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2019年03月08日22:30

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俳優としての集大成 『運び屋』

御年89歳のクリント・イーストウッドが監督・主演を務めた映画『運び屋』を見て来ました。

麻薬カルテルの運び屋を逮捕したら90歳近い老人だったという衝撃の実話を基にしています。

これは凄い映画です。


【物語】
園芸家のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は、長年にわたってユリの栽培に生涯を捧げてきたが、商売に行き詰まり、家や農場を差し押さえられてしまう。1人娘のアイリス(アリソン・イーストウッド)の結婚式さえ仕事で出なかったアールは、家族からも疎遠となっていた。
金に困ったアールは、ふと知り合った男から紹介された、「ある物をクルマで運ぶだけで儲かる」仕事を引き受け、大金を得る。一回切りにするつもりだったが、事故歴も違反歴もないアールの運転は高く買われ、運び屋の仕事を何度も引き受けることになる。積み荷は麻薬であった。
一方、麻薬取締官のベイツ(ブラッドリー・クーパー)は麻薬カルテルの検挙のために奔走していたが、実体が不明の運び屋をどうしても逮捕できないでいた。


…この老人の運び屋は、クリント・イーストウッドにしか演じられない役です。

仕事のせいで家族に見放され、金もなく、どうしようもない老人で(しかし眼光は鋭く、体は老いていても魂は老けてないのがいい)。あの年齢になると社会に対して無敵になるのか、相手が麻薬の売人であってもクチの利き方に容赦がない。大量の麻薬の運搬を何度も成功させ、次第に売人たちにも一目置かれる存在になっていく前半はユーモラスです。

しかし後半、それまでの組織のボス(アンディ・ガルシア)から若手にボスが変わると、組織は残虐さを見せ始め、映画の緊張感も高まります。

そんな中で知り合う捜査官(ブラッドリー・クーパー)と、早朝のダイナーで交わす男同士の会話の良さといったら!この時2人は互いに素性を知らないので、本気で語り合うのです。

クライマックス、やっとの思いで逮捕した運び屋がダイナーの老人だったと知ったときの捜査官の表情。驚きと哀しみ、哀れみを一気に表現したブラッドリー・クーパーの高い演技力(『アリー/スター誕生』より断然こちらの方がいい)。

そして、逮捕された運び屋が静かに語ります。「おれは今まで家族をないがしろにして走ってきた。やらないといけない事があったからだ。でも今は、家族に謝りたい」

50年間、第一線で映画を作り続けてきた男の、俳優の、監督の、絞り出すように漏れたセリフからは、劇中の主人公と映画人としてのクリント・イーストウッドの姿が重なって見えて、目頭が熱くなりました。実の娘アリソン・イーストウッドを劇中の娘役にしたのにも、意図がありました。

監督作としては『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』の方が評価が高いのかもしれませんが、俳優としてのクリント・イーストウッドは、ここに頂点を迎えました。彼にしかできない、彼だけの役でした。

そこには、映画の世界で生きてきた俳優としての重みがあります。

もちろんその頂点は、さらなる高みを目指して欲しいと思うのは当然。集大成として括るのも、まだ先であることを大いに期待したいです。


★★★★★。目下のところの今年の映画No.1です。


※余談ですが、最近の映画パンフは内容の薄っぺらいものが多い中、この映画のパンフは読みごたえがあります。山田洋次監督の感想、町山智浩のイーストウッドへのインタビューや、原作となったニューヨーク・タイムズのコラムもそのまま収録されています。
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