憲法が機能するように支えている「威厳を持った部分(dignified parts)」、それらの部分に備わっている憲法の「権威（authority）」を重視している。
　☆海風：これをもとに福沢諭吉「帝室論」が書かれ、明治憲法の天皇規定に影響を与えたとのことである。

　バジョットは自由主義と民主主義を擁護するが、それは普遍的価値があるからでなく、英国が選択的保守主義の精神によって進化し続ける上で有利な戦略であり、慣習としてすでに確立しているからである。元の機能を失っていても、新しくてまだ安定しなくても、利用できる慣習は利用していこうとするのがバジョットの姿勢である。
　☆海風：レヴィ・ストロースは原始的文化にあるプリコラージュ（手近にあるもので道具をつくる）を再評価し、理論や設計図から作るエンジニアリングと並んで現代でも有効であるとした。バジョットはその考え方を制度論に使っているのであろう。というか、バジョットの方が先なのだが。

　第５章　シュミット（1885-1985）　法と独裁
　シュミットはナチスの理論家だったのだが、現在でもドイツ系の憲法学や法哲学に強い影響を与えている。また、近代の市民社会的な諸規範をラディカルに批判する一部のポストモダン左派からも高い評価を受けている。危ないけれども魅力的な思想家である。

　近代社会における独裁には二つの形態がある。委任独裁と主権独裁である。委任独裁は任命権者の委託の範囲（憲法・法律に規定される）に限定されて、古代ローマの独裁の延長線上にある。
　主権独裁は、既存の国家体制＝憲法を廃止し、新しい憲法体制をつくりだすために、想定された主権者によって行使される独裁である。具体的には、ロベスピエール独裁、ロシア革命や中国革命での共産党独裁である。（随分長く主権独裁が存続しているが、まだ新しい憲法体制ができていないと見ているのか、それとも人民の支持があるので独裁ではないと考えているのか？）
　☆海風：シュミットを保守思想家とするのは、どうも座りが悪いのだが。しかし、選挙のできる安定した時代ばかりではない。非常事態が起きた時の危機管理をどうするのか、予め法整備しておかないと混乱や犠牲者が拡大するのである。ただ、日本の場合、神戸、東北、熊本地震でも略奪や暴動は起きていない。救援のための自衛隊の移動や物資運搬を迅速に行うための所有権などの一時的制限程度で良いのかもしれない。神戸の時は自衛隊の出動命令が遅れて被害が拡大したが、その後は問題ないらしい。

　第６章　ハイエク（1899-1992）　　自生的秩序の思想
　1920年代に、科学哲学者で経済学者のオットー・ノイラートが貨幣や市場を使用しない計画経済の構想を打ち出したのに対して、ハイエクの師ミーゼスは、計画経済では人々の主観的欲求を客観化する価格メカニズムが働かず、計画当局による恣意的な生産量の決定で非効率になり破綻すると主張した。この論争を通して、ハイエクは、市場での価格というシグナルを通して、その商品に関する様々な知識を共同で利用していることに注目するようになった。

　自由主義が諸個人の価値観や生き方が多様であることを前提とし、国家は価値中立性を守るべきとの立場を取るのに対し、集産主義は社会全体が共有すべき完全な倫理的規範体系を想定し、それに基づいて社会の一般的福祉を実現しようとする。

　デカルトの哲学は集団＝集産主義につながる可能性を持っている。彼は、人間が経験的知識に頼ることなく、自らの精神の働きだけで獲得できる幾何学や数学をモデルにして知を体系化することを提唱した。・・・デカルトに影響を受けた思想家たちは、普遍的な論理によって、一人の設計者によって設計され、構築された社会こそが合理的であると考えた。それが社会契約論や功利主義である。

　ハイエクは単一の設計図によって社会を構築するのでなく、自然発生的に生じた制度を重視する考え方である。
　アダム・スミスの想定する市場参加者は、合理的な行為主体ではなく、怠惰で軽率で浪費かである弱い個人である。しかし、それでも制度の中で行動することにより、他者とスムーズに協力し合うことができる。
　これに対して、近代経済学の市場の中で自からの利益を最大化すべく、最も効率的・計画的にふるまう経済人を前提にした理論は、デカルト的合理主義の産物である。
　☆海風：ハイエクの思想は、経済危機をきっかけとして全体主義が興隆することを防ぐためのものだろう。シュミットは必要だとしても一時的な委任独裁にとどめるべきとしていた。

　終章　日本は何を保守するのか
　英国では憲法（コモン・ロー）のように、原点となる契約や慣習法の基本原則を確認する形で、新たな制度が構築されていったのに対して、日本では政権が交代するたびに、統治の基本原則が変わっていることが多い。大宝律令、御成敗式目、武家諸法度などのように。法規則の相互関係が認識され体系化されたのは明治時代中盤以降であるが、第二次大戦の断絶で、慣習的な制度のモデルを見出しにくくなっている。丸山真男が言うように、日本の思想の無構造の伝統と呼んでいる問題と関係しているようである。

