最近はターミネーター批判とか、『インサイド・ヘッド』の本編前PV死ね!などと新作映画への文句ばかり述べてる気がしますが、こういう正しい映画もちゃんと見ているのです。
名匠・小林正樹監督がTVドラマとして映像化(1972)したものを、劇場公開用に再編集した『化石』(1975)を見ました。原作は井上靖です。
1975(昭和50)年の公開時より長いフィルムが発見され、ディレクターズ・カット版とされた全長版です。BS日本映画専門チャンネルで見ました。
上映時間3時間42分という大長編ですが、長さをまったく感じさせませんでした。傑作と思います。
【物語】
建設会社の社長である一鬼太治平(佐分利信)は、秘書の船津(井川比佐志)とともに仕事を兼ねた旅行でパリを訪れる。体調の不良を感じた一鬼は、パリの病院でガンと診断され、余命もわずかであることを知らされるが、現地の日本人(山本圭)夫妻とマルセラン夫人(岸恵子)とともに小旅行をし、死を覚悟した上での安らぎを得る。
帰国した一鬼は、死神(岸恵子・二役)の幻影に脅かされつつも、家族や友人らとの交流の中である決心をする。
…佐分利信が好きです。
『獄門島』の和尚だったり、『華麗なる一族』『日本の首領』の財政界の黒幕のような、大作映画の顔のようなイメージが強かったのですが、小津安二郎の作品や、去年東京で見られた『自由学校』の珍役を見て、すっかり好きになりました。
この映画では、ガンによる余命を知ってしまった男が、パリ旅行と日本での知人たちとの交流を経て、生き方に変化が起きていく様子を、静かに静かに演じています。見ている方は常に佐分利信の目のフィルターを通す訳で、佐分利信好きとしては非常に興味深いものでした。
その他の配役も、今では考えられないぐらいに豪華です(これが元はTVドラマだったというのが驚き)。
佐分利信の前に現れるマルセラン夫人と死神の2役に岸恵子。死神のときに、黒い和服の喪服を来てパリに現れるシーンはシュールですが美しいです。
佐分利信の娘役で、小川真由美と栗原小巻。義理の母役に杉村春子。
終盤で現れる、かつての仕事仲間に宮口精二、昔の戦友役で宇野重吉。
映画界・演劇界の重鎮ばかり。それなのに大作然としていない。これはTVドラマの映画編集版だからという訳ではなく、小林正樹監督の抑えた演出によるところでしょう。
武満徹の、映画に静かに寄り添うような音楽も非常に良かった。
16ミリフィルムの粗い映像と、枯れたようなパリの情景も印象的です。
人間、死を覚悟して向き合うということの難しさよ。
★★★★。
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