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2015年12月01日08:38

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パリ同時多発テロ事件と国際社会の対応3

●大規模テロに転じたISILの事情

 ISILは、昨年6月に「カリフ制国家」の国家の設立を宣言し、領土ならぬ支配領域の拡大を図ってきた。その基本戦略は、シーア派が主導するイラク政府や、イランを後ろ盾とするシリアのアサド政権といった地理的に近い敵を主な攻撃対象として宗派対立を煽り、域内外から戦闘員を吸収して支配地域を拡大させることにあったと考えられる。
 この段階では、欧米への攻撃は、ISILの過激思想に共鳴した個人や少数グループが敢行する「ローンウルフ(一匹おおかみ)」型や、各地の傘下勢力によるものが主体だった。欧米への直接攻撃は、ISILの最優先事項とまではいえなかった。
だが、パリ同時多発テロ事件は、標的の選定や犯行の手際の良さなどから、明らかにISILの組織がフランスや隣国のベルギーに浸透していた点で、これまでとは一線を画している。
どうしてこのような方針の転換が起こったのか。欧米主導の有志連合による軍事作戦によって、ISILはシリアやイラクでの支配地域の拡大が行き詰まっており、支配地域外でも活動を本格化させる方針に転換したのだという見方がある。また、パリで同時多発テロを行ったのは、有志連合の空爆で追いつめられたISILが、フランスを有志連合から脱落させようとして決行したという見方もある。
 確かに空爆は、一定の効果を上げていると見られる。米国政府は8月18日にイラク北部の都市モスル近郊で実施した空爆で、ISILのナンバー2、アルハヤリが死亡したと発表した。イラク軍は10月11日、最高指導者アブバクル・バグダーティらの車列を爆撃し、幹部8人が死亡したと伝えられる。また米国国防総省は11月12日、ジハーディ・ジョンが空爆で死亡したと発表した。ただし、こうした個人が死亡することで、組織がどの程度弱っているかは不明である。カリフ(マホメットの正統な後継者)を僭称するバグダーティや彼に似たカリスマを持つ指導者が生存する限り、組織は再生し続けるだろう。
 空爆では多数の戦闘員も死んでいる。だが、次々に戦闘員の補充がされるのが、ISILの特徴である。世界各国から支持者・賛同者が集まってくるからである。昨年前半に約1万5千人とされたISILの外国人戦闘員は、最近では3万人に増えたという推計もある。また、ISILの資金源は、人質の身代金、アラブの富豪等の寄付、石油の販売等だが、空爆は、こうした資金源を断つには至っていない。
 過去に空爆によって雌雄を決した戦争はない。最後は、地上戦で相手を殲滅することなくして、勝敗を決することはできない。ISILに対しても、これを制圧するには大規模な陸上部隊を派遣し火力で圧倒するしかない。大規模地上戦は、大量の犠牲者が出るから、欧米はこれを避けようとする。実際、有志連合は地上戦には参加していない。周辺のアラブ諸国も、ISILへの対応のために地上軍を送っている国は一つもない。
 当事者であるシリアとイラクは、中央政府の統治能力が低く、正規軍が事実上ないに等しいほどに、地上部隊が弱い。その中で最も戦果を挙げているのは、クルド人の部隊である。11月12日、ISILが支配していたイラク北部の要衝シンジャールを、クルド自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」が奪還した。シンジャールは、ISILの二大拠点であるイラクのモスルとシリアのラッカの間に位置する。ISILは、この街を失ったことでモスルとラッカを結ぶ補給路だった幹線道路も失い、打撃を受けたはずである。
 ISILの壊滅のためには、こうした有志連合による空爆と地上戦が相乗効果を上げることが期待される。しかし、仮にこれらが効果を上げても、ISILが普通の国家のように敗北を認め、講和に応じるとは思われない。まさにそこが国家ならざる過激組織だからである。ここにテロリスト集団との戦いの難しさがある。戦争における国家の論理が通用しないのである。

●支配地域の「拡大」とテロ活動の「拡散」

 池内恵氏は、11月17日の産経新聞の談話記事で次のように語った。
 「テロをめぐって今、『拡大』と『拡散』が起きている。中東では政治的な無秩序状態がいくつも生じ、『イスラム国』をはじめ、ジハード(聖戦)勢力が領域支配を拡大している。そして、そこを拠点にして世界に発信されるイデオロギーに感化され、テロを起こす人々が拡散していくメカニズムができてしまった」と。
 11月16日NHKテレビの「クローズアップ現代」では、次のように語った。「拡大というのは、地理的、面的な拡大です。例えばイラクやシリアのように、中央政府が弱くなっている、ある地方が中央政府が統治できなくなっている、そういった所に入ってくるんですね。そこでそういう所では、面的な領地支配をして、そこに大規模な組織を作って、武装して、公然と活動する。
 しかし、そのような活動ができないエリアが世界に多くあります。 例えばフランスのような先進国、あるいは中東でもエジプトとかチュニジアのような比較的治安がいい国では、面的に支配するエリアはほとんどありません。辺境地域ぐらいに、ちょっとしかない。そうしますと、そういう所ではイデオロギーですね、組織を作って、大規模に活動、武装することはできませんから、拠点をむしろ作らずに、小規模な組織が勝手に社会の中から出てくることを刺激する。それによって、具体的にはテロを自発的に行わせる、そういう意味では『拡散』なんですね。今回は、拡散の方向に一気に振れた、そういう事例だと思います」と。
 グローバルなジハードを掲げる勢力は、支配地域の「拡大」とテロ活動の「拡散」という2つのメカニズムで広がっているということである。
 池内氏によると拡大と拡散は、別々の動きではない。11月15日のフェイスブックの本人書き込みでは、「拡大がうまくいかない時、軍事的に不利になれば、拡散に向かう。拡散しながら社会を撹乱し体制の動揺を待って、また地理的・領域的な拡大を目指す」と述べている。
 現在は、ISILにとっては、軍事的に不利になったので拡散しながら社会を撹乱し、体制の動揺を待って、また地理的・領域的な拡大を目指すという局面と見られる。この見方が当たっていれば、今後、各地でテロがさらに拡散し、また攻撃が一層激しくなる恐れがある。

 次回に続く。
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