著者は1957生。京都大学経済学部卒、京大人文研助手を経て京都造形芸術大学教授。
１枚目 アメリカのラストベルト 村尾信尚NEWSより
２枚目 禅画 四代目松山作「騎牛帰家」 大津絵の家より
３枚目 ドゥルーズとガタリ 浅田「逃走論」に写真がなかったので失礼ながら代用した。
写真はネットから
本書はドゥルーズとガタリの共著の「アンチ・エディプス」と「ミル・プラトー（千の台地）」の解説書であるが、発売当時は大評判で私も読もうとしたのだが挫折。それで退職後になってブックオフで買ったのだがダメで、今回は三度目の正直で、先に木田元を読んだ勢いで、そう言えばハイデガー以後も読もうと思ったのである。
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１．逃走の勧め
�‘�走する文明
男たちが逃げ出した。家庭から、女から。女たちや子供たちも、先に逃げた方が良い。行く先なんてどうでも良い。
人間にはパラノ型（パラノイア・偏執型）とスキゾ型（スキゾフレニー・分裂型）がある。パラノ型はケチケチして、ため込もうとする。彼らは「住む文明」（定住社会）を作る。
スキゾ型は一瞬にすべてを賭けるギャンブラー型。彼らは違いがわかる（差異化）から逃げる。定住して子孫を育てない楽しいゲイ社会人である。
企業活動の基本は追いつき追い越す蓄積運動である。
★海風注：追いつき追い越そうとするのは日本のような後進資本主義国で、今は中国がその典型。対して、アメリカン・ドリームは違いを求めて技術革新・先駆者利益を獲得しようとするもの。マルクスが言うように、新しい商品は命がけの飛躍をするのである。むろん、売れると分かった品を安く作ってもアメリカン・ドリームはない。
確かにマルクスが資本主義の担い手の典型としたロビンソン・クルーソーは蓄積型だし、マックス・ウェーバーのプロテスタントも日曜日（神に捧げる安息日）を嫌う勤勉・蓄積型だった。
著者・浅田のハイな饒舌は、1965―1970年代末にアメリカで流行したヒッピーを思わせるのだが、ヒッピーへの言及なかった。本書は1980年代に書かれたものなのだが。
��父の重々しい権威と母の豊かな包容力
ドゥルーズとガタリの「アンチ・エディプス」は、狂った専制君主と近親相姦の泥沼の母子からなる社会を退ける。
近代社会は、母子の合一を禁じられた息子が父に追いつき・追い越すために努力するように仕向けられた装置を内蔵している。
スキゾ・カルチャー
少年マンガはプロが大衆向けに書く「大衆芸術」であるのに対し、少女マンガは大衆の一員が自分向けに書く限界芸術（同縁芸術）の色彩が強い。
（弘兼憲史と柴門ふみのことか？ そう言えば、半沢直樹は課長島耕作の影響を受けたのだろうか？）
★海風注：
意思決定するのは、理性であるべきだが、実際はコンプレックスに支配される深層意識も含んだ全体によっている。たとえば、カミュの「異邦人」は、植民地のアラブ人への恐れと憎しみが過剰防衛を誘発させた。理性で考えても、何故そこまでやったのか理由が分からなかった。（プーチンのウクライナ侵略もコンプレックスが潜んでいるとの説もある）
ドゥルーズとガタリは、近親相姦的家族は流動性がなくなって、場合によっては何百年でも一族が住み続けることを危惧するらしい。
アリソン・アトリー「時の旅人」では、400年前のエリザベス１世の時代にタイムスリップした少女が、貴族の屋敷の女中頭に親戚の子がやって来たと誤解されてかくまってもらう。日本でもそんな一族は今でも多いだろうと思う。
真面目に考えて、なぜ浅田やドゥルーズとガタリが流動性（彼らの言う逃走）を重大に評価するのか分からない。
アメリカ型は転職によってキャリアを上げていく。実際に雇用側も優れた技術や知識を持った転職者を歓迎する。つまり、高学歴の中産階級にとっては、ドゥルーズとガタリに言われるまでもなく転職（逃走？）は昔からの慣習だった。
一方、日本は。終身雇用の定職を理想としていたので困惑するだろう。むろん、リクルートなどのコマーシャルでは、今の会社でいじめられるのに我慢をする必要はないと転職をバラ色に描いている。
