余命プロジェクトチーム「余命三年時事日記」青林堂2015
白井聡「戦後の墓碑銘」株式会社金曜日2015
を併せて読んだ。「余命三年」は2011年からの、主として朝鮮・韓国関係のブログ記事を選択して書籍化したものである。「墓碑銘」は2014年2月から15年7月までの週刊金曜日の月1回連載の時事評論を中心に、同じ時期に各誌に書いた評論をまとめたもの。
併せて紹介するのは、これが政治的に正反対の方向を向いているからである。
白井は、安倍政権をアメリカ追従型で、しかも敗戦のルサンチマンを抱えた危険な政権として糾弾し続けている。彼のめざす政体がどういうものか明示されていないが、民主政権では鳩山政権を高く評価している。沖縄では翁長知事を安倍政権・アメリカ追従打倒の一里塚とみているようである。
一方、「余命三年」は、安倍政権支持、日本政治への中国や韓国の干渉を退けようとする匿名グループである。言ってみれば、ネットにたくさんある嫌韓ブログの一つであるが、公開情報を分析して韓国の日本への工作を暴露・拡散し、その工作を防ぐための共同行動の司令塔になろうとしている。実態は知らないが、各ブログに注目されている巨大ブログらしい。ただし、行動と言ってもデモなどではなくネット上での情報戦のことである。
さらに、近年では「在日特権を許さない市民の会(在特会)」が韓国・朝鮮人街でデモや抗議活動を行っているとのことだが、そのカウンターとして「レイシストをしばき隊(しばき隊)」が活動している。さらに同種の目的を持つ「シールズ」と名乗る学生団体も結成されている。なお、しばき隊やシールズは安倍政権反対を主任務にしているようである。
従来は、市民の会を名乗るのは左翼系に決まっていた。これを国家主義的団体が使うのも驚きだが、何より「しばき隊」という暴力を明示した名称に驚かされる。さすがに、今は 「対レイシスト行動集団」に改名したとのことだが。この傘下団体として、「男組」などもあったらしい。今もあるかどうかは知らない。
ということで、従来の労働組合と大学自治会を主力としていた左翼反戦運動はすっかり様変わりしているらしい。それというのも、右翼・国家主義団体が、従来なかった在日韓国・朝鮮人集団をターゲットにしたことで起きたものに違いない。
1.余命三年時事日記
妙な名前だが、初代代表が、ガンで余命3年を宣告された後の2012年8月に立ちあげたことに由来する。今は、3代目代表になる。初代の父は満州生まれで中国語とロシア語に堪能で、母はソウル生まれで朝鮮語と中国語ができた。甥や姪はアメリカ、カナダに在住しているものもいる。一族18人。情報ソースの多くは代表と両親の経験による、とのことである。
☆海風:満鉄調査部あるいは大陸浪人の子孫なのだろうか? 本書の内容はインテリジェンス、又は情報戦そのものと思えるが、その真偽のほどは、すべて決着がついてからしか明らかにならないようである。
1912年竹島に上陸した李明博前大統領は、日王(天皇)の土下座謝罪要求とともに、日本乗っ取りが完了したと宣言した。
☆海風:この前半部分は当時大問題になり、和気あいあいの日韓議連の会合が一挙に冷え切ったとのことだが、後半の日本乗っ取り宣言が本当だったかどうかは知らない。ただ、時間的に見て、この宣言を受けて、反撃としての余命プロジェクトが動き出したようである。
1)第一次安部内閣の時の日米の極秘交渉
米国は韓国を同盟国として不適格と結論した。経済的にはスワップの停止。最先端軍事技術の供与停止。
戦時作戦統制権の韓国への委譲後は、すみやかに在韓米軍は撤退する。
韓国への原子力協力はしない。
その後、米国は第一列島線(日本・沖縄・台湾・フィリッピン)の防衛に専念する。
米国は日本に対して、原潜と大陸間弾道弾は認めないが、それ以外には注文をつけない、と伝えたとのことである。
☆海風:アメリカはこれまで、日韓でもめると日本の方に妥協を要請した。また、貿易を重視する経済界の意向も働いたのだろうが、日本側が前言を撤回していたが、これが事実なら、もうアメリカが韓国を支持することはないことになる。
2)韓国が黙認した改正入管法で追い詰められる在日
住民票に通名が記載されることになった。その通名は一つだけに制限される。
