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2015年01月23日09:39

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ピケティの定理を日本に当てはめると1〜田村秀男氏

 フランスの経済学者トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』が、欧米を中心に世界的なベストセラーとなり、昨年12月邦訳本が出た。マルクスとは別の角度から資本主義の根本矛盾を説いた書と評価されている。ポール・クルーグマンは、本書について「過去10年間で最も重要な経済書」「ピケティは不平等の統一場理論を発見した」と絶賛している。エマヌエル・トッドは「地球規模の経済的、社会的変化を扱った画期的著作だ」と高く評価している。私はまだあまり深く勉強できていないが、これから多くのエコノミストに引用・言及される本となりそうである。
 ピケティの資本の概念は、マルクスとは大きく異なる。マルクスによれば、資本は貨幣や商品や生産手段ではなく、一方に生産手段を私有する少数の資本家、他方に生産手段を奪われ自分の労働力を商品として売るしかない多数の労働者がいるという生産関係が、貨幣や生産手段等を資本たらしめるのである。
 賃金労働者は、労働力商品を資本家に売り、資本家は、労働力という他人の所持する商品を買うという関係にある。マルクスは、この資本家と労働者の関係を、階級という概念でとらえ、階級関係は、政治的な支配関係を伴うが、本質的・基本的には生産の場における経済的関係であることを洞察した。
 資本制的生産様式においては、商品の生産過程で剰余価値が生み出され、資本家はこれを利潤として獲得する。資本は、賃労働者を搾取して得た剰余価値を領有する。従って、資本とは剰余価値を生む価値であるとマルクスは主張した。
 だが、マルクスは市場の作用を軽視した労働価値説に依拠して、剰余価値説を説いたため、その理論は破綻している。資本については、安易にマルクスに依拠せず、経済現象の実態を歴史的に研究して定義を行うべきである。
 ピケティは、マルクスの理論に基づいていない。マルクスについて、「一度もちゃんと読んだことはない。(略)『資本論』は難しすぎて読みづらい」と述べている。本人がこう言っているのだから、ピケティの著書をマルクスの『資本論』と比較して、理論的に検討することは、あまり意味がないだろう。ピケティは、独自の研究によって、土地などの不動産のほか、建物、機械、企業、株、債権、特許、天然資源など、利子や利潤を生み出すものすべてを資本と定義する。
 ピケティの主張のポイントは、 「r>g」という不等式である。「r」は資本収益率、「g」は国民所得の成長率を指す。「r」の方が「g」より大きいということは、資本収益率の方が、国民所得の成長率より高いことを意味する。労働による所得の増加よりも、資本の儲けの方がもっと増加しているということである。そこに格差の原因がある、というのが、ピケティの指摘である。
 この指摘は、過去200年以上にわたるフランスやイギリス、アメリカ、日本等の先進諸国のデータに基づく。主に税金を分析している。その研究により、長期的に見ると、大体資本収益率は世界大戦期を除くと5%前後、国民所得成長率は1〜2%前後であることが示される。そこから、資本主義は放置状態では、貧富の格差が拡大し続けるシステムであるという結論が導き出される。
 私の見るところ、なぜ、こうした格差が生じるかについて、ピケティは深く分析を行っていない。私見によれば、富の収奪は、経済外的な支配―被支配の権力関係に基づく。植民地からの収奪も、労働者の賃金の決定も、税金の課税率も、権力関係による。権力を握る者が、より多く取る。だから、富める者は一層富むという仕組みである。暴力的に取るか、制度的に取るか、一見民主的に取るか、方法は異なるが、本質は権力関係である。
 ピケティは、格差の拡大は問題であるとし、格差の拡大に向かうという資本主義の本質的な傾向に対抗するには、世界規模で各国の政府が資本への課税を強化する必要があると説く。また富の集中を制限する方法として累進課税を求める。これは、所得を再配分する方法である。私見を述べると、こうした世界的な資本及び富裕層への課税の強化は、現在の権力関係に変化を求めるものとなる。特に巨大国際金融資本家から、強い抵抗を受けるだろう。その抵抗を斥けて課税を強化するには、各国でデモクラシーの飛躍的な発達が必要である。

 さて、ピケティの理論を日本に当てはめるとどうなるか。エコノミストの田村秀男氏は、1月15日に「日本は1997年度から『格差の時代』 富裕層はますます豊かに」、同月17日に「ピケティ氏の定理で読み解く日本の格差の“元凶”と安倍政権」と題した記事で、その試みを行った。ともに田村氏のブログに掲載されている。
http://blogs.yahoo.co.jp/sktam_1124/40711877.html
http://blogs.yahoo.co.jp/sktam_1124/40715064.html
 これらの記事の内容は非常に重複が多いが、一部異なる部分があり、またそれぞれ独自のグラフを含んでいる。発表する媒体の都合で、それぞれ文字数が制限されたためだろう。貴重な記事であり、私自身その主旨を把握しやすくしたいので、2本の記事を編集して一本化したものを掲載する。
 下記において田村氏の主張のポイントは、安倍首相が本格的に取り組むべきは、慢性デフレと構造改革路線による格差拡大経済に決別し、「旧世代や次世代を支え、養う現役世代を勝者にさせる政策への転換」である、という点にある。