ただし、アメリカでもトランプを大統領に押し上げたイリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニアなどのかっての工業地帯は錆びついたラストベルトと呼ばれて、転職も移住もしたくない人びとの存在をあからさまにした。
２．対談 ドゥルーズとガタリを読む 今村仁司・浅田彰
１）今：二人の共著の「アンチ・エディプス」と「ミル・プラトー」を中心とする。
精神分析と社会分析（精神分裂と資本主義）に関する議論をする。
まず、特異なキー・タームの用語解説から。
�＼�：レヴィ＝ストロースの構造主義は冷たい社会（変化のない原始社会）を調査対象として理論化されたもの。
一方、ドルーズとガタリは熱い社会（資本主義社会）の運動を対象にしている。このダイナミズムをさらに多様化・多形化していく戦略としてスキゾフレニー（精神分裂病、統合失調症）という概念を持ち込んだ。さらに、もっと以前の社会形態・人類史にも適用するために、「生成変化」や「諸機械」という概念を導入した。
浅：フロイトは精神分裂病を嫌って、ファミリー中心のエディプス精神分析理論を作った。
しかし資本主義のダイナミズムをさらに発展させるためには、スキゾ・プロセス（分裂病分析）が必要となる。
★海風注：
中世的な職人仕事は質の向上を追及するが、資本主義的な商品は新しさによって需要を創造して発展する。つまり過去と手を切る精神が必要で、精神分裂的気質の人間に向いているわけである。
浅田はスキゾ・キッズという表現で、「気の変わりやすい子供」を新資本主義の典型的担い手として提案した。対して、マルクスは執着する（パラノイア）ため込み型のロビンソン・クルーソーを（大資本が必要になる重工業を柱とする）産業資本主義の担い手としていた。
ところで、ドゥルーズはスキゾフレニー型を提案したが、それをキッズ（子供）とは言っていないと思う。このキッズの表現が浅田の独創に違いない。で、本書はベストセラーとなった。
�∪�：ドゥルーズの哲学は、「ある」の哲学ではなく、「なる」の哲学である。
二物の弁証法的展開というのはあまりにも抽象的なので、現実に「構造」の外に漏れる残余があり、それが「構造」を組み替えている。その過程を説明するために「機械」という概念が導入された。
浅：弁証法は、たとえ終わりなきバタイユのような弁証法でも、拒否する。弁証法が生成を存在に従属させるからです。
★海風注：
木田元によれば、「ある」のは創造神が「作った」のか、それとも自然に環境と応答しながら生成発展し進化して「なった」のか、二つの根本的な考え方の違いがあって、ニーチェやハイデガーは「なる」、「生まれる」方を選んだとのことだった。
で、弁証法はプラトンにせよ、ヘーゲルにせよ、創造神を前提にして、神が作ったのだから、神に与えられた理性を宿す人間に解けないことはない、という推理法（個人の、集団の）である。
しかし、生命の進化の過程というものは、一部は分かってきたものの、（多様な生命体と多様な環境の相互作用の）全過程が分かるはずのないものであろう。
ところで、ドゥルーズが「機械」を重視するのは、人体の器官も取り換え可能な部品のように扱われるようになってきたからであろう。しかし、最終的にはリゾーム（根茎）が伸びるイメージや遊牧民が移動するイメージに収斂していくので、「生物」イメージへ集約される。彼らは、この世は「なる」という原理を選んだわけで、当然のことだと思っている。
�∈�：諸機械、諸力の意味は、エネルギー源によって構造が動く、というものではなく、構造とエネルギーが一体として、そして諸機械が全体として活動する。常に、流動しているというイメージである。非常に流動的で、差異の流動的プロセスをあらわしている。
あるいは、器官なき身体とも言っている。
浅：だから「リゾーム（根茎）」になる。生成変化し続ける錯綜した網状組織。
あるいは、機械が活動して生産が結果するのでなく、機械と生産が一体になっている。
