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2015年05月26日09:51

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人権154〜ナショナル・アイデンティティ

●ナショナル・アイデンティティの形成の仕方

 ナショナル・アイデンティの形成においては、言語が重要な役割を担う。言語は、諸文化の中核的な要素である。それは、人間は、自分を認識する時、何か特定の言語によって「自分は誰誰である」「自分は何々の一員である」と思考するからである。その言語は、近代化の過程で無から創造されたものではなく、主要なエスニック・グループで使用されていた言語がもとになったものである。近代西欧では言文一致運動と印刷技術の発達、義務教育等によって、共有の言語が創造され、共用されるようになった。その結果、言語共同体的な集団意識が生まれた。ただし、アイデンティティを形成するもとは、言語だけではない。アイデンティティ共有の別の要素は、宗教またはその宗派の信仰である。自分たちは同じ信仰をともにしているという意識によって、信仰共同体的な集団意識が生まれた。また、別の要素は、歴史である。自分たちは共通の祖先の体験を共有しているという意識が成立したところに、歴史共同体的な集団意識が生まれた。また、次の別の要素は、経済生活である。生産・消費・流通・金融のネットワークが地理的に拡大し、一つの政府のもとに経済を営み利害を共有するという意識が成立したところに、経済共同体的な集団意識が生まれた。その他にも、血統・文化・生活習慣等、いくつかの要素が考えられる。こうした要素のどれが主要となってネイションが形成されたかは、そのネイションによって異なる。言語は非常に重要だが、必ずしも言語が常に決定的な要素ではない。
 意思の交通には共通の言語で会話・文通する言語的能力が必要だが、アイデンティティの形成には、これに加えて象徴的な想像力が必要である。アンダーソンは、ネイションとは「想像された共同体」と定義した。ネイションは一定の領域において主権を持つ政治的共同体として想像される。人間は、直接的な体験できる関係、つまり共同で生活する、会って意思の交通を行う、集団の一員として一緒に行動する等の関係については、体験を通して認識する。だが、そうした関係を超えた規模の集団を認識するには、想像力を要する。それゆえ、直接体験できる関係を超えた規模の共同体は、“想像された共同体”である。ネイションに限らない。ローカル(地域的)な集団も、エスニック(民族的)な集団も、その他の集団も、“想像された共同体”である。またこれらの共同体におけるアイデンティティは、“想像されたアイデンティティ”である。ナショナル・アイデンティティに限らない。郷土的なローカル・アイデンティティも、民族的なエスニック・アイデンティティも、またその他の集団のアイデンティティも、“想像されたアイデンティティ”である。違いは、ナショナル・アイデンティティは、一定の領域で主権を持つ集団の一員だという自己同定であるという点である。
 直接体験した関係を認識する能力は、具象的な能力である。直接体験できる範囲を超えた関係を認識する能力は、抽象的な能力である。ローカル・アイデンティティもエスニック・アイデンティティ等も、抽象的な能力によって“想像されたアイデンティティ”である。ナショナル・アイデンティティは、より拡大された共同体における“想像されたアイデンティティ”である。関係の範囲が広がれば、それだけ高度な抽象的能力を必要とする。ネイションの形成及びナショナル・アイデンティティの確立に必要なのは、ローカルな集団やエスニックな集団におけるよりも高度な抽象性を理解する能力である。
 その抽象的能力を育成・開発する方法が、出版物の読書や公教育の履修、集団的な行事への参加等である。ここで重要なのが、象徴(シンボル)の利用である。人間には、分析―総合によって、物事を論理的に理解する能力とともに、象徴によってその意味する全体を直観的に理解する能力がある。前者は主に論理的な言語や数式、後者は主に詩的な言語や図像・形象を通じた理解力である。
 ネイションをとらえるには、論理的な理解力だけでなく、直観的な理解力が必要である。直観的な理解力を育て働かせる象徴としては、神話における祖先神、歴史的な記憶を表す物語における英雄、現在における中心指導者、国旗、国歌等がある。アンダーソンは、ネイションについて「想像された共同体」といい、出版物を通じた共通言語による想像力の働きを強調したが、象徴によって全体を理解する能力は、単なる想像力ではなく、象徴的想像力である。出版物や教育内容、集団的な行事等に、神話や物語、象徴的な図像や形象が盛り込まれることによって、象徴的想像力が育成・開発され、ネイションが一定の領域において主権を持つ共同体として想像される。またその一員としてのアイデンティティが内面的に確立されていく。国家・国民・最高指導者と自分が一体的なものと感じられる時、国民個人個人のアイデンティティの意識は、最も強まる。

 次回に続く。
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