　ただし、細部には慣習的に形成された制度がみられる。
　政党の役割の規定は憲法にはないが、国会の運営は政党の代表者の協議で行われている。議員たちは政党の中で、政策的ヴィジョンやその実現のための方法、有権者との関わり方等に習熟していく。2009年の政権交代の混乱は政党がそうした役割を果たさないから起きたのであろう。
　官僚機構や各種団体が政党と強く結び付いていて、特に自民党には行政の各領域に対応する部会が設けられて政策形成において重要な役割を果たしている。いわゆる族議員の弊害を批判されることが多いが、議会審議の前に情報を収集し、論点を絞り、物事を決めやすくしている面もある。民主党政権ではこのつながりを解体した。
　憲法や法律で位置付けられていない団体が、政治システムを機能させる上で大きな役割を果たしている例は数えきれない。
　医師会や大学医学部の医局、地方自治体の町内会、記者クラブ、法に決められた以上の役割を持つ農協などである。国会や裁判所の慣例は運営上重要であり、春闘での集中的な賃金交渉も労使関係の安定に役立っている。
☆海風：この種の慣習の実証的研究を進めるべきと思う。
　族議員の問題は、民主党政権以来のことかもしれないが、官邸主導型になって自然にその弊害も目立たなくなったのではないか。今はあまり聞かなくなった。
　町内会は健在である。土浦（その中の真鍋各丁目ごとの町内会、それぞれ公民館を持っている）では順番の班長以外に、実質的な活動をする任意組織があり、その中から（丁目の）町内会長はじめ役員人事が決められている。祭礼が一番重要な仕事のようだが。
　私は寄付だけでボランティアはしないのだが、土浦の各町内会では、神社の秋祭り（子ども中心の山車の運行）が盛大に行われている。かみさんの話では、この動員が厭だと言って引っ越した人もいるとか。逆に、祭りが好きだと言って手伝いに来る人もいるそうだが。台地と低地の坂のあげおろしは見ているだけでも大変さが分かる。
　山車を俳句に詠んで読売に入選したことがある。「坂の上下へと山車を秋祭り」

　町内会には１０ほどの班があって、回覧や町内清掃、避難訓練などの単位になっている。今の（代々かも）民生委員は元校長先生が委嘱されていて、よく自転車で走っているのを見る。
　しばらく前までは、この班が班内の葬式を仕切っていたそうである。今は、この慣習はだんだんすたれてきてほっとしている。私はたまたま班長だった時、葬儀場で受付係りになったことがある。

　制度的保守主義にとって最も重要だと思われるのは、憲法改正の問題である。
　現行憲法は占領軍に押し付けられたものなので、主体的に憲法を制定し直さなければならないとの主張があるが、ヒュームからハイエクに至る慣習的制度重視の考え方からすれば、大事なのは社会的に無理なく受容され安定性をもたらしているかどうかである。
　☆海風：確かに、イギリスが誇りにするマグナ・カルタも、王と貴族間の約束であって一般平民には関係の無いところで決められた。それでも、ここから始まって、平民の権利の擁護にまで拡張されて行った。これが大事なのである。となれば、王権神授説ならぬマッカーサー下げ渡し憲法も、少しずつ修正したり加えたり上書きしていけばよいのである。解釈の変更でもよいはずである。国権の最高機関は国民による選挙で選ばれた国会なのだから。

　憲法改正で最大の争点になるのは九条関連だろう。
制度的保守主義の立場では、国家が死滅しても、国民の大多数が死ぬ可能性があったとしても無抵抗を貫こうとする絶対平和主義は否定されるべきだろう。国家が存在しなくなったら護憲の意味もなくなるのである。おそらく、護憲論者の大半も九条に殉じるつもりはないだろう。
　☆海風：それが殉じると言っている人がいるようで恐い。その裏の心は？　と確かめたくなる。それに、九条があれば攻めてこないなどと言っている人も、それを聞いて安心な人もデモの中だけでなく、テレビの世界にもいるようである。

　ただ、自民党の改正案に新設される「緊急事態」はシュミット的観点から見てきわめて重要である。これは、法秩序を守るために、法の効力を一時的に停止する例外状態の規定である。
　「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模災害その他法律で定める緊急事態において、内閣総理大臣が閣議にかけて緊急事態の宣言を発することができる」というものである。ワイマール憲法は、シュミットが指摘するように詳細な法律がなかったために委任独裁でありながら主権独裁に近い状態が生じてしまったのである。

　☆海風：保守主義とは、歩きながら、対話しながら考えることと言ってもよいようである。修正するのも歩きながら、というか既存の制度を動かしながらの修理である。昔、農業経済学者の東畑精一は、農業基本法をつくるにあたって時計を動かしながらの修理にたとえたが（今、ネットで見つからない）、保守主義とはそういうもので、時計を分解して作り変えることではない。そういう意味では、解釈を変更しながら少しずつ制度を変えて、その承認を得て行くことが一番保守的でいいのではなかろうか。

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