小津安二郎監督が唯一東宝で撮った映画『小早川家の秋』が「午前十時の映画祭」にかかり、見て来ました。
デジタル版で所有はしていますが、スクリーンでは初。
小津監督のフィルモグラフィの中でも好きな作品なので、この上映は実にありがたい。
1961(昭和36)年、宝塚=東宝映画。アグファ・カラーのスタンダード・サイズです。
【物語】
京都の造り酒屋、小早川家。
隠居同然の当主の万兵衛(中村雁治郎)が、かつての愛人(浪花千栄子)とよりを戻しつつあるのを、長女の文子(新珠三千代)は良く思わない。文子の夫(小林桂樹)はよく働くが、大手の酒造メーカーとの合併を考え始めている。
次女の紀子(司葉子)は、想いを寄せていた同僚(宝田明)が札幌へ異動になり、亡くなった長男の妻・秋子(原節子)に相談を持ち掛けている。その秋子にも、鉄工所を経営する英一郎(森繫久彌)との縁談話が持ち上がる。
…小津監督の作品群の中でも、死生観が強く出た作品。
ラストの葬儀のシーンでは、墓石の上のカラスなどが象徴的に挿入され、農夫婦の笠智衆のセリフからも、死に対する無常な感覚が伝わってきます。中村鳫治郎の好々爺や、東宝を代表するコメディアンの森繫久彌、浪花千栄子らによってユーモアもたっぷりの作品ですが、笑いと死が紙一重であるかのような痛烈な作品です。
それ以上に、この映画は製作当時のエピソードが豊富で、それだけで1本の伝記映画が作られそうなほど。東宝が全社を挙げて迎え入れた松竹の巨匠監督、小津に気に入られた新珠三千代や小林桂樹、一方で小津と対立した森繫久彌の話などがあり、当時のスタッフ・キャストの緊張たるや、尋常ではなかったと思われます。
4Kリマスターの映像は非常に美しく、ぜひ4K UHDマスターでリリースして欲しいところ。
こんな映画を見せられては、凡百の新作映画はまったくもって敵いません。
★★★★★。
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