mixiユーザー(id:525191)

2016年05月09日08:50

276 view

イスラーム53〜「昼の時代」に向かう世界での日本文明の役割

 最終回。

●セム系一神教文明は脱皮すべき時にある

 先に書いたピュー・リサーチ・センターの予測では、2050年ころには、イスラーム教徒の人数がキリスト教徒の人数に迫る状態になっている。特にヨーロッパでは、移民政策に大きな変更がない限り、イスラーム教徒が全人口の20%までに激増している。イギリス、スペイン、オランダでは人口の過半数をイスラーム教徒が占め、ヨーロッパの社会と文化に大きな変化を産み出しているだろう。米国とイスラーム教国の関係についても、イスラーム教徒の人口による圧力が現在より、はるかに大きくなっているだろう。
 こうしたキリスト教徒とイスラーム教徒の関係は、西洋文明とイスラーム文明の関係でもある。西洋文明とイスラーム文明の対立は、世界の不安定の要因の一つである。この対立は、より大きな枠組みでは、ユダヤ教を含むセム系一神教の文明群における文明間の対立である。
 イスラーム教諸国は、イスラエルの建国後、イスラエルと数次にわたって戦争を行い、またアメリカと湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争等で戦っている。また東方正教文明の中核国家だった旧ソ連とはアフガン戦争で戦い、今日は旧ソ連圏のイスラーム教徒が中央アジア各地で、ロシアと戦っている。これは、イスラエルやロシアを含めたユダヤ=キリスト教系諸文明とイスラーム文明の対立・抗争である。アブラハムの子孫同士の戦いであり、異母兄弟の骨肉の争いである。
 中東では、争いが互いの憎悪を膨らませ、報復が報復を招いて、抜き差しならない状態となっている。そして、現代世界は、イスラエル=パレスチナ紛争を焦点として、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教のセム系一神教の内部争いによって、修羅場のような状態になっている。
 今後、ユダヤ=キリスト教系諸文明とイスラーム文明の対立・抗争が今よりもっと深刻化していくか、それとも協調・融和へと向かっていくか。このことは、人類全体の将来を左右するほどの問題である。その影響力の大きさは、米国と中国の関係が世界にもたらす影響力の大きさと比較されよう。
 中東に平和と安定をもたらすことができないと、世界平和は実現しない。平和を維持するための国際的な機構や制度を作っても、中東で対立・抗争が続いていると、中東における宗教戦争・民族戦争に世界全体が巻き込まれるおそれがある。最悪の場合は、一神教文明群における対立・抗争から核兵器を使用した第3次世界大戦が勃発する可能性がある。
 いかに中東で平和を実現するか。ユダヤ教とイスラーム教の争い、イスラーム教のスンナ派とシーア派の争い、ユダヤ人・アラブ人・イラン人・クルド人等の民族間の争い等を収め、地域の共存共栄を実現する道が求められている。
 私は、セム系一神教に基づく文明そのものが、新たな段階へと脱皮しなければならない時期にあるのだと思う。その脱皮に人類の運命の多くがかかっている。
 科学が未発達だった千年以上も前の時代に生まれた宗教的な価値観を絶対化し、それに反するものを否定・排除するという論理では、どこまでも対立・闘争が続く。果ては、共倒れによる滅亡が待っている。自然の世界に目を転じれば、そこでは様々な生命体が共存共栄の妙理を表している。人智の限界を知って、謙虚に地球上で人類が互いに、また動植物とも共存共栄できる理法を探求することが、人類の進むべき道である。宗教にあっても科学・政治・経済・教育等にあっても、指導者はその道を見出し、その道に則るための努力に献身するのでなければならない。

