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2011年02月23日18:25

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小説の中の謎(68)  川辺の癒し

 ケネス=グレアム「川辺にそよ風」(原題the wind in the willows1908) は、息子アラステアが4歳から7歳の間に、せがまれて話してやったモグラ、ミズネズミ、アナグマにヒキガエルたちの物語である。これは今までに出版された童話の中で1位に推されているのを見たことがあるほどの古典中の古典である。しかし、これを最初に読んだとき、それほどのものかと怪訝な思いがしたものである。
 いったいどこが評価されているのだろうか。
 本筋は二つある。一つは、孤独だったモグラが川辺に住む生き物たちと友達になって行く話である。それまで穴の中にいたモグラが春の匂いに誘われて地上に出て、初めて川を見る。川は、「このなめらかで、しなやかで、大きな体をした動物は、追いかけたり、くすくす笑ったり、ザブンとものを飲み込んだかと思うと、・・・」というように見えた。そこで、川を愛する詩人、物知りで苦労性のミズネズミと友達になり、川の面白さを教えてもらう。
 彼の紹介で、ヒキガエル屋敷に住む、大金持ちのほら吹きで、金に任せて趣味に熱中して他のことは見えなくなるが、またすぐに飽きるヒキガエルや、原始の森に住む、気難しいが、そのことさえ承知しておくと、後は力強く信頼のおけるアナグマなどと友達になる。
 このストーリーでは、川辺や森などの自然描写とともに、気ごころが分かるまでの心理的な行き違いなども描かれている。ミズネズミがめすがもの歌を作ったときに、モグラにはそのよさが分からなかった。ミズネズミは「めすがもたちは、春を楽しめばよいので詩など作ることはない、と思っているだろうな」と、モグラに語りかけ、モグラが肯定すると、怒りだすのであった。
 もう一つのストーリーは、自動車の運転に熱中したヒキガエルが、スピード違反や数多くの事故のあげく、他人の自動車を運転して行って事故を起こして、窃盗罪で逮捕され、裁判にかけられる。ヒキガエルに同情した看守の娘は、ヒキガエルを自分の叔母の洗濯女に変装させて脱出させる。プライドの高いヒキガエルは、自分はブルジョワだなぜ召使などにと抵抗するものの、十何年もの懲役が待っていると脅かされて、しぶしぶ変装に承知する。その後、無一文状態で、自分の屋敷にたどりつくまでの冒険物語である。
 たぶん、息子のアラステアにとって、面白いのはこちらの方のストーリーであり、前者の方は、自然派、野外派の大人向けかもしれない。
 子供の時に孤独であったグレアムは、このモグラのようにここに登場する川辺の動物や、四季のおもしろさを満喫し、それを息子に伝えたかったのであろう。
 童話学者はたぶん、みな自然派なのであろう。今、親水公園やコンクリートでかためた川を自然状態に近くして魚を呼び戻そうとしたり、日本では川の公園化がすすめられている。四万十川の価値は、唯一残った自然堤防の川だからである。後はすべて、洪水対策第一の工事で、昔の川の面影はない。その意味でも、グレアムの童話は古典的価値がある。
 
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