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2016年03月31日08:44

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イスラーム35〜フランスのISILへの対応

●フランスのISILへの対応

 戦後、フランス政府は、移民として流入するマグレブ人イスラーム教徒に対して、フランス社会への統合を重視してきた。だが、彼らの中には、差別や就職難などで不満を持つ者たちがいる。そうした者たちの中から、ISILなどが流し続ける「自国内でのテロ」の呼び掛けに触発される者が出てきている。こうした「ホームグロウン(自国育ち)」と呼ばれるテロリストの増加が、パリ同時多発テロ事件によって浮かび上がった。
 フランスでは、移民の多くが今日、貧困にさらされている。失業者が多く、若者は50%以上が失業している。イスラーム教徒には差別があると指摘される。宗教が違い、文化が違い、文明が違う。そのうえ、イスラーム教過激派のテロが善良なイスラーム教徒まで警戒させることになっている。
 貧困の中で生活し、失業と不安にさらされている若者たちに、ISILが近づき、イスラーム教過激思想を吹き込む。シリアへと勧誘する。また、自国でのテロを呼びかける。ある者は、シリアに行って軍事訓練を受け、戦闘にも参加する。ある者は自国でテロを起こす。若者たちの不満は貧困層だけでなく、インテリ層にも広がっている。
 フランスやベルギー等の社会である程度、西洋文明を受容し、ヨーロッパの若者文化に浸っていた若者が、ある時、イスラーム教の過激思想に共鳴し、周囲も気づかぬうちに過激な行動を起こす。貧困や失業、差別の中で西洋文明やヨーロッパ社会に疑問や不満を抱く者が、イスラーム教の教えに触れ、そこに答えを見出し、一気に自爆テロへと極端化する。
 こうした文明の違い、価値観の違いからヨーロッパでイスラーム教過激思想によるテロリストが次々に生まれてくる。これを防ぐには、貧困や失業、差別という経済的・社会的な問題を解決していかなければならない。これは根本的で、また長期的な課題である。
 同時多発テロ事件後、フランスが移民政策の見直しをするかどうかが、注目されている。フランス人権宣言による個人を中心とした自由・人権等を価値とする普遍主義的な価値観を信奉する限り、移民の受け入れはその価値を堅持するものとなる。移動の自由の保障も同様である。だが、この価値観とは異なる主張もフランスにはある。
 2015年(平成27年)12月にフランス全土で実施された地域圏議会選挙で、極右政党といわれる国民戦線(FN)は、年間20万人の移民受け入れを1万に減らす、犯罪者は強制送還する、フランス人をすべてに優先、社会保障の充実等を訴え、支持率を伸ばした。多くの地域圏で勝利確実とみられるなか、危機感を持った右派・共和党と左派・社会党が共闘して、FNの躍進を阻んだ結果、FNは全選挙区で敗北した。だが、マリーヌ・ルペン党首は次期大統領選挙の有力候補であり、大多数の世論調査において第1回投票で最多票を獲得することが確実視されている。FNが大統領選挙及び今後の国政選挙の台風の目となることは確実とみられる。
 フランスは、同時多発テロ事件後、すみやかにISILに反撃を開始し、米露等と国際的な連携の拡大を進めた。オランド大統領は、事件をISILによる「戦争行為」だと非難した。事件の2日後の11月15日、フランス空軍は、ISILの拠点であるシリア北部ラッカを激しく空爆し、テロに屈しない断固たる姿勢を行動で示した。
 オランド大統領がISIL掃討作戦で米露との協力態勢を強化すると表明すると、オバマ米大統領は直ちに「フランスとともにテロや過激主義に立ち向かう」と表明した。安倍晋三首相は、テロの未然防止に向けて国際社会と緊密に連携する決意を示した。英国のキャメロン首相もシリア空爆に参加する意向を示した。またロシアのプーチン大統領は、テロリストへの対抗に関してフランスとの連携を発表した。
 とりわけオランド大統領がISILに対する攻撃で、ロシアとの協力に乗り出したことが注目された。フランスは、アサド政権との対決を後回しにして、まずISILを殲滅するためにロシアとの協力を選択した。フランスは、ロシアとの連携を得るや原子力空母シャルル・ドゴールを派遣して艦載機による激しい攻撃を浴びせた。ISILの二大拠点である北部のモスルとラッカ、戦略的要衝の中部ラマディ等への空爆を実施し、ISILの司令施設や整備施設を破壊した。
 パリ同時多発テロ事件は、フランスでの出来事であるだけでなく、欧州の中心部で起こった事件でもある。2014年(平成26年)から欧州では、中東や北アフリカから流入する移民や難民が急増している。その49%がシリアから、12%がアフガニスタンから、その他の多くがリビア等のアフリカ諸国からといわれる。それぞれ内戦と政情不安が原因である。こうした移民・難民に紛れてイスラーム教過激派のメンバーが欧州諸国に潜入している。パリ同時多発テロ事件で、そのことが浮かび上がった。事件が起こったのはパリだが、テロリストはベルギーやオランダ等にネットワークを広げていた。
 EUの場合、域内での「移動の自由」が保障されている。テロリストは、EUの域内に入ってしまえば、各国の国境を越えて自由に移動できる。地球上でこれほどテロリストが行動しやすい地域はない。こうしたEUの「移動の自由」が、パリ同時多発テロ事件のテロを許した背景にある。
 パリ同時多発テロ事件後、「移動の自由」を定めたシェンゲン協定の定期用を停止して、国境の検問等を再開した国は、8カ国に上る。中東や北アフリカからの難民・移民の受け入れに最も積極的なドイツも、国境検問を行っている。
 EU諸国には、フランスの国民戦線と同様に、移民政策の見直しを主張する政党が存在する。そうした政党への支持が増加傾向にある。EUは、国民国家(nation-state)の論理を否定する広域共同体の思想に基づく。だが、異文明からの移民を抱えて社会問題が深刻化し、さらに国境の機能を低めたことでテロリストの活動を許していることによって、広域共同体の思想そのものが根本から問い直されつつある。

 次回に続く。

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