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2015年12月05日08:44

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パリ同時多発テロ事件と国際社会の対応5

●フランスのISILへの対応

 パリ同時多発テロ事件後、フランスは速やかに非常事態宣言を発令し、国内の警備を強化した。またISILに反撃を開始し、米露等と国際的な連携の拡大を進めている。
 オランド大統領は、事件をISILによる「戦争行為」だと非難した。事件の2日後の11月15日、フランス空軍は、ISILの拠点であるシリア北部ラッカを激しく空爆し、テロに屈しない断固たる姿勢を行動で示した。18日にはパリで警察隊が事件の犯人らが潜伏する地域を急襲し、主犯格を殺害し、協力者らを拘束した。
 オランド大統領は16日の演説で、テロ対策強化のため非常事態の期間延長を要請した。非常事態を3か月延長する法案は18日に閣議決定された後、19日に国民議会(下院)で可決され、20日上院で可決、成立した。期限が11月26日から来年2月25日まで先延ばしされた。これは、フランスの基本理念である自由を抑制してでも、ISILの壊滅を目指す決意を明らかにしたものである。
 またオランド氏は、大統領の権限強化のため憲法を今後、一部改正することも要求している。これについては、一部の野党陣営の反対が予想される。また、今後、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の直後に米国で成立した愛国者法のような、政府にテロ取り締まりの大幅な権限を与えるフランス版の愛国者法の立法が議論される可能性もあるという観測もある。
 事件後、オランド大統領がISIL掃討作戦で米露との協力態勢を強化すると表明すると、オバマ米大統領は直ちに「フランスとともにテロや過激主義に立ち向かう」と表明した。安倍晋三首相は、テロの未然防止に向けて国際社会と緊密に連携する決意を示した。英国のキャメロン首相もシリア空爆に参加する意向を示した。またロシアのプーチン大統領は、テロリストへの対抗に関してフランスとの連携を発表した。
 とりわけオランド大統領がISILに対する攻撃で、ロシアとの協力に乗り出したことが注目される。それまでフランスはロシアによるシリア空爆とは一線を画していた。欧米はクリミア問題でロシアと対立している。また、ロシア軍のシリア空爆はISILだけでなく、欧米が支援する穏健な反アサド政権派(以下、反政府勢力)をも対象にしており、欧米諸国は強い懸念を表明してきた。特にフランスはロシアが後ろ盾となるアサド大統領の退陣を強く主張していた。だが、フランスは、1月の連続テロに続き、132人もの犠牲者の出るテロを防げなかったことによって、方針を変えた。ISIL掃討で成果を出すには、ロシアとの連携が不可欠と考えたようである。ISILを叩くためには、ロシアとの対立点はひとまず棚上げしてよいという戦略的な判断をしたのだろう。
 フランスは、ISILへの空爆について、欧州連合(EU)に対し、EU基本条約に基づく相互防衛援助の適用を要請した。11月18日EUの国防相理事会は、仏の要請を受け、相互防衛援助の適用を初めて承認した。軍事作戦への支援策は加盟国ごとに協議する方向で、仏側は負担の共有を図りたい考えと見られる。
 アメリカ同時多発テロ事件の際は、北大西洋条約機構(NATO)が集団的自衛権を発動した。だが、フランスが今回、EU基本条約を拠り所とし、NATOを拠り所としないのは、NATOの枠組みではロシアを取り込めないためである。ウクライナ情勢をめぐって、NATOがロシアとの対立を強めているので、なおさらのことである。
 また、フランスがロシアに接近するのは、米国と一定の距離を置き、自主性を発揮したいという考えによると見られる。フランスはドゴール政権下で、米国の世界戦略と「核の傘」に組み込まれることを嫌い、独自の核抑止力保有の道を選ぶなど、自主独立と現実主義を旨としている。国連安全保障理事会でもこれまで、ロシアと協調行動を取ることが少なくなかった。今回の事件をきっかけに、オランド大統領はロシアと連携し、米国に代わって主導権を握ろうとしているとも考えられる。
 フランスは、ロシアとの連携を得るや原子力空母シャルル・ドゴールを派遣して艦載機による激しい攻撃を浴びせている。11月22日ルドリアン仏国防相は「イスラム国を世界から壊滅せねばならない。それが唯一の目標だ」と強調した。翌日から艦載機がISILの二大拠点である北部のモスルとラッカ、戦略的要衝の中部ラマディ等への空爆を実施し、ISILの司令施設や整備施設を破壊していると発表されている。
 オランド大統領は、11月下旬以降も引き続き精力的な外交を行っている。この点は、相手国の動きと関係するので、各国の対応の項目に書く。

 次回に続く。
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