舞踏家アルトナン・アルトーのいう「器官なき身体」とは、舞踏の極限状態の中ですべての器官が使い果たされた後に生じるプラトー（高原）状態を言う。
★海風注：つまり、ハイ状態。薬物によるのでない舞踏によるナチュラル・ハイ状態をめざすのだろう。私が、浅田からヒッピーを連想するのは、こういう陶酔的一体感が強調されるからである。
��浅：国家というものは、超コード化のメカニズムを抑圧的国家装置というかたちで現実化し、その働きによって原始共同体を自分のユニットとして組み込み、さらに交通や都市のシステムを制御していく、そういう王や神官を頂点とする巨大ピラミッドとしてそびえたつ。
ところが、それを突き崩す動きが出てくる。それが遊牧の民と彼らの戦争機械だという。
システムを崩そうとする（弁証法に反する）非ヘーゲル的な歴史観がみられる｡
今：リオタールがうまく言っている。近代資本主義経済はポリスのエコノミーで、もうひとつリビドーのエコノミーがあると。マルクスとフロイトが一体にならなければならない。
★海風注：花伝書は「物数を極めて、工夫をつくして後、花の失せぬところをば知るべし」という。弁証法も物数を極めて、工夫をつくす一手段なので、それで花の命が失われるわけではない。この世の生命も歴史も、一言で言えば「なった」のだが、切り刻むような分析をして、顕微鏡を作って観察するのであって、「なる」は上位概念で、「作る」は下位概念として併存している。
２）スキゾ・プロセス 絶対的脱コード化
今：一応概念装置、哲学的、社会論的レベルにおける用語法の解説は終わる。つぎは、これらを駆使して、ドルーズとガタリは、過去だけでなく、近代・現代という時代を深いところからとらえ直していく。
�＼�：最終的には解放への展望をいかに得るかにかかわってくるのだが・・・資本主義というものは反乱が日常的に起こり、それによってシステムが日常的に組み替えられてゆく（脱コード化メカニズム）というダイナミズムを本性として持っている。
したがって、秩序と混乱の弁証法という形では資本主義革新の見通しを得ることはできない。
資本主義の脱コード化は相対的なものに過ぎず、一定の方向に回路づけられ搾取されている。絶対的脱コード化とは、ユートピアを目指すスキゾ・プロセスです。
スキゾ・プロセスとは水路づけを撤廃したウルトラ・資本主義です。
★海風注：
長い目で見れば、新しい環境に適応できない会社は破綻するが、その隙間を新しく起こした会社がうめていって発展するのが資本主義だが、大恐慌の時は新しい会社がなかなかできない不況が続いた。で、今日明日の衣食住がなくなると生きていけなくなるのが人間の条件。
浅田の言うように、ウルトラ・資本主義のユートピアを目指しても、「今日明日の生活」が障害になるので、ユートピアは無理だろう。
浅：弱者は今までも逃げ回ってきた。戦争になれば逃げるが勝ちで、逃げ回ることで歴史を動かしてきた。
レヴィナスのいう出エジプトにみられる脱属領化と逃走の思想にエッセンスがあるが、ハイデガーのナチズムに共鳴したゲルマンの森の思想とは徹底的に異質である。
★海風注：モーゼは逃げ回っていたのではないだろう。確かに、当時のエジプトに勝つのは不可能だったが、弱い部族しかいない豊かな新天地を目指して戦ったのである。
匈奴などに追われたフン族（その名残がハンガリー）はゲルマン民族にぶつかってゲルマンの大移動・大逃走を引き起こして西ローマ帝国を滅ぼしてしまった。
同様に中国北方にいたトルコ族は西へ向かってアナトリア現トルコ高原に至り、セルジュークとオスマンの二大帝国を作った。浅田には逃げ回っただけで歴史を動かした民族を教えてもらいたいものである。
ゲルマンの森と言っているのが良く分からないのだが、初代皇帝アウグストスの軍を惨敗させてゲルマニアの独立を守ったトイトブルクの森の戦いのことなら、確かに逃げながら北方の大森林に誘導して自分たちを包囲させ、そのローマ軍をさらに外から囲んで、何も気づかずに内側に一斉攻撃したローマ軍を壊滅させた。
まあ、ワンダーフォーゲル運動のことかもしれないが、これもトイトブルクの森が前提になったに違いない。
