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2012年05月05日16:30

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映像の向こう側(24)  殻を分泌する人々

 NHKの大分発ドラマ「無垢の島」は、孤独な青年が社長の故郷の離れ小島に宝さがしにやってくる話である。青年は、地下水をペットボトルに詰める会社に勤務しているのであるが、ぼんやりして仕事が遅く友達もいない。懇親会の場で、社長から故郷の島には宝の伝承があると聞いたのである。多分、あてれば嫌な会社を辞められると思ったのだ。
 その島には、小学生の男子一人、女子四人の小中学校があり、しかも、来年には女子はすべて島を出て、男の子一人になるのである。これは事実で、このドラマはその子達をモデルとして製作されたものであった。
 男の子は祖母と二人暮らしで、彼の描いた無人島の絵には羊が一匹いるのだが、その子は羊に同情して悲しんでいる。つまり、この子の心象風景なのである。
 宝があるとされているのは、この島の隣の無人島であり、昔は羊を飼ったり畑もあったのだが今は誰もいない。
 宝探しなどとは誰にも言えず、また、何もしゃべらないので正体不明のままで青年は島に留まる。夏祭りがあって、提灯に灯がともる。その風景が懐かしい。昔広島にいたころ島に渡って見た景色と同じである。
 そこで、青年は「友達などいらないの」と言って、島の漁師に「自分のことばかり気に病んでいちゃだめだよ」と諭される。
 青年と男の子は気を許しあって、一緒に無人島を探検し、山の上に泉を見つけ携帯に写す。そしてそれを、入院した祖母に見せて、「もう心配しなくてもいいよ、ゆっくり入院してね」という。祖母は「心配させてよ、おまえだけなんだから」と抱きしめる。
 この、漁師と青年、祖母と男の子の会話が、この映画の主題を示していると思われる。
 孤独な人間が殻をやぶって他人と交わろうとすることがある。それはもてなし好きなこの離島や、(迎える心以外)何もない春の襟裳岬であったりと、昔からのモチーフではある。
 このドラマにも貝がたくさん出てきて、夕食になったり、むき身にする作業をしていたりする。この殻が第一のモチーフであろう。孤独の殻は貝が自身で分泌したものだから、また籠ってしまうことがある。
 第二のモチーフは、島の泉で、今は本土から水を運ぶが、かっては人が集まった場所。孤独を溶かす魔法の地。
 第三のモチーフは、島に取り残された(と少年が思っている)一人ぼっちの羊。孤独ではあるが、そのやわらかい毛がひとを引き付ける。
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