●「昼の時代」に向かう世界での日本文明の役割

 残念ながら現状において、私は、一神教文明群の宗教・思想の中から、対立・抗争の昂進を止め、協調・融和へと向かう指導原理が現れることを期待できない。一神教文明群の対立・抗争が世界全体を巻き込んで人類が自壊・滅亡に至る惨事を防ぐには、非セム系多神教文明群が、あい協力する必要があると思う。私は、セム系一神教文明を中心とした争いの世界に、非セム系多神教文明群が融和をもたらすために、日本文明の役割は大きいと思う。日本文明には対立関係に調和を生み出す原理が潜在する。その原理を大いに発動し、新しい精神文化が興隆することが期待される。
 ハンチントンは、文明は衝突の元にもなりうるが、共通の文明や文化を持つ国々で構築される世界秩序体系の元にもなりうる、と主張した。文明内での秩序維持は、突出した勢力、すなわち中核国家があれば、その勢力が担うことになる、と説く。また、文明を異にするグループ間の対立は、各文明を代表する主要国の間で交渉することで解決ができるとし、大きな衝突を回避する可能性を指摘している。そして、日本文明に対して、世界秩序の再生に貢献することを、ハンチントンは期待した。
 ハンチントンは「日本国=日本文明」であり、一国一文明という独自の特徴を持っていることを指摘した。アメリカ同時多発テロ事件の翌年である2002年(平成14年)に刊行した『引き裂かれる世界』で、ハンチントンは日本への期待を述べた。
 「日本には自分の文明の中に他のメンバーがいないため、メンバーを守るために戦争に巻き込まれることがない。また、自分の文明のメンバー国と他の文明との対立の仲介をする必要もない。こうした要素は、私には、日本に建設的な役割を生み出すのではないかと思われる。アラブの観点から見ると、日本は西欧ではなく、キリスト教でもなく、地域的に近い帝国主義者でもないため、西欧に対するような悪感情がない。イスラーム教と非イスラーム教の対立の中では、結果として日本は独立した調停者としての役割を果たせるユニークな位置にある。また、両方の側から受け入れられやすい平和維持軍を準備でき、対立解消のために、経済資源を使って少なくともささやかな奨励金を用意できる好位置にもある。ひと言で言えば、世界は日本に文明の衝突を調停する大きな機会をもたらしているのだ」と。
 日本文明は、非セム系多神教文明群の中で独自の特徴を示す。その特徴は、セム系一神教文明群にも非セム系多神教文明群の他の文明にもみられないユニークなものである。
 宗教には一神教、多神教等の違いの他に、陸の影響を受けた宗教と海の影響を受けた宗教という違いがある。ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教や道教・儒教・ヒンズー教・仏教は、どれも大陸で発生した。これに比べ、神道が他の主要な宗教と異なる点は、海洋的な要素を持っていることである。大陸的な宗教が陰の性格を持つのに対し、海洋的な宗教である神道は陽の性格を持つ。明るく開放的で、また調和的・受容的である。これは、四方を世界最大の海・太平洋をはじめとする海洋に囲まれた日本の自然が人間の心理に影響を与えているものと思う。
 21世紀の世界で対立を強めている西洋文明、イスラーム文明、シナ文明、東方正教文明には、大陸で発生した宗教が影響を与えている。これに比べ、神道は、日本文明に海洋的な性格を加えている。こうした日本文明のユニークな性格が、文明間の摩擦を和らげ、文明の衝突を回避して、大いなる調和を促す働きをすることを私は期待する。
 また、日本文明には、さらに重要な特徴として、人と人、人と自然が調和して生きる精神が発達した。それは、四季の変化に富む豊かな自然に恵まれ、共同労働によって集約的灌漑水田稲作で米作りをしてきた日本人の生活の中で育まれた精神である。この大調和の精神は、日本民族だけのものではなく、世界の諸民族にも求められるものである。
 21世紀の人類は核戦争と地球環境破壊による自滅の危機を乗り越えて、物心調和・共存共栄の新文明へと飛躍できるかのどうか、かつてないほど重要な段階にある。わが国は、核戦争を回避し、地球環境破壊による自滅の危機を乗り越えて、物心調和・共存共栄の新文明を実現するために、中東におけるイスラエルとアラブ諸国の対立を和らげるように助力しなければならない。世界的にユニークな特徴を持つ日本文明は、西洋文明とイスラーム文明の抗争を収束させ、調和をもたらすためにも重要な役割があることを自覚すべきである。
 人類は、この地球において、宇宙・自然・生命・精神を貫く法則と宇宙本源の力にそった文明を創造し、新しい生き方を始めなければならない。そのために、今日、科学と宗教の両面に通じる精神的指導原理の出現が期待されている。世界平和の実現と地球環境の回復のために、そしてなにより人類の心の成長と向上のために、近代化・合理化を包越する、物心調和・共存共栄の精神文化の興隆が待望されているのである。そして、その新しい精神文化の指導原理こそ、「昼の時代」を実現する推進力になるに違いないと私は確信する。この点は、別の拙稿に書いたところであり、下記をご参照願いたい。

拙稿「人類史の中の日本文明」の「第3章 新しい指導原理の出現〜日本文明への期待」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09c.htm
拙稿「“心の近代化”と新しい精神文化の興隆」の「結びに〜新しい精神的指導原理の出現」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09b.htm

(了)
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する