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2015年05月24日10:28

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ファンタジーの中へ(53) 島崎今日子「安井かずみがいた時代」

 写真は安井かずみとコシノジュンコ、加賀まりこと揃ったのはネットにはなかった。

 島崎今日子「安井かずみがいた時代」集英社文庫2015(初出 婦人画報2010.11月号-2012.7月号)を読んだ。新刊書は立ち読みにかぎる私であるが、これはかみさんの姉がかみさんに送って来たもので、読んで面白ければ自分も読む、などと言って渡されたのである。なんで安井かずみなのか分からなかったが、だいぶ前に若く死んだ作詞家(1939-1994)だったことを思い出した。
 本書は、25章ほどからなり、それぞれが安井と親しかったアーティストへのインタビューをもとに書かれていて、人気作詞家だった安井を多面的な光に当てようとしたようである。
 後ろに付けられている年表によれば、作詞は1964年25歳から始まり1974年35歳までが多作で代表作の書かれた時代だった。1977年にミュージシャンの加藤和彦と結婚してから、それまでの恋の多い自分流の生き方からハイソサエティ的な生活態度に変わり、作詞など音楽活動も夫にだけ向けられるようになったという。

 安井と妖精と言われた加賀まりこ、デザイナーのコシノジュンコ(朝ドラのカーネーションでおなじみ)は歳も近く親友であった。これからという若い青年も含めて芸術家のサロンであった六本木のキャンティというレストランをたまり場にして、忙しい仕事をぬって遊びまわっていたとのことである。そういえば、「カーネーション」では岸和田のだんじりの時には、東京からコシノ3姉妹の関係するアーティストを集めていた。サロンの雰囲気を出していたのだろうか。
 60年代半ばと言うから25歳くらいだったのだろうが、加賀まりこと二人で3カ月のパリ旅行をし、サンローラン、トリュフォー、ゴダールらが二人をエスコートしていたのだそうである。フランソワーズ・サガンのスキャンダラスな生き方などがロール・モデルとのことで、「結婚とか恋愛があたくしの人生でした。これからもそうです。人生をしているその産物が作詞となり、エッセイになるのですから、一挙両得です。」と語っている(1986年)。

 コシノジュンコによれば、加藤和彦と結婚してから、がらりと生活態度が変わってしまい、ハイソになってフィーリングが合わなくなったという。もう、無軌道なまでの冒険的、進取的ではなくなったということのようである。

 フォークのシンガー・ソングライター吉田拓郎は、安井をお姉さんとして付き合っていたらしいが、最初に安井のアパートでのパーティに連れて行かれ、スーパーモデルたちが踊ったり酒を飲んだり、夜中になれば、男も女も裸になってプールに飛び込むのを見て驚いたとのことである。まるで、「クオ・ヴァデス」描くローマ皇帝のオーギー・パーティである。
 だいたい、安井は貧乏臭いフォークソングが嫌いで、「神田川」などとんでもないという評価だった。吉田拓郎はそれほどでもなかったが、自身の日常をもとにした歌詞は安井の好みではなく、付き合いはあっても距離感があったようである。

 ということで、安井の最盛期だった十年間の生活は、フェリーニ「甘い生活」そのものだったと思えてくる。特に、吉田の証言はあの映画に取り入れてもよいような場面ではないか。ただし、フェリーニはローマのセレブ達の生活に批判的で、最後の場面で海から上がってきた怪魚を見せていた。安井の場合には、生涯にわたって生き方そのものだったようだが、それでも、前衛的な無軌道セレブからオーソドックスなセレブへと変身している。そのへんがコシノジュンコには不満だったのだろう。

 ところで、肝心の安井の歌詞をほとんど知らないのである。この本で「私の城下町」がそうだったことに気がついた。「格子戸をくぐりぬけ 見上げる夕焼けの空に 誰が歌うのか子守唄 私の城下町」作曲は平尾昌晃、歌手は小柳ルミ子だった。
 これに続いて「瀬戸の花嫁」も大流行した。こちらの作詞は山上路夫「瀬戸は日ぐれて 夕波小波 あなたの島へお嫁に行くの 若いと誰もが心配するけれど 愛があるから大丈夫なの」・・・私などはどちらも似たような印象だったのだが、後者は田舎でしかも花嫁などと、パリから遠すぎて、安井の嫌う絵に違いない。この歌がはやったとき丁度広島にいたので、そのころから流行り出したカラオケスナックで調子を外して歌っていたものである。
 そして吉田拓郎「浴衣の君は・・・」とか、「姉さん先生もういない・・・」などは、もちろん山上のものに近い。両者の間に違和感があるはずであろう。

 安井は「神田川」を生活そのままと嫌ったが、安井の場合は背伸びした生活をもとにして作詞していたわけである。フランス語や英語のできた安井にとって海外セレブの生活が生涯の目標だった。たくさんのエッセイは、セレブライフの伝道の書だったのだろうか。


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