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2013年02月01日12:01

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映像の向こう側(55)  潜水服は蝶の夢を見る

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 全身麻痺した作者
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 よく使う順に並んだ文字盤。読まれてゆく文字の選択は左目の瞬きで。
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 少し回復してきて、レストランでの高級料理を回想している。
 作者の目から見た、ぼやけた映像は拾えなかった。

 ジュリアン・シュナーベル監督「潜水服は蝶の夢を見る」2007 は、先にあまでうすさんから紹介されていたので関心を持っていた。映画の内容は、ファッション雑誌「ELLE」編集者のジャン=ドミニク・ボビーが全身麻痺(ロックトイン・シンドローム)にかかって、左目しか動かせない状態で書いた回想記を原作としている。
 華やかな生活から一転して、声は聞こえ左目が見えるだけの身動きとれない状態になったジャン=ドー(マチュー・アマルリック)は絶望するが、言語療法士アンリエット(マリー=ジョゼ・クローズ)の指導により、瞬きの合図でアルファベットを指示して文字を伝える方法によりコミニュケーションが取れるようになる。第一声は「死にたい」で、アンリエットをがっかりさせる。
 そして、もともと出版社から話のあった自伝に、編集者のクロード(アンヌ・コンシニ)を助手として取り掛かる。映画は、回想と現在の妻、子どもたちの見舞い、愛人や年老いた両親との電話連絡などで構成されている。

 いかにもファッション雑誌の編集者らしい映像感覚だと思うが、自身の状態を潜水服で海の中にいる状態にたとえている。そして、このさなぎのような状態から蝶になって飛び立ちたいと幻想するのである。
 左目がぼんやり見えるだけなので、視点が現在のジャン=ドーの時は、だぶったりぼけたりした映像で示される。変な言い方だが、それはそれで美しいのである。実際、リアリズム的世界だけでは面白くないのだ。
 
 回想の中には、愛人に連れられて行ったルルドの旅行がある。彼は全く信仰がないらしく、すべて馬鹿馬鹿しいのだが、愛人の方は、司教様に祝福された一品ものだ、とみやげ物屋にすすめられたマリア像をねだって彼に買わせる。それで、この愛人と別れることになってしまった。
 ところが、ルルドに行けば奇跡がある、とすがった誰かに(誰だか区別がつかないが編集者のクロードか)これまたいやいや連れて行かれる。フランス人の信心深さやルルド信仰が垣間見えておもしろい。

 自分の喉から食べられるようにはなったが、当然、流動食だけだった。それで、うまいものが食いたいと、愛人との回想だろうがレストランで大食いを始める場面などおかしい。

 回想などに現れる颯爽とした編集者姿。対比される顔の半分がマヒしてよだれをたらす現実の姿。この大きな落差を、療法士の献身や家族の愛情で乗り越えてゆく姿は感動的である。

 あらすじから想像されるような闘病記の重苦しさはない、というか、苦しさ絶望、三角関係に家族の悲しみなどいろいろな要素が、おしゃれに混ぜ合わされていると言うべきであろう。むしろ、原作者のもつエスプリやユーモア感覚が生かされているのに違いない。
 左目でぼんやりみえる光景はファンタジー的なのである。

 超現実的なものが見える人がいるが、怖いから見えない努力をしているという人もいるらしい。もったいないことである。宮澤賢治ならもう一つの現実として、童話や詩に取り込んでいたものなのに。それに、論理的リアリズムだけが本当の世界だという根拠はないのではないか。
 脱線したが、難局に当たってエスプリを忘れないフランス映画であった。不屈と見せない不屈の精神に感動した。
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