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2015年01月29日08:55

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ピケティの定理を日本に当てはめると2〜田村秀男氏

 1月23日ピケティの理論とその日本への適用について、日記に書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/3e4372c3cda217cd240f4ebe492a31bd
 その記事に掲載したエコノミスト、田村秀男氏は、26日の産経新聞の記事にも、ピケティの理論に基づく日本経済の分析と提言を書いている。先の日記に載せた内容と一部重複するが、それを踏まえて一歩進めた分析が書かれている。
 特に注目すべきは、次の点である。
 ピケティが国民所得成長率と比較する資本収益率(税引き前)について、田村氏の試算によると、米国の場合は90年代後半以降6%前後で推移している。ピケティによると、世界的には5%強である。それに比べると日本のそれは過去10年間3〜4%の水準にある。そのことを述べた後に、田村氏は次のように言う。
「米国を中心とするグローバル標準まで資本収益率引き上げないと、外国からの対日投資が増えない、日本の企業や投資家は対外投資に走るとの懸念があるせいか、国内では法人税率の実効税率引き下げ、さらに雇用、投資面などでの規制緩和を求める声が強い。
 しかし、株主資本主義では経済成長率を押し上げる力が弱いように思える。GDPの6割を占める家計の大多数の収入が抑えられるからだ。名目賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は97年以降、ほぼ一貫してマイナスである。賃金を減らし、配当を増やすという、株主資本主義は投資ファンドを引きつけても、実体経済の回復につながりそうにない」と。
 そこで、田村氏は、前回の拙稿でも強調したように、次のように主張する。
 「安倍首相が本格的に取り組むべきは、格差社会の勝者を太らせる政策を廃棄し、旧世代や新世代を支え、養う現役世代を勝者にさせる政策への転換ではないか」と。
 次に、田村氏の記事の全文を掲載し、その後に私見を述べる。

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●産経新聞 平成27年1月25日

http://www.sankei.com/column/news/150125/clm1501250008-n1.html
2015.1.25 10:51更新
【日曜経済講座】
「21世紀の資本」と日本 「格差」拡大しても成長困難 編集委員・田村秀男