�∈�：ノマド（遊牧民）が、多様性の中に近代資本主義の個人主義（パラノイア、偏執病）を乗り越える自由論や個体理論の展望が開ける。
（マルクスの）プロレタリアはカネッティのいう多数性・画一性を特徴とする「群衆」である。対して、「群れ」は少数性・多様性を特徴とする。
しかし下手をすると（アナーキーな）狂気に陥る危険がある。そうなると資本主義こそが次善の策だとなってしまうが、スキゾ・プロセスには具体的な策がある。
★海風注：
現実的な策が書いてあったとは思えないのだが？
いずれにせよ、従来の機械的・重工業的イメージを覆して、生物的イメージで未来社会を描こうとした気持ちは分かった。
�供．泪襯�スとの関連
１．マルクス主義とディコンストラクション（デリダの用語で脱構築 一旦解体して再構築する）
�．侫�イエルバッハは類的存在を前提とし、彼を批判したマルクスは交通を重視した。
閉鎖的で陰鬱なドイツを出てパリに来たマルクスは、自身をコスモポリタンな世界市民と自覚した。パリの社会主義者や労働者たちは、多種多様な運動体に見えたのである。
�∨槓�の日本銀行券は贋物だった。
★海風注：確かにインフレは江戸時代の貨幣改鋳に似ている。しかしインフレは新しく始める企業家の資本調達や返済を容易にするので、経済活動が活発になり景気も上向くという効果がある。だから日本政府は２％のインフレを期待しているのだが、今のウクライナ危機による石油高によるものではダメ。需要の増加によるのでなければならない。
ということで、適度なインフレは必要なのだが、著者の浅田が何を言っているのか意味不明だった。
２．（共同討議）マルクス・貨幣・言語 柄谷行人・岩井克人・浅田彰
岩井：自分は非常にまじめな新古典派の経済学者だった。しかし、新古典派は価格や市場機構がうまく動けば経済は安定すると言いながら、価格がどう動くのかを説明できなかった。一方、マルクスは古典派経済学から出発したが、古典派が無視していた価値形式（体系）を解明しようとして、価値の体系が本質的に逆説的であることを発見した。
私と似たような問題に行き当たったということでマルクスに共鳴していた。
★海風注：
浅田は良く分かっているはずだが、資本主義は自然になったのであって、だからドゥルーズも生物学のイメージで新しい社会を描こうとしている。
生命・生物発展のモデルである進化論は、まだ科学とは言えない状況だし、そもそも科学になりそうにない。だから何が、何故価値（科学にならない）なのか。それがどういう論理で価格（数学・科学の対象）に転ずるのか分からないはずである。つまりマルクスは空想（価値）から科学（価格）への法則を発見できなかったし、むろん岩井氏にも誰にも無理でないのか？
★海風：まとめ
今後の社会が、情報、コンピュータ―、ネット、デジタルが主流になることは間違いない。これらの手段を駆使するのに、必ずしも定住は必要ない。
また、国際化の進展に伴って、英語のような世界語や有力な外国語を駆使できる人が重視される。
そもそも中世のヨーロッパ諸国の共通語はラテン語であって、貴族たちはラテン語が分からなければ宮廷で仕事にならなかった。ということで大学も早くにできたに違いない。
日本人でも外交官や商社マンの子供（帰国子女）は自然と外国語を覚えて国際人になる・なれる。
この現状を見れば、将来の人間像として遊牧民を提案するドゥルーズはズレた人に違いない。浅田もキッズ・子供を提示する（確か、禅の理想像もニーチェのも子供だったような？）が、確かに子供の方が適応しやすいのは間違いない。
まあ、ズレるのも空気が読めないのも統合失調の特徴には違いないとはいうものの、あまりにも単純化した二元法だろう。
ところで、それでも職人仕事の価値は下がらないし、これは執着しないとできない仕事。それに浅田も哲学の勉強に執着したはずなのだが。執着しないと何ものにもなれないと思いますけどね。
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