mixiユーザー(id:525191)

2016年03月19日07:16

341 view

イスラーム29〜民主化、ハイテク化、再イスラーム化、過激化

●「アラブの春」で顕在化した傾向

 イスラーム文明において、「アラブの春」から顕在化した傾向が、私の見るところ四つある。民主化、ハイテク化、再イスラーム化、過激化である。
 第一に、民主化は、近代西洋文明が生んだ自由の理念、デモクラシー、人権の擁護、個人の尊重、女性の解放等を求めること、または実現することである。西洋化・近代化・世俗化は、一体となって進むことが多い。これに対して、近代西洋的な価値や制度を文化要素として摂取するか、それとも拒否するか。それは、これは、西洋文明の挑戦への応戦の仕方となる。なお、「アラブの春」の民衆運動は、自然発生的なものではなく、米欧による仕掛けがあった可能性がある。2000年代に、中東欧や中央アジアの旧共産圏諸国で起こった「カラー革命」では、CIAの工作があったことが指摘されている。仮にそうした仕掛けがあったとしても、大衆に民主化の要望がなければ、大きな運動にはならない。
 第二に、ハイテク化は、情報通信のテクノロジーの活用である。民主化を求める民衆運動に参加した若者たちは、ツイッターやユーチューブ、フェイスブックといったネットメディアを活用した。既成の情報通信手段では、民衆運動の中で、互いに連絡を取り合うことも、緊急の集会を呼びかけることも、刻々と変化する状況に関する情報の共有も容易でない。しかし、インターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)は、10数年前には不可能だった情報通信を可能にした。「アラブの春」は、こうしたテクノロジーの進歩が生み出した出来事だった。ハイテク化した若者の民衆運動は、瞬く間に世界に広がる伝播力を持ってもいる。テロリストもまたハイテクの道具を活用する。
 第三に、再イスラーム化は、西洋化・近代化・世俗化に反対するイスラーム教への回帰または伝統的宗教の復興である。イランではすでに1979年(昭和54年)に、その表れとしてイラン革命が起こった。イスラーム教には、西洋化・近代化・世俗化に抗して、原理主義的な運動が高揚し得るだけの宗教的な潜在力があるとみられる。「アラブの春」では、民主化要求をきっかけに民主的な選挙によって選ばれた指導者が政治権力を行使して、イスラーム教色の強い政策を実施し、それに民主化勢力が反発するという特徴的な展開がみられた。
 第四に、過激化は、再イスラーム化を極端に進めるものである。文明学的には、西欧化に対する国粋化を徹底し、さらに排外化に至る動きに比せられよう。イスラーム文明における過激化は、異教徒との戦いをジハード(聖戦)として正当化し、武装闘争やテロを行う。また、イスラーム教内部でも、スンナ派の正統派対過激派、シーア派対スンナ派の過激派、スンナ派対シーア派の過激派など、宗派的・信条的な対立が絡んで、複雑な構図を産み出している。

●非西洋文明の発展と世界の多極化または無秩序化

 世界は、19世紀末より白人種による西洋文明の隆盛・支配の時代から、有色人種による非西洋文明の復興・発展の時代へと移行しつつある。
 第1次・第2次世界大戦を通じて、西欧諸国は衰退に向かい、米国とソ連は最盛期へ進んだ。その一方、第2次大戦後、アジア・アフリカ諸民族が独立し、アジア諸文明は復興・発展へと動き出した。イスラーム文明はそのうちの一つである。まず1960年代に日本文明が成長し、1970年代には日本文明と関係の深い韓国、台湾、香港、シンガポールなど、NIES(新興工業経済地域)または四小龍と呼ばれる国々が急速に発展した。続いて、1980年代からインド文明、1990年代からシナ文明が順に発展の軌道に入った。
 これら他のアジア諸文明に比べ、イスラーム文明は、アフリカ文明よりはましだが、ラテン・アメリカ文明には劣るという低迷状態にある。大衆の貧困、格差の大きさ、伝統的宗教の強固さ、独自の近代化の推進力の弱さ等がその原因である。イスラーム文明の最大の特徴は、世界宗教を中核に持っていることである。他のアジア諸文明における神道・儒教・ヒンズー教等が民族的または地域的であるのに対して、イスラーム教は民族や地域を越えた伝播力を持っている。それゆえ、イスラーム文明の復興・発展は、イスラーム教の復興やそれによる原理主義や過激思想の伝播という現象が随伴している。
 米ソ冷戦の終結後、非西洋文明の復興・発展は加速している。そこには、西洋文明の中核国家でもある超大国アメリカの長期的衰退と世界戦略の変化が関係している。その事実は、イスラーム文明についても重要な意味を持っている。
 ソ連の崩壊によって、世界は一時的にアメリカの一極支配体制となったが、間もなくアメリカは衰退の兆候を表すようになった。ハンチントンは1999年(平成11年)の時点で、世界は一つの超大国といつくかの大国からなる一極・多極体制となっていると説いた。21世紀に入ると、ハンチントンの予想通り、この体制は多極化の方向にさらに進みつつある。
 2008年(平成20年)の選挙で大統領となったオバマは、外交・安全保障政策では、民主党の特徴である多国間協議を重視し、対話を優先する。これに関してオバマ大統領の最も重要な発言は、「米国は世界の警察官である意思はない」という発言である。米国は、今も超大国ではあるが、経済力・軍事力が相対的に低下してきている。もはや世界各地に米軍を派遣し、地球帝国の盟主のように振る舞うことはできなくなってきている。
 米国の力の衰えに対し、明らかに挑戦的な姿勢を示している国々が各地域で、勢力を伸ばしている。その代表的存在がシナ文明の中国であり、イスラーム文明ではイランが筆頭に挙げられる。また、従来のような国家という枠組みを超えた領域で、アメリカの覇権、西洋文明の優位に挑戦する勢力が、イスラーム文明の中から現れてきている。それが「アラブの春」の影響で始まったシリアの内戦を通じて台頭したISILである。ISILについては、次の項目に書くが、イスラーム教過激組織の活動が拡大・拡散すると、世界は多極化というより、むしろ無極化または無秩序化に進んでしまうおそれも出てきている。

 次回に続く。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する