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2022年08月09日11:30

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戦略論40〜マハンの思想・影響・地政学

●マハン(続き)

◆思想

 マハンが『海上権力史論』を発表した時、当時の『ザ・タイムズ』誌は、マハンを「新しいコペルニクス」と報道した。海を制することは、それまで体系的に評価されたことも、説明されたこともない歴史的要素だと認識されたからである。
 マハンは、(1)海上貿易は大国の経済発展にとって必須である、(2)国家が自国の貿易を保護しつつ敵国のそれを遮断するための最も良い方法は、海上優勢(naval supremacy)を保持することを可能にするような戦艦で構成された艦隊を配備することである、(3)海軍によって海上優勢を確立した国家は、自国よりも軍事的に強い国でさえも打ち負かすことができるようになるーーという3点を主に強調した。
 その主張の核心にあるのは、制海権の確保である。マハンは、敵艦隊を見つけ出して打ち破り、それによって制海権を勝ち取ることを力説した。制海権とは、command of the sea の訳語である。commandとは、敵の支配下にある重要な海域を一掃、もしくは敵をほとんど逃亡者の如きにせしめる「傍若無人の権力(overbearing power)」である、とマハンは定義している。また、その制海権を永続的かつ全体的に拡張することが可能だと考えた。そこから、マハンは、海軍の理想的な目標を敵海軍の殲滅だとした。
 マハンは、こうした主張をもってシーパワーの概念を打ち出し、海洋に関わる戦略理論の基盤を構築した。その海軍戦略は、大海軍の建設、通商の拡張、制海権の掌握、海上封鎖の効果、海外基地・植民地の獲得等を包含し、強い海軍力を持つ国家の建設を目指すものである。
 マハンは、大英帝国の興隆に範を採って、海洋戦力が国家や歴史を動かす決定的要素の一つであると強調し、大海軍主義を唱道した。マハンは、当時北米の地域大国に過ぎなかった米国が海外に発展するために必要な国家目標を明確に示した。大英帝国に匹敵する強国となるための国家方針を打ち出した。
 マハンに対しては、海軍万能主義・海洋至上主義という批判がある。海軍と陸軍との連携、軍事と外交との総合という発想を欠き、海軍の強化に偏った思想だという批判である。だが、次に書くように彼の主張の影響には、非常に大きなものがある。

◆影響

 マハンの主張は、米国ではセオドア・ルーズベルト大統領などに海外に進出する「遠大な政策(large policy)」の理論と戦略を提供した。米国は、マハンの理論に基づいて、パナマ運河やハワイ、グアム、フィリピンなどを支配下に入れていった。米国が第1次世界大戦に勝利すると、マハンの理論は勝因として賞賛された。第2次世界大戦にも勝利した米国が超大国に成長し得た理由の一つは、米国がマハンの理論を採用して海軍強国となったことに求められる。今日もマハンの戦略思想における海軍戦略の基礎的原則は、アメリカ海軍の兵学思想の中核をなすものとして重視されている。
 マハンは、英国・ドイツなど帝国主義的な海外進出を進めていた国々にも、大きな影響を与えた。特にイギリスの帝国主義者の代表的存在であるセシル・ローズや軍事学者ジュリアン・コーベット、ドイツの皇帝ヴィルヘルム2世への影響が知られる。
 旧日本海軍の兵学思想は、マハンの影響を最も強く受けた。日本の海軍史や海軍戦略の研究を進め、「日本のマハン」と呼ばれた佐藤鉄太郎や、日露戦争における連合艦隊の作戦参謀だった秋山真之は、米国留学中にマハンに学びその影響を受けた。

◆地政学との関係

 第3部で地政学の基礎的研究を書くが、地政学の理論と歴史を書いたものの多くは、大陸国家系の地理学者・政治学者の系統を示したのちに、海洋国家系の系統を示す。マハンは、後者の系統のはじめとされるのが通例である。それゆえ、マハンは戦略論と地政学をつなぐ結節点になっている。
 マハンの主張のうち主に地政学に関することは、第3部に譲る。

 次回に続く。

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