 世の中で起きる数え切れない経済事象を一つのアングルで鋭く切る。「21世紀の資本」の著者、仏経済学者のトマ・ピケティ氏は「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意(しい)的で持続不可能な格差を生み出す」と断じている。古代から現代、さらに21世紀全般にわたって、気の遠くなるようなデータをかき集め、かつ推計してみせた。
 じゃあ、今の日本はどうなのか、ピケティさんに任せっきりにせず、自分の手でデータを調べてみた。法人企業統計(財務省)をもとに総資本利益率を税引き前および税引き後の純利益にわけて「資本収益率」を算出。国内総生産(GDP)の実質成長率を「産出と所得の成長率」に置き直し、さらに実質賃金の伸び率を加えたのが、本グラフである。これらのデータは5年間の移動平均値にならしている。一時的なブレに幻惑されないためである。
 資本収益率が実質成長率を上回るようになったのは税引き前で1990年代前半、税引き後は90年代後半だ。それまでは成長率のほうが収益率をほぼ一貫して上回ってきた。日本経済は遅く見ても90年代後半以降、「格差」の時代に突入したことになる。
 90年代前半にはバブル崩壊、さらに97年度には橋本龍太郎政権が消費税増税など緊縮財政路線に踏み切り、日本経済は一挙に慢性デフレ局面にはまりこみ、なお抜け出られないでいる。
 デフレは格差拡大の元凶である。「デフレは企業者の生産制限を導き、労働と企業にとって貧困化を意味する。したがって、雇用にとっては災厄になる」と、かのケインズは喝破した。
 デフレ下では現役世代の賃金水準が下がるのに比べ、金融資産を持っている層はカネの価値が上がるのでますます豊かになる。デフレで売上額が下がる中小企業の従業員は賃下げの憂き目にあいやすい。デフレは円高を呼び込むので、生産の空洞化が進み、地方経済は疲弊する。若者の雇用の機会は失われる。
 慢性デフレの局面でとられたのが「構造改革」路線である。モデルは米英型「新自由主義」だ。97年の金融自由化「ビッグバン」で持ち株会社を解禁した。2001年に発足した小泉純一郎政権は、「郵政民営化」で獲得した政治的な求心力をテコに米国からの各種改革要求に応じた。製造業の派遣労働解禁(04年)など非正規雇用の拡大、会社法(06年)制定など株主中心主義への転換などが代表例だ。法人税制は98年度以降、02年度までに段階的に改正され、持ち株会社やグローバル企業を優遇している。
 全企業が従業員給与100に対してどれだけ配当に回しているかを年度ごとにみると、70年代後半から90年代末までは3前後(資本金10億円以上の大企業は7台)だった。この比率は、02年度からは徐々に上昇し、13年度は11・5(同32)と飛躍的に高まった。小泉改革路線は伝統的な従業員中心の日本型資本主義を株主資本主義に転換させた。この構図は、従業員給与を可能な限り抑制して利益を捻出し、株主配当に回す、グローバル標準の経営そのものである。
 もちろん、悪意なぞあるはずはなく、日本経済をグローバル標準に合わせて大企業や金融主導で日本経済の再生をもくろんだ。
 資本収益率(税引き前)に話をもどすと、米政府のデータに基づく筆者試算だと、米国の場合は90年代後半以降6%前後で推移している。また、「21世紀の資本」によれば、世界的には5%強である。それに比べると日本のそれは過去10年間3〜4%の水準にある。米国を中心とするグローバル標準まで資本収益率引き上げないと、外国からの対日投資が増えない、日本の企業や投資家は対外投資に走るとの懸念があるせいか、国内では法人税率の実効税率引き下げ、さらに雇用、投資面などでの規制緩和を求める声が強い。
 しかし、株主資本主義では経済成長率を押し上げる力が弱いように思える。GDPの6割を占める家計の大多数の収入が抑えられるからだ。名目賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は97年以降、ほぼ一貫してマイナスである。賃金を減らし、配当を増やすという、株主資本主義は投資ファンドを引きつけても、実体経済の回復につながりそうにない。
 安倍首相が本格的に取り組むべきは、格差社会の勝者を太らせる政策を廃棄し、旧世代や新世代を支え、養う現役世代を勝者にさせる政策への転換ではないか。
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 さて、最後に田村氏の言う「格差社会の勝者を太らせる政策」とは、氏の言う「20年間の日本経済の基本路線となってきた格差拡大経済」を進めてきた政策である。デフレの中で取られた米英型の新自由主義に基づく構造改革路線である。特に小泉政権は「伝統的な従業員中心の日本型資本主義を株主資本主義に転換」させた。
 田村氏の主張をもっと徹底するならば、構造改革路線を否定し、日本型の経営を再評価し、グローバリズムに対抗して国民経済の再構築を行うべきだという意見となるだろう。
 わが国の構造改革路線は、中野剛志氏が指摘しているように、インフレ時におおなうべき政策を、デフレの時に実行したことによって、デフレを悪化させてしまった。最悪の環境で外資の圧力で導入された新自由主義の政策は、日本の伝統文化に根差す経済システムを、米英型の経済システムに変造するものだった。日本的価値からアングロ=サクソン・ユダヤ的価値観への転換を強行するものだった。
 1990年代から構造改革路線を一貫して批判し、日本経済再生策を提言してきたエコノミストの代表的存在が、菊池英博氏と丹羽春喜氏である。ともに新自由主義を批判し、ケインズ主義の復権を説いている。財務省の誤りを指摘し、デフレを脱却するために、積極財政政策を提言してきた。東日本大震災の発生後、ともに日本復興のための大胆な政策提言を行っている。
 安倍首相は、小泉政権の官房長官から首相となり、第1次政権を担った。そのこともあってか、安倍氏は小泉構造改革、より長期的には橋本=小泉構造改革の総括が十分できていない。そのため、アベノミクスには新自由主義的な要素が混在している。竹中平蔵氏の重用も、その現れの一つである。私は、安倍首相は、ピケティ=田村氏のデータ分析をもとに、アベノミクスを総点検して一部修正を行い、脱新自由主義化と日本的価値の顕揚を行うべきと考える。

関連掲示
・拙稿「経世済民のエコノミスト〜菊池英博氏」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13i-2.htm
・拙稿「『救国の秘策』がある!〜丹羽春喜氏1」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13j.htm
・拙稿「東日本大震災からの日本復興構想」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13l.htm

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