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2015年02月21日09:33

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人権136〜国民の実質化

●国民の実質化

 絶対王政の主権国家が国民国家となり、領域内の人民を国民としても、それだけでは、国民は形式的な存在にすぎない。そこで、政府は、国民を実質的な存在に変えていく政策を行った。形式的な国民が、国民としての集団的な自己意識を持ち、集団に一体性が生まれていったことを、私は、国民の実質化と呼ぶ。その過程は、ネイションの形成の過程でもあった。
 国民の実質化は、国民の意識の統合であり、ナショナル・アイデンティティの確立である。多くの論者は、国民の文化的な同化、文化的な均一化が行われたことを強調する。確かに国民国家では、しばしば領域における複数のエスニック・グループのうち、最も有力なものを基盤とする小集団が権力を掌握して、ネイションの中核となった。この主要なエスニック・グループの統治者集団は、自らの言語または方言をネイションの標準語として、他のエスニック・グループに教育したり、公用語として使用させたりする。またその言語によって制定された憲法等の法制度を理解させ、承認・遵守させる。こうして領域内に居住する国民の実質化を図った。しかし、言語や文化、宗教の統一は、国民国家に不可欠の条件ではない。国民国家には、必ずしも政治的単位と民族的または文化的単位が一致していないものがあるからである。
 国民国家において最も重要なものは、自分たちは一個の国民だという集団的な自己意識の形成である。その集団意識を形成する核となるものとして、エスニックな土台による神話や歴史的記憶がある。神話との結びつき、歴史的体験の共有は、必ずしも実際にそうでなくてもよい。集団の構成員の大多数がそう強く思い、自分たちは一個の集団だという意識を共有することが、国民の実質化のポイントである。また、この集団意識を強固なものにするのが、国民個人におけるナショナル・アイデンティティの内面的な確立である。
 現実には、言語・文化・宗教・歴史・記憶等の共有による全面的な同化は不可能に近く、多くの国家では一定の要素を共通にすることで、国民の統合を行った。多言語・多文化・多宗教の集団であっても、集団意識が形成され、ナショナル・アイデンティティが確立していれば、国民として強固な集団となる。

●国民の政治権力への参加

 国民意識の統合は、権力によって進められる。それは、実力に裏付けられて初めて可能なことである。警察・軍隊等による物理的な強制力があって、初めて国民の実質化は進められる。この強制力は、自由への干渉、権利への制限となるとは限らない。国民の実質化を進める権力と、個人の自由と権利を保障する権力は、同じものだからである。その権力に誰が参加するかによって、権力が行使する内容は変わる。
 絶対王政国家から国民国家への変化の過程で、君主政治は君民共治政治または民主政治へ移行した。主権は、国王一人の権利から、国王と国民が共有する権利または国民が所有する権利へと変化した。統治権者の数は、中世の封建制国家では少数、近代初期の絶対王政では単数、それ以降の国民国家では多数と変化した。
 ただし、この時代に政治権力に参加する国民は、一部に限定されていた。参政権の付与は、権利に対する義務として、納税と兵役が課せられることが多い。フランスでは、1792年に世界初の成人男子普通選挙が憲法に規定されたが、一時制限選挙に戻り、定着したのは1848年以降だった。イギリスでは、1918年に成人男子普通選挙が実現した。アメリカ合衆国では、1870年に全人種の成人男子への選挙権付与が連邦憲法修正第15条により義務付けられたが、実現は20世紀に入ってからになる。世界初の成人女性の参政権は、1869年にアメリカ合衆国ワイオミング州で実現した。ただし、選挙権のみだった。被選挙権を含む参政権の実現は、1894年のオーストラリアの南オーストラリア州が初めである。欧米において女性参政権が広まったのは20世紀に入ってからとなる。

●国民国家の統治機構

 国民国家には、単一国家と連邦国家がある。単一国家は、一つまたは複数のエスニック・グループで構成される国民が中央集権的な政府によって統治されている国家である。これに対し、連邦国家は、複数の州または国家等と呼ばれる政治組織が、連邦政府によって統治されている国家である。連邦を構成する国家は、独立主権国家ではないが、一定の自治権をもつ。連邦国家の国民をネイションとすれば、その下位の政治的な集団はサブ・ネイションである。
 単一国家は連邦国家より中央集権的だが、中央集権といっても、ある程度は地方分権がされている。また地方分権的な国家であっても、ある程度の中央集権がされている。集権度、分権度の度合いと、中央および地方の各政府の権限の内容は、それぞれの国家によって異なる。
 国家の統治には、対内的・対外的の両面がある。対内的には行政・立法・司法、対外的には防衛・外交が重要である。国家は、どれほど分権度が高くとも、防衛・外交の権限を中央政府に集中できていないと、分裂・解体しやすい。当然、連邦国家においては、一層その傾向が強い。連邦国家において、連邦を構成する州・国家等の自治権の度合いは、連邦国家によって異なる。だが、どのような権限分配の仕方であっても、防衛・外交の権限は連邦政府に集中できていないと、連邦国家は容易に分裂・解体する。20世紀末で最大の歴史的な出来事だった米ソ冷戦の終焉後、国家の数は減るどころか、さらに増えているが、新たに誕生した独立主権国家は、連邦国家の崩壊によるものがほとんどである。

 次回に続く。

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