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2014年07月14日08:44

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イラクが過激派武装組織の進撃で内戦状態に4

●米国のジレンマ

 イラクに対して、米国はどう対応するか。6月12日のモスル陥落は、米国では衝撃を以て報道された。イラク戦争開始後、米軍が創設し、約10年間育てたイラク国軍が過激派武装勢力の猛攻にあっけなく敗走した。「これはブッシュ、オバマ両政権による一連のイラク支援・撤退政策が失敗したことを意味する」と宮家氏は述べている。
 オバマ大統領は6月19日に記者会見して、「米軍は戦闘には戻らないが、イラクがテロリストとの戦いに打って出るのを支援する」と述べ、最大300人の軍事顧問の増派、情報収集・偵察能力の大幅増強、必要とあれば標的を絞った精密な軍事行動を取る用意等の方針を表明した。戦闘部隊は投入しない、イラク人自身が戦えというメッセージである。
 だが、大規模な内戦という状況を招いた主な原因は、マリキ首相が、政府も軍もシーア派で固め、首相、内相を兼務し独裁権限を振るったことにあると指摘される。スンニ派が反発するとともに、フセイン元大統領を信奉する勢力もマリキ政権に対抗して、旧名ISISに加勢してきた模様である。果たして、マリキ政権が国民の支持を得て、「イスラム国」(IS)に対抗していけるのか、疑問が湧いている。マリキが政権を維持し、ISとの戦闘を有利に進めるには、外国の支援を必要とする。同じシーア派のイランとの関係を深めていくだろうと予想される。
 それゆえ、米国は、イランの動きを強く警戒している。イラクでは、イラク戦争でフセイン政権が崩壊した後、多数派を占めるシーア派が政治の主導権を握ったことで、同じシーア派のイランが影響力を増した。米国はフセインを叩いたことで、より強大なイランを勢いづけたことになる。イランは中東最大の地域大国である。独自に核開発を進めており、米国の盟友イスラエルとは、敵対関係にある。だが、米国としては、イラク国内ではイランと立場を同じくしなければならない立場となっている。その一方、シリア国内では反イランの行動を取らなければならない立場でもある。イランはアサド政権やレバノンのシーア派組織ヒズボラと同盟関係にある。イランのイラクへの関与増大には、イランと対立するサウジアラビアなどスンニ派湾岸諸国が強く反発することが確実であり、事態をさらに複雑化させる可能性が高い。オバマ大統領は、こうした複雑な立場にあって、ジレンマに陥っていると見られる。

●イランのイラク支援、イラクのシーア派同士の争い

 イランでは、昨2013年夏、ロウハニ政権が発足した。ロウハニ大統領はは敵対関係にあった米国等との「建設的な関係」を築くことを政策に掲げている。
 モスル陥落の2日後、イランのロウハニ大統領は6月14日の記者会見で、イラクから要請があれば支援する用意があると表明した。シーア派のイランは同派主導のマリキ政権と緊密な協力関係にある。無人偵察機を飛ばしてイラク軍に情報を提供するなどしているらしい。
 イランはマリキ政権のほか、シリアのアサド政権やレバノンのシーア派組織ヒズボラと同盟関係にある。その影響範囲は「シーア派三日月地帯」と呼ばれる。イランにとり、シーア派を「信仰上の敵」として、イラクやシリアで「ジハード(聖戦)」を展開するISISは、勢力圏を脅かす存在となっている。イラクでの急速なISの台頭に対し、イランは強い危機感を持っている。イランにとって、マリキ政権を支えることは、地域での影響力保持や対米関係の改善につながる重要政策とされる。ISの攻勢でマリキ政権が揺らぐのは何としても避けたい事態だと見られる。ただし、米国等の反発が必至の直接的な軍事介入には慎重とみられる。
 一方、イラクでは、シーア派同士の争いも顕在化し始めていると伝えらえる。シーア派内の分裂が、イラクの国の枠組みをさらに揺るがす要因となりつつある。
 6月にスンニ派の過激派武装組織「イスラム国」が攻勢を拡大すると、シーア派の最高権威で多くのシーア派信徒から尊敬を集めるシスタニ師が、国民から志願兵を募ったり、スンニ派やクルド人を含む各政治勢力に団結を呼びかける声明を相次いで発表した。これに対しシーア派の聖職者サルヒ師は、ネット上で反対を表明した。
 シスタニ師派との関係が緊張する中、サルヒ師派の民兵が7月1日、中部のシーア派聖地カルバラの市内で道路を封鎖した。これに対し、政府の治安部隊がサルヒ師逮捕に乗り出して戦闘となった。翌2日にかけて、サルヒ師派民兵と治安部隊が衝突し45人が死亡した。サルヒ師は戦闘中に自宅から逃れたという。
 サルヒ師は、シーア派の隣国イランでとられている政治体制「ベラーヤテ・ファギーフ(イスラム法学者の統治)」をイラクで実現することを目指しているとされる一方、イランからの政治的影響力の排除を主張している。イラン生まれで同国と近い関係にあるシスタニ師には以前から批判的で、過去にも双方の民兵が衝突する事件等が起きていたと報じられている。
 「イスラム国」がカリフ制国家の樹立を宣言し、クルド自治政府が独立に向けた住民投票の実施を発表し、イラクの統治体制が大きく揺らいでいる状況で、サルヒ師がシスタニ師の権威に公然と挑戦する行動に出たのは、混乱の中で自身の影響力を拡大させる狙いがあるためと見られる。
 スンニ派とシーア派の宗派争いに加えて、シーア派内の主導権争いが加わり、イラクの宗教戦争・宗派紛争は、深刻さを増している。

 次回に続く。

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