韓国はこれを黙認している。韓国も、これまで分からなかった在日の所在を掴んで徴兵と徴税に利用する。韓国政府は、国籍を離脱して(韓国が承認して)、日本に帰化するまでは韓国人とみなしているのである。在日のデータは韓国に提供されることになる。
市町村からの転出のための転出証明書にも通名が記載される。
一方、銀行口座開設時には本名の確認が義務付けられるので、通名による架空口座は開設できない。
法改正前は外国籍には住民票がなかった。以後は、3カ月を越えて日本に滞在する場合は、住民基本台帳に記載されることになった。生活保護の適用や帰化手続きも厳格になる。
同時に、韓国でも在外韓国人住民登録法が施行された。
日本の改正入管法は1912年7月9日に施行されたが、3年間の猶予期間を経て1915年7月9日で、名寄せしていない銀行口座は凍結された(公表されていないが、10万単位)。また、生活保護の場合、他の所得があるのに受ける不正受給もできなくなる。
☆海風:結局、通名がいくつも作れて、相互の関係が分からないということが不透明な法の抜け穴だったわけだが、今回の法改正で不可能になるらしい。ポイントは、日韓両政府の利害が一致したということであろう。つまり、在日問題は、韓国からみれば、北朝鮮への抜け道だったのである。
韓国へ渡される在日住民登録情報に日本のマイナンバーが付与される。韓国政府が在日韓国人の所在や動きを把握しやすくするためである。
日本と韓国は慰安婦問題などでは厳しく対立しているが、経済面では相互情報交換条約などで緊密に連携しているのである。
☆海風:昨年末の日韓合意の背景だったのかもしれない。
3)戦後日本には国粋右翼といっても皆なりすましで(在日韓国・朝鮮人)で日本人はいなかった。しかし、今は、実態は分からないが、戦後韓国からの引揚者が母体となった戦闘的組織がある。
☆海風:在特会としばき隊は、氷山の頂上部だとの意味か?
4)運動の手段としての政府関係機関への集団通報
余命1号から40号まである。いくつかを例示しておく。
余命1号:外国人への生活保護支給について
憲法違反である(最高裁判決による)。ただちに中止されたい。
余命2号:弁護士の日弁連と弁護士会への強制加入の義務付けは問題。
強制加入を義務付ける弁護士法の是正を要求する。
余命6号:国籍条項の撤廃について
見直しを要求する。
余命8号:パチンコの違法換金行為について。
厳正な対応を要求する。
余命15号:外国人の選挙活動について
余命16号:外国人参政権について
余命20号:新弁護士会の設立について
☆海風:ジャーナリストの李信恵は、「在日」は国籍だと主張(ウィキでは不明としている)している。これは、日本国としても(多分、どんな国にも)認められないが、韓国も容認しないということのようである。
ここで、余命通報(余命はその運動があるとしている)の意味するのは、最終的な「在日」国の成立阻止のようである。
フランスでは、公的場での宗教的主張を制限(イスラムの場合は、生活自体で宗教を主張している)しているが、余命は、在日のみでなく、日本人としての権利以外の被差別部落やアイヌ人としての権利追加も認めない立場である。
純粋な国家主義というべきだろう。
2.戦後の墓碑銘
著者の白井は学者・研究者であるが、書斎人というだけでなく、自民党政権の反対運動に取り組む積極的な政治活動家でもある。同志との連携活動も行っていて、やはりインテリジェンス活動や情報戦の先頭に立っているようである。私には、急進的な革命家としてマルクスやレーニンの活動とダブって見える。
☆海風:日本の政治体制に反対する主張は過激であるが、過激派のような行動はないようである。ただ、共産党はもとより、革マル派も統一戦線に入っているようである。安保闘争以来分裂を重ねてきた左翼政治運動も大同団結の様相がみえる。
安部の愚かさは、戦後日本社会が行きついた愚かさの象徴である。ポツダム宣言をよく知らないと言う安部の基本的なエートスが、永続敗戦レジームの中核たる敗戦の否認であることはみやすいことである。
☆海風:簡単にいえば、アメリカに負けたからアメリカに従っている。中国や韓国、あるいはイギリスなど他のヨーロッパ諸国に負けたとは思っていないのであろう。インパール作戦は別として。
祖父の岸はCIAとの取引によって獄からだしてもらった売国奴である。この見解は、岸の機密文書が年限を過ぎても公開されないことからも説得力を帯びている。
