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2015年12月04日08:46

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人権234〜世界人権宣言の人間観

●世界人権宣言の人間観

 次に世界人権宣言の内容について、人間観、権利、義務の順に見ていきたい。
 まず世界人権宣言にいう人間は、どのような人間観に立つ人間だろうか。「宣言」の前文は、次のように書いている。
 「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利(the inherent dignity and of the equal and inalienable rights of all members of the human family)とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので ……」
 ここで「人類社会」と訳されているのは、the human family という英語であり、「人類家族」と訳すべきものである。また、「人類社会のすべての構成員」とは「人類家族のすべての構成員」を意味する。アメリカ独立宣言やフランス人権宣言では、社会を抽象的な個人の集合ととらえているが、世界人権宣言は、社会を「家族」にたとえており、人類は一つの家族であるという考え方が示されている。
 では、「人類家族」の構成員である人間とは、どのような人間か。第1条に、次のように記されている。
 「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心(reason and conscience)とを授けられており、互いに同胞の精神(a spirit of brotherhood)をもって行動しなければならない。」
 冒頭の「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」という文言に、近代西洋文明が生み出した人間観が打ち出されている。ホッブス、ロックが主張し、アメリカ、フランス等の市民革命で発達した人間観が、約300年を経て、世界人権宣言という国際的な文書に盛られ、非西洋文明の諸社会にも受け入れられるものとなった。この第1条における「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等」という文言は、「そうありたい」という理想と希望を表したものであって、事実の命題ではない。しかし、このように記すことによって、人権が宣言された。
 ここで宣言は、単に人間は権利において平等というのではなく、「尊厳と権利とについて平等」とする。権利だけでなく尊厳においても平等としている。尊厳という文言は、憲章の前文にある「人間の尊厳と価値」(the dignity and worth of the human person)を受けたものである。宣言前文は、より明確に「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等で奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものである」と記した。この思想は、さらに1965年の人種差別撤廃条約、79年の女性差別撤廃条約、89年の子どもの権利条約の各前文に取り入れられ、93年の「ウィーン宣言及び行動計画」も前文に「すべての人権は人間に固有の尊厳と価値に由来し」と謳った。
 しかし、人間の尊厳とは何かについて、これらの国際文書は何も語っていない。「尊厳」は、英語 dignity の訳語であり、dignity の原義は「価値のあること」。そこから「尊さ、尊厳、価値、貴重さ」などを意味する。「尊厳」という漢語については、「広辞苑」は「とうとくおごそかで、おかしがたいこと」と解説している。近代以前の西欧では、王侯・貴族はdignityを持つとされた。これは人間のうち、王侯・貴族は dignity を持つが、それ以外の人間にはdignityはないという考え方である。家柄や身分によって、人間の価値が異なるという価値観である。これに対し、世界人権宣言は、すべての人間は等しく dignity を持つと宣言した。しかし、dignity の定義、及びなぜ人間は dignity を持つかの理由について、言及していない。
 今日一般には、人間の尊厳は、人間が事物または動物とは異なり、精神、良心、自由意思等を持つという事実を根拠とするものとされ、その価値は近代西欧で発見されたが、人類の起源とともに人間に備わっていたものと想定されている。この想定には、潜勢的な価値が現勢化したという論理と、近代西欧で創出された観念を過去に投射したという論理がある。前者の論理の典型は、ヘーゲルの世界史における自由の実現という弁証法的な歴史哲学である。だが、実際の歴史が示しているのは、後者であって錯覚してはならない。重要なのは、人間の尊厳とは何か、なぜ人間は尊厳を持つのかについて、人類は共通の理解を確立できていないことである。

 次回に続く。
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