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2015年05月13日08:49

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人権149〜ナショナリズムとリベラリズム

●ナショナリズムとリベラリズムの相互作用

 ナショナリズムは、近代西欧において、近代国家を建設し、国民を形成する駆動力となった。その結果、実現・成長したのが国民国家である。ナショナリズムは、エスニック・グループをはじめとする様々な集団を一つの国民として形成することによって、領域国家の住民の間に同胞意識や連帯感を培った。それによって国民は等しく自由と権利を有するべきだという人権の思想を発達させた、と私は考える。
 西欧では、中世の身分制議会で国王を中心とする臣下の集団という意識が形成され、このエスニックな集団意識が国民の意識へ発達した。議会は、新興階級が市民革命を推し進める場所ともなった。市民階級が権利を拡大することによって、身分制議会は近代的な国民的な議会に変化した。この過程で、自由の確保・拡大を求めるリベラリズムと、民衆の政治参加を求めるデモクラシーが結合して、リベラル・デモクラシーが生まれた。そのリベラル・デモクラシーと、ネイションの形成・発展を目指すナショナリズムが、相互作用的に発達した。
 リベラリズムには、消極的リベラリズムと積極的リベラリズムがある。消極的リベラリズムは、国家権力による干渉を拒否し、政府に文化的中立を求める。積極的リベラリズムは、政治権力に参加を求め、権力を行使して自由と権利を拡大しようとする。リベラリズムには、目的別にみると、市民革命型、独立建国型、民族統一型、自治拡大型の4つの類型がある。ナショナリズムと違って、政府主導型はない。逆に、ナショナリズムには、自治拡大型はない。
 イギリス、フランスにおけるリベラリズムは、絶対王政を倒し、市民階級の政治参加を求める市民革命型だった。アメリカ、ラテン・アメリカでは、本国からの独立を求める独立建国型だった。イタリア、ドイツでは、自由と統一を同時に追求する民族統一型だった。カナダにおけるケベック州では、自治拡大型である。また、これらの型が複合した複合型が存在する。
 ナショナリズムとリベラリズムを相反するものと見たり、別個に扱ったりするのは、正しくない。人間には、個人性と社会性がある。リベラリズムは個人性の面で、自由と権利の獲得・拡大を目指す。これに対し、社会性の面で、自由と権利の獲得・拡大を目指すものが、ナショナリズムである。消極的リベラリズムの徹底した形態は、政府による国民の統合や国民意識の形成を行うナショナリズムに対して、自由への侵害として反発する。これは、反ナショナリズム的なリベラリズムであり、個人主義的である。これに対し、積極的リベラリズムは、ナショナリズムと融合し得るリベラリズムである。
 ナショナリズムの目指すものは、ネイションの形成・発展である。そのために、国家形成段階では、革命・独立・統一を図り、国家発展段階では、国内の充実と対外的な拡張を企てる。ナショナリズムは、政治権力の獲得・拡大を求め、集団的権利である国権・民権の獲得・拡大を目指すものである。これに対し、個人の権利である人権の確保・拡大を目指すものが、リベラリズムである。ここで国権とは政府の権利(the right of state)であり、民権とは人民の権利(the right of people)であり、人権とは個人の権利(the right of persons)である。そして、国権の獲得・拡大を目指すのが国家主義としてのナショナリズム、民権の獲得・拡大を目指すのが国民主義としてのナショナリズムである。また人権の獲得・拡大を目指すのが、自由主義としてのリベラリズムである。ナショナリズムとリベラリズムが融合する時、国権・民権・人権を一体のものとして実現・拡大しようとする運動となる。
 ナショナリズムは、リベラリズムによって集団が個人性の方向に行き過ぎるのを規制し、集団としての共同性を維持する力となる。一方、リベラリズムも本来、社会の共同性あってのものであり、ナショナリズムは、その基盤を確固としたものにする。
 個人本位のリベラリズムと集団本位のナショナリズムは、個人と集団の関係において、対立する場合もあれば、協調する場合もある。反ナショナリズム的なリベラリズム、反リベラリズム的なナショナリズム、両者が融合したリベラリズム的なナショナリズムが存在する。歴史的には、多くの場合、リベラリズムとナショナリズムは、相携えて発達してきたのである。
 ナショナリズムとリベラリズムの相互作用は、次のように展開した。先進地域であるイギリス、フランスでは、市民革命型のリベラリズムとナショナリズムが融合した。欧州諸国の植民地では、別の要素が加わった。北米、中南米の植民地では、支配者と被支配者が同じ民族だった。そこでの独立を求める思想・運動は、リベラリズムを基本とした。自由を求めるリベラリズムが権利の拡大要求を超えて独立運動となり、独立した政府を樹立しようとした。独立に成功すると、植民地だけで新たなネイションを形成した。この過程で、ナショナリズムが発達した。
 西欧の後進地域において、イタリアでは、フランス革命の影響を受けた共和主義者が、イタリアの統一を進めた。自由や民衆の政治参加を求めるリベラリズムが国家の統一を目指すナショナリズムとなった。ドイツでは、ナポレオンの占領下にあって、封建制を批判して近代化を進めるリベラリズムと、異民族であるフランスの支配からの自由と民族の統一を求めるナショナリズムが融合した。非西欧の後進地域において、ロシアでは、皇帝が国民国家をめざし、上からの近代化を進めた。政府主導型のナショナリズムが強く、リベラリズムの要素はあまり発達しなかった。
 日本では、欧米列強の植民地にされぬように、武士階級が中心となって近代的統一国家を建設した。封建身分制を自ら廃止した点では、リベラリズムである。また、欧米列強の植民地にされぬよう天皇を中心とした近代国民国家を形成した点では、ナショナリズムである。
 ナショナリズムとリベラリズムの相互作用には、さらに複雑な展開がみられる。ナショナリズムとエスニシズムの関係や、サブ・ネイションによるナショナリズムが絡むからである。次項からこれらについて述べたい。

 次回に続く。

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