☆海風:このあたりはインテリジェンス的な分析である。事実かどうか分からないが。
現代日本の反知性主義の特徴は、高い知力の権力者が大衆の反知性主義的感情を捜査利用すると言う図式でなく、権力者自体に知力がなく、さらには、政治・経済・ジャーナリズムといった社会的領域の支配層全般が知力のない反知性主義に満たされていることにある。
☆海風:このあたりは分析というより、悪罵にみえる。知力など検証のしようがない。
安部流の対米従属の強化は、永続敗戦レジームの論理的帰結として、その意図とは裏腹の決定的な対米決裂を招来するだろう。このレジームの核心は敗戦の否認であり、それを徹底させるならサンフランシスコ体制、東京裁判、ポツダム宣言の否認に行きつくからである。
☆海風:対米従属が対米決裂を招く。面従腹背だからと言いたいのだろうか。だったら、対米従属ではないことになるのだが。著者のレトリックが成立するのか。疑問ででる。
集団的自衛権行使容認は、確かに、戦後レジームからの脱却と呼ぶに値する。
☆海風:その通りだと思う。
「敗戦」の強調は、今度は勝つという決意を連想せざるを得ないがゆえに、護憲左派からも「終戦」は支持されてきた。その意味で、敗戦の否認に依拠する永続敗戦は日米の保守支配層のみならず、日本の左派勢力も加担した合作である。
☆海風:その通りである。昭和天皇の「太平の世を開く」という終戦の詔勅がこの方向を決めたのだと思う。
護憲ではなく制憲を
戦後の日本政府は合法的傀儡政府である。基地と原発を止められないのは、官僚・政治家が対米従属利権をむさぼっているからである。たとえ、戦後憲法が民主主義や基本的人権を尊重しているように見えても、肝心な時に無数の密約によって反故にされている。
矢部宏治「日本はなぜ、基地と原発を止められないのか」集英社2014 は、この二重構造(条約と密約)を暴くものであり、孫崎享「戦後史の正体」や前泊博盛編「本当は憲法より大切な日米地位協定」などと、目的を同じくしている。中南米に多いアメリカの傀儡政府(すなわちバナナ共和国)なのであり、この状態から脱するためには護憲でなく、新しい憲法の制定(制憲)が求められるべきである。
☆海風:確かに、左翼の護憲にはソ連・中国に従うと言う隠された目的がある。これが実現しても、やはり密約政治にならざるを得ないだろう。左翼側にしても支配されていると認めるわけにはいかないからである。
私としては、では、どちらに支配された方がマイナスが少なく、プラスが多いのかを判断基準にすべきだと考える。というか、考えるまでもないと思っているのである。
安倍政権の断末魔の凶暴性・・・極右ポピュリズムと結合する安部政権。
安部政権の内実は、人種差別集団の在特会のようなものである。
☆海風:国民国家とはそういうものである。外国人に自国民と同等の権利を与える国はない。現在、余命によれば、韓国も「在日」という敵か(北朝鮮側)味方か、どちらにも日本の中で姿を変える存在を認めないことにしたらしいのである。
北岡発言が否定した大東亜戦争の大義
安部談話作成の座長代理の北岡伸一国際大学長は、「安部首相には、日本は侵略戦争をしたと言ってほしい」と要請した。
☆海風:安部首相が北岡氏を責任者に選んだということは、首相が妥協的であったことを示しているのでないか。多分、談話は一歩前進でよかったのだろう。
ということで、正反対の論者であり活動家の言動を対比してみた。ソ連があった時は、まだ、労働者の祖国対日本の国家主義という構図が描けたが、中国がもはや労働者の国といえない現状では、国家主義対国家主義の対立と妥協が国際政治の動向にならざるを得ない。その中で、在日という特殊な存在が、もはや日本と韓国の対立軸ではなくなったらしい。
白井は沖縄を巡ってのアメリカとの関係を分析軸にしているが、余命が問題にしているのは在日を巡っての韓国との関係であった。どちらも相手の弱い輪を焦点にしているのだが、日々動く国際関係の中で、どちらが正解になるのか。どちらのインテリジェンスが的を射ているのか。今年ぐらいで決着がつくのでなかろうか。
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