mixiユーザー(id:525191)

2014年01月05日09:08

27 view

人権77〜国家における国民

●国家における国民

 先に国家と主権について概要を書いたが、次に国民について述べる。国家には、領域、人民、統治権の三つの要素がある。これらの要素のうちの人民に当たるのが、国家における国民である。
 国家に所属する者を、国民という。西欧での近代国家形成においては、一定の地域を領土とした際、その住民が国民となった。それまで村落や都市のような地域的な集団に属していた人々が、国家というより大きな集団にも所属するようになった。
 国民とは、ネイションの訳語である。ネイションは、古代ローマ帝国において用いられた「生まれ」「同郷の集団」を意味するラテン語ナチオ(natio)を語源とする。ナチオは本来、郷土を同じくする集団だった。そのナチオが、17世紀の西欧において、近代的な国家・国民(nation)の観念と結びつけられた。共通の対象が、郷土から国家・国民へと拡大された。政治学者アンソニー・スミスは、ネイションとは「歴史的領土、共通の神話や歴史的記憶、大衆、公的文化、共通する経済、構成員に対する共通する法的権利義務を共有する特定の人々」と定義している。
 近代的なネイションが形成される過程で、そのネイションのもとになった集団が存在した。これをエスニック・グループ(ethnic group)という。血統または祖先、言語・宗教・文化・生活習慣等を共有し、「われわれは○○である」という自己意識を持っている集団である。ネイションを国民とすれば、エスニック・グル―プは民族である。
 ネイションとしての国民は、国家の総構成員または国籍の所有者をいう。これに対し、エスニック・グループとしての民族は、言語・文化・宗教・生活習慣等によって自他を分ける集団である。国民は政治的な集団であり、民族は文化的な集団である。
 西欧の封建国家は、国境が明確でなく、住民の多くに帰属意識がなく、一定の統治権はあるが主権ではない集団だった。これに対し、西欧の近代主権国家は、他国との明確な国境、国家に所属する国民、領域における主権を持つ集団である。ウェストファリア条約の成立時点で、それぞれの主権国家は、国境で区切られた領土を持ち、その区域内の住民は、形式的にはその国家の国民となったと考えられる。ただし、まだ、国民の多くには国民という意識がない。言語、文化、宗教等は多様であり、いくつかの民族(ethnic group)が併存・混在している状態である。こうした形式的な国民を実質的な国民に変えていくことが、国民(nation)の形成といえる。
 国民の実質化におけるポイントは、言語・文化の共有、法制度の承認、国民意識の育成である。これらを通じて、国民の言語的文化的な均一化・均質化、国民としてのアイデンティティの創出、忠誠心の優先的な対象の国家(nation)への移行等を行ったのが、形式的な国民の実質化だった。
 私は、ネイションの最も強固なあり方は、運命共同体としてのネイションであると思う。ネイションの最も強固なあり方は、運命共同体としてのネイションである。ネイションでありながら、複数の言語が使用される多言語社会、複数の文化が混在する多文化社会、複数の宗教が併存する多宗教社会、階級で利害が違う階級社会など、ネイションの実態はさまざまである。しかし、こうした違いを超えて、自分たちは運命を共有している、生死、存亡をともにしているという意識が、ネイションを強固にする。そして、運命共同体としての自覚は、侵攻・外圧・課税等、外からの力に対する防衛・反発において最も強まる。生死・興亡を共にする運命共同体となることによって、国民という集団が家族や氏族のような共有生命的な共同体と意識される。
 ネイションはアイデンティティの対象の一つであるから、それよりも強い求心力を持つ対象があれば、人々の帰属意識の優先度はそちらに移る。たとえば、エスニック・グループや結社、企業等の集団である。ネイションは国家と規模が一致することで、法による忠誠義務を課し、権力による強制を施すことができる。その点が他の集団と異なる。ネイションは、他の集団を私的なものとし、公的な秩序に組み込むことが可能である。そして、アイデンティティを序列化し、単なる政治的共同体ではなく、運命共同体となることができるか否かに、その興亡がかかっている。

 次回に続く。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する