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 仏経済学者トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」が世界的なベストセラーになっている。そのコアは「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意(しい)的で持続不可能な格差を生み出す」という定理だ。
 日本はどうか。法人企業統計(財務省)からとった総資本経常利益率を「資本収益率」に、国内総生産(GDP)の実質成長率を「産出と所得の成長率」にみなして、それらの推移を追ってみた。

※グラフ左

 1997年度以降、資本収益率が実質成長率を一貫して上回っている。
 それまではおおむね成長率の方が収益率を上回ってきた。下回ったときは石油危機、プラザ合意による急激な円高、90年代前半のバブル崩壊というふうな「ショック効果」と言うべきで、成長率は1、2年で元通り収益率を上回る軌道に回帰している。ピケティ氏の定理を前提にするなら、日本経済は97年度以降、「格差」の時代に突入したことになる。
 97年度といえば、橋本龍太郎政権が消費税増税と公共投資削減など緊縮財政路線に踏み切り、日本経済は一挙に慢性デフレ局面にはまりこみ、いまなお抜け出られないでいる。
 経済の実額規模である名目GDPは、2013年度が1997年度に比べて7.3%減、金額で38兆円のマイナス、国民1人当たりでは3万円も減った。
 「デフレは企業者の生産制限を導き、労働と企業にとって貧困化を意味する。したがって、雇用にとっては災厄になる」と、かのケインズは喝破したが、格差拡大所得の元になるGDPが縮小してみんな等しく貧しくなるわけではない。
 デフレは格差拡大の元凶である。一般に現役世代の賃金水準が下がるのに比べ、預金など金融資産を持っている富裕層はカネの価値が上がるのでますます豊かになる。給付水準が一定の年金生活者は有利だし、勤労者でも給与カットの恐れがない大企業や公務員は恵まれている。
 デフレで売上高が下がる中小企業の従業員は賃下げの憂き目にあいやすい。デフレは円高を呼び込むので、生産の空洞化が進み、地方経済は疲弊する。若者の雇用の機会は失われる
 慢性デフレの局面で、とられたのが「構造改革」路線である。モデルは米英型「新自由主義」である。97年の金融自由化「ビッグバン」で持ち株会社を解禁した。2001年に発足した小泉純一郎政権は、日銀による量的緩和とゼロ金利政策で円安に誘導して輸出部門を押し上げる一方で、郵政民営化で政治的な求心力を高め、米国からの各種改革要求に応じた。
 97年の金融自由化「ビッグバン」で持ち株会社を解禁した。2001年に発足した小泉純一郎政権は米国からの各種改革要求に応じた。製造業の派遣労働解禁(04年)など非正規雇用の拡大、会社法(06年)制定など株主中心主義への転換などが代表例だ。法人税制は98年度以降、02年度までに段階的に改正され、持ち株会社やグローバルな企業の事業展開を後押ししている。大企業や銀行の国内外からの配当収入はほぼ無税だ。
 このパターンでは経済成長率を押し上げる力が弱い。GDPの6割を占める家計の大多数の収入が抑えられるからだ。名目賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は97年以降、ほぼ一貫してマイナスである。賃金はマイナス、配当はプラスでも需要減・デフレ・賃金下落という悪循環だけが残る。
 小泉政権までの自由化・改革路線は外国の金融資本の対日投資を促す一方で、日本の企業や金融機関の多国籍化を促すという両側面で、日本経済のグローバル標準への純化路線であり、それを通じて大企業や金融主導で日本経済の再生をもくろむ狙いがあった。結果はどうか。
 全企業が、従業員給与「100」に対し、どれだけ配当に回しているかを年度ごとにみると、1970年代後半から2001年度までは「3」前後(資本金10億円以上の大企業は「7」台)だった。この比率は02年度からは徐々に上昇し、03年度は「11.5」(大企業「32」)と飛躍的に高まった。

※グラフ右

 小泉改革路線は伝統的な従業員中心の日本型資本主義を株主資本主義に転換させたのだ。従業員給与を可能な限り抑制して利益を捻出し、株主配当に回すグローバル標準の経営への転換である。株主資本主義は株式を大量保有する大企業や金融機関に有利で中小・零細企業には不利、富裕層を富ませ、年金世代や次世代の子弟を育てる勤労者世代を圧迫する。日本は格差促進型経済の最中にあるようだ。
 安倍晋三首相が本格的に取り組むべきは、20年間の日本経済の基本路線となってきた格差拡大経済に決別し、旧世代や次世代を支え、養う現役世代を勝者にさせる政策への転換ではないか。 
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