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2015年03月14日08:46

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人権139〜ナショナリズムの定義

●エスニシズムとの比較を踏まえた総合的な定義

 私は、ナショナリズムは、近代西欧で発生したものではなく、西洋文明の近代以前及び非西洋文明にも広く見られるエスニシズムの特殊な形態だと考える。言い換えると、エスニシズムの特殊近代西欧的な形態が、ナショナリズムである。エスニシズムとは、ある集団がエスニック(民族的)な特徴を積極的に維持・発揚しようとする思想・運動である。ナショナリズムを国家主義・国民主義とすれば、エスニシズムは、民族主義である。
 西洋文明の近代以前及び非西洋文明においても、支配的なエスニック・グループが、その言語・文化・宗教等を被支配的なエスニック・グループに強制することは、広く見られる。また異民族の支配を受けた集団が、これに抵抗・反発し、分離・独立を目指したり、権力の部分的または全面的な奪取を図ったりすることも、広く見られる。古代のエジプト、メソポタミア、インド、シナの文明の時代から、西欧でネイションが形成される時代まで、世界史を通じて存在する現象である。私は、この現象をエスニシズムと呼ぶ。そうしたエスニシズムの特殊近代西欧的な形態が、ナショナリズムである。
 ナショナリズムは、ある集団が主権を獲得・拡大し、ネイションを形成し発展させようとする思想・運動である。その点では、西欧法制度下の主権国家体制における近代的な現象である。
しかし、多くの場合、ナショナリズムの主体は、エスニックな特徴を持った集団である。ナショナリズムは、近代西欧に発生したエスニシズムの特殊な形態である。近代西欧主権国家体制が構築される前は、西欧でも非西欧でも、ナショナリズムは存在しない。前近代の世界において、ある集団がエスニックな特徴を積極的に維持・発揚しようとする運動や傾向は、ナショナリズムではなく、エスニシズムである。近代以降の西欧においても、また非西欧においても、エスニック・グループが権利・権力の獲得・維持・拡大を求めはするが、主権の獲得・拡大を目指さないものは、ナショナリズムではなくエスニシズムである。今日の世界各地のエスニック・グループには、部族や部族連合の規模に近い少数民族もあり、また人口が多くとも政治的主張が近代西欧的な政治思想とは異なるものもある。所属国において一定の自治権の保障や文化的な権利の尊重を求めるのみで、主権を持つネイションの形成を目指さない場合は、ナショナリズムではなくエスニシズムである。
 西洋文明の近代以前においても、また非西洋文明において、ある集団がエスニック(民族的)な特徴を積極的に維持・発揚しようとする思想・運動は、世界的に広く見られる現象である。こうした現象までもナショナリズムと呼ぶ論者がいる。もしこれをナショナリズムと呼ぶならば、ナショナリズムを担う集団的な主体を、何と呼ぶかを明確にしなければならない。それをネイションと呼ぶならば、ネイションは近代以前、主権国家出現以前から存在したことになる。そして、ネイションを前近代的ネイションと近代的ネイションとに分ける必要があるだろう。だが、この考え方は、混乱をもたらす。混乱を避けるには、ネイションは近代主権国家の主権を持つ集団とし、ナショナリズムは、そのネイションに関する思想・運動としなければいけない。そして、ナショナリズムは、西洋文明の近代以前及び非西洋文明にも広く見られるエスニシズムの特殊な形態であり、近代西欧的なネイションの形成・発展にかかるエスニシズムがナショナリズムである、と整理すべきである。これを仮の定義3とする。
 近代西欧に現れたネイションと、西洋文明の近代以前の諸社会及び非西洋文明の諸社会の政治的共同体の違いは、主権の所有の有無による。主権は、近代西欧の法制度上の概念ゆえ、この分け方は、近代西欧の法制度を基準とする分け方である。もっとも主権という概念と統治権一般の違いは、さほど明確なものではない。それゆえ、ここでも厳密に定義しようとすると、曖昧さは避けられない。20世紀後半以降の国連体制のもとでは、国連の加盟国の基準は近代西欧的な主権国家となったので、これを範型とするのが、分かりやすい。
 さて、ここまで私は、ナショナリズムについて、三つの仮の定義を示した。定義1は、ナショナリズムとは、エスニック・グループが政治的な権力を獲得して、政治的な単位と民族的(エスニック)な単位を一致させ、ネイションを形成しようとする思想・運動である、とするもの。定義2は、ナショナリズムとは、ある集団が一定の領域における主権を持とうとし、またその主権を行使するネイションを発展させようとする思想・運動である、とするもの。定義3は、ナショナリズムとは、西洋文明の近代以前及び非西洋文明にも広く見られるエスニシズムの特殊な形態であり、近代西欧的なネイションの形成・発展にかかるエスニシズムがナショナリズムである、とするもの、である。定義1〜3の間では、主体が異なる。定義1及び定義3は、主体をエスニック・グループとするが、定義2のように主体は、エスニック・グループだけには限らない。定義1は、ナショナリズムを単に近代的な現象とみなすが、この点は定義3のように、エスニシズムとの関係を明確にする必要がある。
 そこでこれらの三つの定義を総合すると、ナショナリズムとは、エスニック・グループをはじめとする集団が、一定の領域における主権を獲得して、またその主権を行使するネイションとその国家を発展させようとする思想・運動である。また、西洋文明の近代以前及び非西洋文明にも広く見られるエスニシズムとの関係では、エスニシズムの特殊な形態であり、近代西欧的な主権国家の形成・発展にかかるエスニシズムであるーーこのように定義することができる。
 
 次回に続く。

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