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2023年09月10日19:28

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赤いやかんと大泉洋 『こんにちは、母さん』

ここ数作は、高齢もあってかピンとくる作品が少なかった山田洋次監督ですが、最新作『こんにちは、母さん』は違いました。近作では一番いい、山田洋次監督作でした。

イメージを変えた吉永小百合も良いのですが、ここはやはり大泉洋、この稀有な俳優の存在が大きいです。

【物語】
東京の下町。
老舗のたび店を営む福江(吉永小百合)は、夫を亡くし、息子の昭夫(大泉洋)も独立したため、独りだった。でも地域のボランティア活動に取り組むメンバーたちと一緒に楽しい日々であった。
その昭夫は大会社の人事部長という出世頭だったが、同期入社の友人・富幸(宮藤官九郎)がリストラの候補になったことや、妻との別居、娘との距離とで悩んでいた。
ある日、母の福江が教会の牧師(寺尾聰)に恋をしていることを知り、昭夫は衝撃を受けてしまう。

…この映画、山田監督が若い頃は嫌っていたという「小津的なもの」であふれています。
吉永小百合の愛用のやかんは赤色で、都市を切り取って見せたアングルは小津的、イマジナリー・ラインを破って見せる演出も極めて小津的です。老巨匠の、大先輩へのオマージュと尊敬がここまで込められた作品は初めてではないでしょうか。

一方で、山田監督の演出と見事な化学反応を起こしているのが大泉洋です。
やっていることは滑稽で笑えるのに、その土台には哀しさがあるという、これはかの渥美清を思い起こさせるほどで、渥美と大泉とではタイプも世代もまったく異なるのに、これが山田組初参加と思えないほど映画の世界に調和しています。

大泉洋演じる昭夫がせんべいを食べながら、心の底からせんべい屋をほめるくだり。
見ている方は笑えるのに、ちゃんと主人公の哀しさがある。そこが良かった。

夕方、電気の消えてる部屋で吉永と大泉の親子が佃煮をつまみながら酒を飲む。
こんなシーンが令和の今に見られるとは思わなかった。

古いものを新しいものを上手に溶け込ませた、これはまごうことなき山田洋次監督作品。
その演出には迷いがなく、古さは微塵もありません。今見るべき映画でした。

★★★★。
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