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2021年12月15日09:02

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日本の心37〜忠義と融和:足利尊氏と南北朝時代

 後醍醐天皇による建武の中興は、多くの武士に不満を抱かせるものでした。そうした不満を背景に、反乱が起こります。中心となったのは、足利尊氏です。
 尊氏は鎌倉幕府を裏切って天皇側に付いたのですが、天皇の不徳と失政を見て、今度は天皇の政府を見切って反旗をひるがえしたのです。一度は京都に攻め入りますが、新田義貞の反攻を受けて、九州に敗走します。そこで尊氏は敗因を振り返り、「我が国では、天皇を担いでいない者は敗れる」ということを悟りました。
 尊氏は、皇室の権威を利用しようと、後伏見上皇に院宣を願い出て、これを受けました。「錦の御旗」を立てて尊氏が九州から西上すると、諸国の武士は次々と尊氏軍に付きました。朝廷の権威は両軍にあるとなれば、あとは実利の問題です。勢い武士たちは、利を期待できる尊氏の側に集まったわけです。この時、京都を目指す尊氏を湊川で迎え撃ったのが、楠木正成です。しかし、多勢に無勢、さしもの英雄・正成も自害して果てました。
 京都を制圧した尊氏は、光厳天皇の弟である豊仁(とよひと)親王を天皇に擁立し、光明天皇としました。即位は延元2年(1337)12月28日。後醍醐天皇という正統の天皇がいるのに、別の天皇を立ててしまうのです。ただし、後醍醐天皇が大覚寺統で皇位を独占しようとしたのに対し、時明院統の天皇を擁立したわけですから、その点では、後嵯峨天皇以後の複雑な両統の関係が表われているともいえるのです。
 尊氏の攻勢に押された後醍醐天皇は、京都を離れ、吉野山に逃れました。こうして建武の新政はわずか3年で崩壊しました。しかし、後醍醐天皇は、あくまで皇位の正統が自分にあることを主張したので、ここに吉野の南朝と京都の北朝が並立する状態となりました。それぞれに天皇がいて、異なった年号を用いているという異常な事態です。
 擁立した天皇から征夷大将軍の任命を受けた足利尊氏は、京都の室町に幕府を開きました。尊氏は、後醍醐天皇に、「三種の神器」を譲渡するよう申し出ますが、後醍醐天皇としては神器を渡し幕府を承認することは、武力に屈して反逆を認めることになります。それは、道義を否定することになります。それゆえ、後醍醐天皇は、どんなに苦しくても幕府を承認しませんでした。そして、わびしい山中の生活の中で帰京を夢みつつ、延元4年(1339)に没しました。
 さて、ここで尊氏の行動には、不思議な点があります。尊氏は軍事的には優勢であるにもかかわらず、後醍醐天皇を討つことまではしないのです。後醍醐天皇の死後も、尊氏は、南朝の天皇を滅ぼそうとはしません。しかもややこしいことに、足利方では、尊氏と弟の直義との対立や家臣間の抗争があり、この内部問題の有利を図って、直義が南朝に講和を申し入れてみたり、なんと尊氏自身も南朝に和睦を申し出たりします。南朝側はこれを断りましたが、再び尊氏が天皇親政を提案したり、一時は南朝が完全に勝利したと見えるところまで行って、また元に戻ったりと複雑な展開が続きます。
 そもそも北朝の方は、本来の都にあり、公家のほとんどはそこにおり、幕府もあるのですから、総体的には優勢です。時がたつにつれ、吉野山中の南朝は、しだいに追い詰められていきました。そしてついに、元中9年(1392)、後亀山天皇が後小松天皇に「三種の神器」を譲るというかたちで、南北両朝は統一されます。並立してから57年後のことでした。南朝は、ぎりぎりのところで正統性を認めさせましたが、実を取ったのは北朝側でした。統一後は、北朝系が南朝系に皇位を渡さなかったので、以後の天皇はずっと北朝系で今日に及んでいます。
 徳川光圀が編纂させた『大日本史』は南朝を正統とし、幕末の勤王思想に多大の影響を与えました。光圀は楠正成を顕彰し、正成は忠義の美徳の象徴のようになりました。そのため、南北朝時代は大変複雑な性格を持っていますが、このような困難な時代があったにもかかわらず、皇統はとぎれることなく継続しました。またこの時代は、後世の武士にとって、武士のあり方を問い直す時代となったのでした。
 南北朝時代を語らずして、武士道を語ることはできません。

 次回に続く。

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